もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

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東の国

ゲイル奪還にむけて2

東国に向かいながら、俺はレオンの話を思い出した。





レオンは青空のような瞳を曇らせ、俺をぎゅうっと抱きしめた。

「……サフィ。本当は行かせたくない。ゲイルのためであることは理解しているが、それでも。
東国が諸国と国交を絶っているのは、その独特な文化もあるが、一番は道中に氷の山が立ちはだかるからだ。
知っての通り、もともと氷の国と呼ばれ、作物の育ちにくい土地柄なんだ。
周りの国の評価はね、リスクとメリットを考えるとあまりにもリスクの高い国、というものだ。
だからこそ、王国も、隣国のバースですら、東国には関わらずに来た。
恐らく……孤立した状態での飢餓ということを考慮すると、東国はかなりひどい状況となっているはずだ。
サフィが見たこともないような、惨たらしいものを目にする可能性が高い。それを理解している?」

「……うん。俺だって経験はないけど、想像くらいはつくよ。それに……きっと想像以上に酷いんだろうなって、思ってる。
誰でもかんでも救えるなんて思ってないよ。俺、聖女だけどちょっと魔力が多くてレインボーなだけの普通の人間だもん。
でもね、ゲイルはその渦中にいる。俺はゲイルを助けたい。ゲイルが護りたいものを、俺も護りたい。
心配ばっかりかけてごめん、レオン。俺がレオンだったらとっくに愛想を尽かしてるかも。
でもね、ワガママだって分かってるけど……受け入れて。これが俺なの。
手の届くところくらいは助けたい。やるからにはやれるだけ頑張ってみる。
ほんとはちょっと怖い。だって……きっと東国には死んじゃう人もたくさんいるでしょ。危険だってある。
それでも知ったからには行くしかないの」

「うん。分かっているよ。
だからこそサフィなのだし、私はそんな君が好きなんだから。
サフィは向こうで見たくないものも見るだろう。見せたくはないけれど……
忘れないで。サフィの側にはキースも公爵もいる。共に行けない私の代わりに彼らを頼って。
それでも心が壊れそうになったら、私を思い出して欲しい。
心が壊れてしまう前に、お願いだから、ほんの少しでいいからルーの転移で戻っておいで?
私にサフィを抱き締めさせて欲しい。そしてまた私に背中を押させて?
いい?約束」

抱き締める腕が震えていた。
全身で「行かせたくない」と言っていた。
それでも、レオンは俺の背を押してくれる。

「うん。約束。
レオン……俺ね、レオンを好きになってよかった。
俺を好きになってくれてありがとう。
必ずレオンのところに帰るから。辛いときにはレオンを思い出す。
行ってくるね」





ゲイルが東国に入ってもう一週間。戻れない、そして連絡すらできないことを考えると、かなり状況は悪い。
あの氷の山の向こうには、きっと……見たこともないような残酷な現実が待っている。
キースが「俺も行く」と言ったのも。
公爵が「尻尾にしがみついてでも行く」と言ったのも。
それが分かってるから。俺一人で行かせたくなかったからだ。


俺の知る一番凄惨な体験は、前世の俺が死んだときくらい。
でもドンという衝撃のあと、気が付けばサフィだったから、流れる血も痛みもあまり良く覚えていない。

飢餓と暴動。
絶望、悲しみ、苦しみ、痛み、怒り。
その膨大な渦の中で、俺に何ができるだろう。



ふるりと身を震わせる俺を、後ろに座ったキースがそっと抱きしめてくれた。

「……ありがと、キース」

軽くもたれかかれば、キースはクスリと笑って俺の頬に頬を寄せた。

「レオンには内緒だぞ?今だけはレオンの代わりな?」

身体に響く穏やかな声に、少しだけほっとする。

「あのね……本当のこと言っていい?俺の勘は俺が行けば上手くいくって言ってるの。
俺もそれは分かってる。説明はできないけど。
でも……ちょっと怖い。俺、ゲイルをちゃんと見つけられる?
たくさんの人が苦しんでたらどうしたらいい?俺に助けられると思う?」

思ったよりも弱弱しい声になってしまった俺。
そんな俺に、当たり前のように力強く同意してくれるキース。

「ああ。見つけられるさ。
俺たちもいるだろ?俺も公爵も、ブリードもルーもいる。
ルーがいれば王城まですぐに戻れる。だろ?
焦らず行こうぜ?
それに東国にはサフィの気になるスパイスや調味料があるんだろ?」

「ショウユとミリンとミソ!!」

「それそれ!それをしこたま買って帰ろうぜ!楽しみだな、サフィ?」

「……うん。………うん!!さっさと東国を助けて、ゲイルとショウユトミリントミソを持って帰ろう!」

「よし!その意気だ!」

「…………ありがとね、キース…兄さん」

恥ずかしかったけど。初めて「兄さん」って呼んでみた。
相棒で家族で……俺のお兄さん。
キースが居てくれてよかった。




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