もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

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五年後

閑話休題 ゲイルと公爵3

フィオと戦利品を伴って部屋に戻った俺は、机の上にドンと酒瓶を置き、宣言した。

「さあ、語り明かそうぜ!ほら」

落ち着かない様子で、そわそわと腰を浮かしていたフィオにグラスを渡してやれば、苦笑しながらも大人しく受け取る。
お互いのグラスになみなみと酒を注ぎ、掲げた。

「サフィの閨……ごほん、あー……大人への成長を祝って!乾杯!」
「ああ。サフィラスの成長を祝って、乾杯」

ぐぐっと一息に飲み干せば、おもいの他強い酒精に喉がかっと焼けた。

「……くーーっ!!効くな!
てかお前、なに涼しい顔してやがるんだ。意外と酒に強えんだよなあ、お前」
「ふふふ。そういうゲイルは、酒好きの割に意外と酒に弱い」
「言ったな?この野郎!」

テーブル越しにガシガシと整った髪をかき回してやれば、嫌がるでもなく面映ゆそうに大人しく頭を差し出してくる。
うん。そう来たか。
じゃあ、遠慮なく………

指の隙間をサラリと撫でる銀糸はシルクのよう。そのしっとりとした冷たさが、酒に火照った指先に心地いい。

この綺麗な銀髪が、一時は色も艶も失い、ろくに櫛も通されずボロボロになってたんだよなあ……
どんだけ心を閉ざしていたんだよ、こいつは。
俺まで拒みやがって。
その結果があの痛ましい出来事か……。

想いにふけるうち、乱暴にかき混ぜていたはずの指先の動きは、いつのまにか優しく髪をもてあそぶものに変わっていた。

「……ゲ、ゲイル……その………離して貰えるだろうか?」
「ん?あ、ああ。すまん。つい……」

てか、何だよその困ったような上目遣い。
怜悧だのクールだの言われる美貌もカタナシだぞ?
頬染めちまってさあ、可愛いなおい。
こうしてみるとサフィと似ている……ところがあるような気がしなくも……
いや、ねえわ。サフィの成分の大半はサフィールだな。

コイツの方が繊細で、弱くて、でも開き直ると存外な強さを発揮する。
しぶとくて、意外と根性があって、しつこくて……

「………ゲ、ゲイル……」

気付けば身を乗り出してぶしつけにフィオを注視していた。

「す、すまん!あー……お前ってやっぱ綺麗な顔してるよなあ。ははは!
さすがエリアナが惚れるだけのことはあるぜ!おう!」

無意識だった。ヤベエな、俺。
押し込め続けてきたタガが外れかかっちまってんのか?

改めて居住まいを正し、しっかりとフィオに向き直った。

「なあ、フィオネル。俺はお前に言わねばならないことがある」

空気が変わったのを察したフィオもさりげなく居住まいを正した。

「………なんだろうか?」

「すまなかった!」

ガバリと頭を下げる。

「!な、何を……」

頭を上げさせようとするフィオに構わず、俺はそのままの姿勢で続けた。

「俺はエリアナを護れなかった。すまん!もちろん全力は尽くした。だが、俺の最大のハイヒール……エリクサーと同等とも言われたハイヒールさえ使えばなんとかなると過信していた。
……あれは本人の体力も消耗する。エリアナの体調を思えば、一度しか使えない最終手段だったんだ。
だが命を繋ぎとめることはできると、そう信じ込んでしまっていた。
もっと他のあらゆる手段を試すべきだった。すまなかった!」

勿論、医者としても、兄としても、友としても、あの時の最善を尽くしたつもりだ。
それでも考えずにはいられない。

何度も何度も想い返した。
あそこで、何か他にできることはなかったのか?
ハイヒールではなくハイポーションとハイヒールだったならば?
いや、あそこまで体力が落ちる前にハイヒールをしておくべきだったのでは?

エリアナさえ無事であったなら、サフィは愛される息子として、幸せな家族の一員として育っていただろう。
フィオやライ、リオとの仲がこじれることもなく、幸せな「グリフィス公爵家」の一員として。
フィオも愛する人を失うこともなく、息子を失うことにもならなかったはずだ。

エリアナの、フィオの、ライオネルとリオネルの、サフィの不幸な過去の上に、俺の今の幸せが成り立っている。

虐げられて育ったサフィを見て「俺が護らねば!」と思った。
申し訳なさと愛おしさが溢れ、俺が父親になると決めた。
甘えることを知らないサフィをひたすらに甘やかし、甘えていいのだと、俺はお前に甘えられるのが嬉しいのだと教え、愛を伝え続けた。

救われたのは、俺だ。

愛する妹を失い、父や母のように俺を育ててくれた兄夫婦を失い。
弟のように、親友のように、いたいけな子供のように愛していたフィオを失った。
傷みと罪悪感を抱えたまま、必死でエリアスとサフィールを支えた四年。

サフィールの一族は昔から情に厚いと言われている。
言葉を変えれば、溢れんばかりの愛情を家族で注ぎ合う、そんな一族なのだ。
俺の父と母は「家族に」ではなく「お互いに」注ぎ合っていたわけだが。

愛するものを一挙に失い、俺の愛は行き場を失った。
救えなかったエリアナの代わりにでもするかのように、ギルドで、街でたくさんの冒険者や平民を癒しても、俺の心は癒されなかった。
多くの者に愛を囁かれ、親愛を注がれても。それでも俺は満たされなかった。
温かな愛で埋まっていた俺の中に空白が生まれ、埋めるもののないその空白にひゅうひゅうと風が通ったままだった。

サフィを抱きしめ、その温かさを感じた時、俺の胸に広がったのは途方もない安堵だった。
ああ。
愛する者が戻ってきた。
この腕の中に、戻ってきた。
何をしても、どこにいても埋まることの無かった空白を、ピタリとサフィが埋めてくれた。

俺は久方ぶりに溢れ出る愛情に、その愛情を余すところなく受け止めてくれるサフィに酔ったのだ。

幸せで、幸せで。
可愛いサフィのためなら何でもできる気がした。
サフィを幸せにするために俺はいるのだ、そう思った。




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