もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

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五年後

閑話休題 ゲイルと公爵8

「無論。生涯サフィラスのために尽くして生きると決めている。
償いにもならないだろうが、多少の役には立ってみせよう」

フィオは静かな決意を漲らせ、当たり前のように口にした。

「だから、あなたの側に居させて欲しい。
あなたは強い。だが……脆い。
サフィラスとあなたのために生きることを許してくれ。頼む」

こいつはこれでも事務処理能力も高いし、能力だって王国屈指。
魔力武力知力、すべてにおいて相当の実力者だからな。
足りねえのは人間関係だけ。クソみてえな先代がこいつの心を殺したせいだ。
本来のこいつな素直で、とても涙もろい。
愛の求め方を知らず手を伸ばすことすら思いつかない、それがこいつだった。

だがそんなフィオが俺に手を伸ばした。

俺にとってサフィは愛する息子だ。
血の繋がりなんて関係ない。この愛おしさ、何物にも代えがたい想いは、サフィだからだ。
俺の光。俺の愛。俺のよすが。
息子にすがって巣立ちを妨げるなんてカッコ悪いことはしたくねえ。
笑って送り出してやりたい。

だが正直…………怖かった。
子供ってのはいつかは巣立つものだ。
だが、どうしたって願っちまう。もう少しだけ、あと少しだけこの腕の中にいて欲しいと。
サフィが俺を愛してくれているのは分かっている。
息子であることに変わりはないことも分かっている。
だが、それでもこの喪失感だけはどうしようもないのだ。

レオンの部屋に踏み込みたい。あともう数年、時間をくれ。
俺の愛おしい息子を奪わないでくれ。

だがそれがダメなことも分かっている。もう「時は来た」のだ。
サフィが選び、足を踏み出すと決めたレオンとの未来。
でもなあ。まだ14歳だぞ?子供に毛が生えたようなもんじゃねえかよ。
「いっそ数年くらいレオンを不能にしちまおうか?」なんて馬鹿なことが頭に浮かぶくらいには俺もおかしくなっていた。


だから、俺はフィオの手を取る。

そう言う意味で、お前はやっぱりサフィと似てるよ。
こんな重い愛を与えらえて平然と喜んでみせるのは、お前とサフィくらいだ。

「……なあ、フィオ。お前かサフィかなら、俺は迷うことなくサフィを選ぶぞ?それでもいいのか?」

愛しているとは言わない。
だってもうわかってんだろ?

ズルい言い方なのはわかっている。だが、これは俺の譲れない線だ。

果たしてフィオは、当たり前のような顔で頷いたのだった。

「何を今さら。私はゲイルを愛している。だが、ゲイルとサフィラスならば私はサフィラスを優先する」

よし!満点の答えだ!
言葉にする代わりに、ドボドボと互いのグラスに酒を注ぐ。

「ほら!」

グラスの一つをフィオに押し付け、俺ももう一つを手に取った。
これは俺たちだけの契約だ。

「俺とフィオは生涯をかけてサフィの幸せを護り続けるとここに誓う!
俺たちの愛する息子に。乾杯!」

グッと一気に飲み干せば、フィオもそれに倣って言葉をつづけた。

「私はこの生涯をかけてサフィラスとゲイルの幸せを護り続けると誓おう。
愛する息子に、乾杯!」







そっからは無礼講。
お互いに酒を注ぎ合い、それはいつのまにか手酌になり、ついには瓶を抱えて二人で床に胡坐をかいて座り込み、
ラッパ飲みに。


「ぷはあ!てかよう、お前、マジで頑張ったよなあ」

クシャクシャくと髪の毛をかき混ぜてやれば、頬を染めて頭を差し出してくる。

「今だから言うけどさ。昔、公爵家を改装したとき。お前がしゃがんで小石拾ってんの見て、俺ちょっと泣きそうになったわ。その愛をもっと早くサフィにみせてやれよ、ってさ」
「……情けない限りだ。私は一人で立つこともできぬ愚か者だった」
「だよなあ。てか、もっと早く俺を呼べよ!!クソ女なんかに出し抜かれやがって!見る目なさすぎだろうが!」
「エリアナにはよく尽くしていたのだ。だから同じようにサフィラスにも尽くすものだと……」
「お前はさあ、優秀な宰相の癖して、身内に甘いんだよ。クソ親父だって、お前なら倒せたろうに……」
「ふふふ。おかしなものでな。従うだけの機械として育てられた私にはそもそも『倒す』などという発想自体も無かったのだ。だがそのおかげでゲイルに出会えた。エリアナに出会えた。愛する息子たちを得ることができた」
「ボロボロの男がいきなり邸に来るから驚いたぜ。血まみれなのに無表情だし!」
「すまない。私としてもギリギリだったのでな。苦肉の策だったのだ」

出会った頃のこと、エリアナを失ってからの空白の四年間のことをフィオが語り。
俺はフィオの知らないサフィとの幸せな毎日をフィオに語った。

「幼い頃のアイツ、すんげえ舌ったらずでさあ。可愛かったなあ。
どっかのクソ野郎がひとりにしてた反動だろうな。最初のころなんてひよこみてえに俺の後を付いて回ってたんだぜ?目覚めた時から寝る時まで『ゲイル、大好き』ってさあ。
すんげえ可愛くて可愛くて可愛くて。可哀そうでさあ。
夜中も何回も目を覚まして、俺を探すんだ。で、俺がいることを確かめて嬉しそうに笑う。
可哀そうで可哀想で、可愛くて胸が痛んだ。こんなに愛おしい存在がいるんだ、ってそう思った。
……俺の中のサフィは、どうしたってそこなんだよなあ……。
もう14歳、もうじき成人だってえのにな……。
認めたくねえが、サフィの方が俺より強いしな。クソ!なんだよあの規格外の魔力はさあ!
聖女だかなんだかしらんが、俺だって聖女なんだろうが!息子に負けるなんざ情けねえ!レインボー、っての俺にも寄越せよな!神!」

ドカンとフィオの肩に頭突きをかます。
八つ当たりだ。これくらいさせろ。

フィオは困った顔でそんな俺のあまたをそっと撫でた。

「ゲイルは十分に強いではないか。少なくとも、私よりよほど強いぞ?私もこれでも王国最強の戦力だと言われているのだがな」
「最強はサフィだろ、どう考えたって。サフィはなんでもアリだからなあ」
「……そのサフィラスも『ゲイルがいたらなんでも大丈夫になる』と言っていたのだぞ?『どんな時もゲイルがいるだけで安心できるんだ』と。単純に魔力だけが強さではあるまい」
「……そうか?俺は……サフィを支えてやれたと思うか?」
「うむ。サフィラスの強さはゲイルによって育まれたものだと私は思う」
「そうか……。うん。……そうならいいな。
うん!そうだよなあ!俺は最強の父親だよな!!
………………サフィ………」





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