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五年後
閑話休題 ゲイルと公爵4
サフィと過ごす毎日は、何が起こるのか分からないビックリ箱のようなもの。
ちょっと目を離せばだれかしら拾ってくるし、他国の王族なんてもんをひっかけてきちまう。
あちこちに首を突っ込み、なんだかんだで国を巻き込む大騒動。
てんやわんやしたあげく、結局全部まあるく治めちまうなんて芸当は、サフィ以外にはできないだろう。
サフィには「こいつが居ればなんとかなるだろ」と思わせるところがある。
能力も凄いが……一番はあの性格だな。
怒涛のように渦中に突っ込み、余計なものをばっさばっさと切り捨てる。
その過程で人の悪意や毒気なんかもすっとばしちまうから、残るのはサフィの熱烈な信派ばかり。
ルーやルーダすらも、サフィのサポートなんぞそっちのけで単なる飼い犬と化しているし、伝説のドラゴンだってサフィの便利な足となり果てている。
サフィに振り回されるのは……楽しいのだ。
何をするのかわからねえのに、その結果は必ず誰かを幸せにする。
「いるだけで平和になる」と言っていたルー親子の言葉の通りだ。
俺も、楽しくて幸せで、心が躍るという言葉の意味を毎日感じていた。
そして……幸せだと思えば思うほど、フィオに対する罪悪感が俺の中に降り積もっていった。
そもそも最初から間違っていたんだ。
エリアナがこの世界から居なくなったあの時。
フィオが心を閉ざし「エリアナを思い出させるサフィールを見るのが辛いのだ。もう公爵家に関わらないで欲しい」と言ったあの時。
エリアナを救えなかった罪悪感から、俺はその言葉をそのまま受け入れた。受け入れちまった。
サフィを気にかけながらも、無理にまで近寄ることはしなかった。
常の俺ならば、どれだけ拒まれようと心が血を流そうと、無理にでも関わり続けただろう。
言い訳のようだが、俺も弱っていた。
だからそのまま引いてしまったのだ。
サフィールの家が大変だったから、公爵家から疎まれたから、など言い訳に過ぎない。
なんと言われようと踏み込むべきだった。
どんなに罵られようと疎まれようと、関わり続けるべきだったんだ。
エリアナの代わりに、俺がフィオを支え、しっかりと息子たちに向き合わせるべきだった。前を向けとケツを叩き、エリアナの残した宝を共に護るべきだったんだ。
一度懐に入れたくせに、大事な時に俺はフィオを手放した。
その結果、フィオは……完全に心を閉ざし、息子を顧みることさえしなくなってしまったのだ。
そして……フィオは息子を失い、俺は愛する息子を得た。
サフィは実の父を捨てることを選び、俺という父親を得た。
幸せだ。
この10年、ずっと俺は幸せなんだ。
俺はサフィと共に、自分だけじゃしねえようなあらゆる経験をしてきた。
サフィの色々な顔を見た。
サフィから色々な話を聞いた。
泣いて笑って。
愛おしい存在を抱きしめて眠った。
……お前が本来得るはずだったものを、全部俺が奪っちまったんだ。
この謝罪は俺の自己満足だ。
謝ってすむ問題じゃねえ。
俺はヘタレだから。こんなことでもないと言わずに終わっちまいそうで。
だから、言わせてくれ。
「あの時俺はお前の言葉を受け入れるべきじゃなかった。
いくら公爵家に来るなと言われても、お前の側にいるべきだった。
……………一人にして、ごめんな、フィオ。
側にいてやらなくて、ごめん。
一番辛いときにお前を手放して悪かった」
フィオがビクリを身を震わせた。
真っ白な顔で、固まったように動かなくなる。
「それに、サフィをこの世に送り出してくれてありがとう。
俺は幸せだ。サフィがいて、この10年本当に幸せだった。
ありがとう。お前とエリアナのお陰だ。
お前が本来味わうべきだった父親の役目を俺が奪った。
そのことには後悔はねえ。あの状況でサフィをお前の元には置けなかったからな。
だからこの件については謝罪しねえぞ?
俺がスマンというのは、エリアナを救えなかったこと、お前を一人にしちまったこと、それに対してだ。
…………ひとりにしちまってごめん、フィオ。
立ち直ってくれてありがとう。
父親じゃないと拒まれながらもサフィを愛して支えてくれてありがとう。
…………お前が居てくれて、良かった」
心から告げれば、無表情のままいきなりボタボタボタっと涙を溢れさせるフィオ。
「お、おい!フィオ、大丈夫か?」
「………………私は………っ…私は、償いようがない酷い過ちを犯した」
「………ああ、そうだな。それを言うなら、俺も過ちを犯した」
「護るべきものがありながら、自己憐憫に浸り、その役目を怠った。その結果、大切な息子を殺してしまうところだった………」
「ああ。それについては、お前が悪い。だが、俺も同罪だ」
「そんな私が、サフィラスの成人を祝って……息子の成人を祝ってもよいのだろうか?」
「……サフィは皆に愛されてる。だが、親として成人を祝ってやれるのは俺たちしかいねえだろ?
親にしかわからねえ傷みを、分かち合おうぜ?
だってよう、俺の…俺の天使が他の男の者になっちまうんだぜ?くそう!
愛して大切にしてきた宝を他の男に奪われる、この気持ち分かるか?」
湿っぽくなっちまった空気を変えるためあえておどけて見せれば、フィオが乗ってきた。
くすりと笑みを漏らし、ひとこと。
「………痛いほどに分かっているが?
だが、奪った相手が素晴らしい人だったのでな。
それに、今回も……レオンハルト殿下ならばサフィを護り、必ず幸せにしてくれるだろう。だから、寂しいが、それ以上に嬉しく思う」
はいはい!俺だよ!
10年前にお前から天使を奪ったのは俺です!てか、保護してやったんだけどな!
そんなふうに言われたら、俺が狭量みてえじゃねえかよ!
ちょっと目を離せばだれかしら拾ってくるし、他国の王族なんてもんをひっかけてきちまう。
あちこちに首を突っ込み、なんだかんだで国を巻き込む大騒動。
てんやわんやしたあげく、結局全部まあるく治めちまうなんて芸当は、サフィ以外にはできないだろう。
サフィには「こいつが居ればなんとかなるだろ」と思わせるところがある。
能力も凄いが……一番はあの性格だな。
怒涛のように渦中に突っ込み、余計なものをばっさばっさと切り捨てる。
その過程で人の悪意や毒気なんかもすっとばしちまうから、残るのはサフィの熱烈な信派ばかり。
ルーやルーダすらも、サフィのサポートなんぞそっちのけで単なる飼い犬と化しているし、伝説のドラゴンだってサフィの便利な足となり果てている。
サフィに振り回されるのは……楽しいのだ。
何をするのかわからねえのに、その結果は必ず誰かを幸せにする。
「いるだけで平和になる」と言っていたルー親子の言葉の通りだ。
俺も、楽しくて幸せで、心が躍るという言葉の意味を毎日感じていた。
そして……幸せだと思えば思うほど、フィオに対する罪悪感が俺の中に降り積もっていった。
そもそも最初から間違っていたんだ。
エリアナがこの世界から居なくなったあの時。
フィオが心を閉ざし「エリアナを思い出させるサフィールを見るのが辛いのだ。もう公爵家に関わらないで欲しい」と言ったあの時。
エリアナを救えなかった罪悪感から、俺はその言葉をそのまま受け入れた。受け入れちまった。
サフィを気にかけながらも、無理にまで近寄ることはしなかった。
常の俺ならば、どれだけ拒まれようと心が血を流そうと、無理にでも関わり続けただろう。
言い訳のようだが、俺も弱っていた。
だからそのまま引いてしまったのだ。
サフィールの家が大変だったから、公爵家から疎まれたから、など言い訳に過ぎない。
なんと言われようと踏み込むべきだった。
どんなに罵られようと疎まれようと、関わり続けるべきだったんだ。
エリアナの代わりに、俺がフィオを支え、しっかりと息子たちに向き合わせるべきだった。前を向けとケツを叩き、エリアナの残した宝を共に護るべきだったんだ。
一度懐に入れたくせに、大事な時に俺はフィオを手放した。
その結果、フィオは……完全に心を閉ざし、息子を顧みることさえしなくなってしまったのだ。
そして……フィオは息子を失い、俺は愛する息子を得た。
サフィは実の父を捨てることを選び、俺という父親を得た。
幸せだ。
この10年、ずっと俺は幸せなんだ。
俺はサフィと共に、自分だけじゃしねえようなあらゆる経験をしてきた。
サフィの色々な顔を見た。
サフィから色々な話を聞いた。
泣いて笑って。
愛おしい存在を抱きしめて眠った。
……お前が本来得るはずだったものを、全部俺が奪っちまったんだ。
この謝罪は俺の自己満足だ。
謝ってすむ問題じゃねえ。
俺はヘタレだから。こんなことでもないと言わずに終わっちまいそうで。
だから、言わせてくれ。
「あの時俺はお前の言葉を受け入れるべきじゃなかった。
いくら公爵家に来るなと言われても、お前の側にいるべきだった。
……………一人にして、ごめんな、フィオ。
側にいてやらなくて、ごめん。
一番辛いときにお前を手放して悪かった」
フィオがビクリを身を震わせた。
真っ白な顔で、固まったように動かなくなる。
「それに、サフィをこの世に送り出してくれてありがとう。
俺は幸せだ。サフィがいて、この10年本当に幸せだった。
ありがとう。お前とエリアナのお陰だ。
お前が本来味わうべきだった父親の役目を俺が奪った。
そのことには後悔はねえ。あの状況でサフィをお前の元には置けなかったからな。
だからこの件については謝罪しねえぞ?
俺がスマンというのは、エリアナを救えなかったこと、お前を一人にしちまったこと、それに対してだ。
…………ひとりにしちまってごめん、フィオ。
立ち直ってくれてありがとう。
父親じゃないと拒まれながらもサフィを愛して支えてくれてありがとう。
…………お前が居てくれて、良かった」
心から告げれば、無表情のままいきなりボタボタボタっと涙を溢れさせるフィオ。
「お、おい!フィオ、大丈夫か?」
「………………私は………っ…私は、償いようがない酷い過ちを犯した」
「………ああ、そうだな。それを言うなら、俺も過ちを犯した」
「護るべきものがありながら、自己憐憫に浸り、その役目を怠った。その結果、大切な息子を殺してしまうところだった………」
「ああ。それについては、お前が悪い。だが、俺も同罪だ」
「そんな私が、サフィラスの成人を祝って……息子の成人を祝ってもよいのだろうか?」
「……サフィは皆に愛されてる。だが、親として成人を祝ってやれるのは俺たちしかいねえだろ?
親にしかわからねえ傷みを、分かち合おうぜ?
だってよう、俺の…俺の天使が他の男の者になっちまうんだぜ?くそう!
愛して大切にしてきた宝を他の男に奪われる、この気持ち分かるか?」
湿っぽくなっちまった空気を変えるためあえておどけて見せれば、フィオが乗ってきた。
くすりと笑みを漏らし、ひとこと。
「………痛いほどに分かっているが?
だが、奪った相手が素晴らしい人だったのでな。
それに、今回も……レオンハルト殿下ならばサフィを護り、必ず幸せにしてくれるだろう。だから、寂しいが、それ以上に嬉しく思う」
はいはい!俺だよ!
10年前にお前から天使を奪ったのは俺です!てか、保護してやったんだけどな!
そんなふうに言われたら、俺が狭量みてえじゃねえかよ!
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