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東の国
ゲイル奪還にむけて4
ごめんね。
俺たちは先に行く。
あなたたちをそのままにして、東国に向かうよ。
辛かったね。苦しかったね。
今はもう、苦しくない?お腹空いてない?
どうか温かな場所で笑って居ますように。
俺が本当に聖女だというのなら、あなたたちに祝福を。
涙を落としながら彼らの上を通り過ぎる。
零れ落ちた涙は、シールドを抜けた瞬間、細かな氷の粒に代わった。
ダイヤモンドダスト?
それはまるで宝石のようにキラキラと輝き、彼らの上に降り注ぐ。
「……綺麗だな」
「…っうん。うん」
花を手向けることはできないけれど。
せめて涙の宝石を。
氷の山を越えると痩せた森のようなものがあった。
葉もなく細い枝と幹をむき出しにして、所在なさげに木々が生えている。
ゲイルを降ろしたのはこの手前。
ドラゴンに驚かせないようにと、ここからブリードさんが掴んできた馬に乗りかえ東国に向かったのだ。
でも今回はそのまんま、東国ギリギリまでドラゴン便で向かいます。
ブリードさんで東国に乗り付けちゃう!
だって「ドラゴン見られたらアウト」だとか「警戒されたくない」なんて言ってられないもん。
山から離れるにつれ、吹き付ける風は徐々に収まっていた。
魔道具とマントがあれば、シールドは外しても良さそう。
それでも王国や他の国とは比べものにならないような寒さだ。
森を超えてしばらく行くと、向こうのほうに街のようなものが見えた。
そのまでは辺り一面、真っ白な雪に覆われている。
道がどこなのかもわからないし、池や湖は真っ白な氷の塊に姿を変え、川の水すら流れを止めていた。
「……酷いね」
「ああ。氷の国とはよく言ったものだ」
これじゃあ魚だって捕れないし、飲み水の確保だって大変だろう。
当たり前だけど、作物だって育たたない。育ったとしても雪にやられてしまうよね。
予め防寒の下着や遮温効果のあるマントを身に着けていても、むき出しの顔に刺すような冷気を感じる。
吐く息も白い。
キースが無言で俺のマントをギュッと付け直し、どこかから取り出したマフラーを巻き付けてくれた。
街の前、ちょっと開けたところに着地する。
見える範囲に人影はない。
山越えに挑んだ人以外は、街の中心に集まって暖を取っていたりするのかな。
みんなで一か所に集まってたりするのかな。
暴動があったという話なのに、とても静かだ。
まるで雪が音を吸い込んでいるみたい。
まさかだけど「みんな捕まって王城に連れて行かれた」、とかないよね?
ふわり、とゴーンも降りてきた。
公爵が軽々とその背から飛び降りる。
「サフィ、大事ないか?」
「うん。キースも一緒だったしね。公爵も元気そうでよかった。意外と頑丈?」
「サフィ、言い方!あー、宰相はドラゴンに乗るのは初めてだったろう?大丈夫だったか?」
「ああ。馬とそう変わらぬ。問題ない」
あ。そうですか。
そう言えばこの人、神経質そうな見た目とは裏腹に、戦とかにも出てた武闘派だった。
ここまで連れて来てくれたドラゴンたちにお礼を伝えてヒールをかける。
いつもちょっとボロっとしているゴーンには、ヒールじゃなくハイヒールしておいた。
「ブリードさん、ゴーン、ここで大丈夫。ありがと。
悪いけどまたすぐ呼ぶかも。こき使うけど、いい?」
「うむ。所詮人の時間など我にとっては瞬きをする程度。どうということはない。退屈しのぎにはちょうどよい」
「我も問題ない。……籠っているよりよほど面白いからな」
ブリードさんは全く疲れなど感じさせぬ声でそういって笑い、ゴーンを引き連れバサアっと帰って行った。
「ここが東国……」
西洋風の街並みが並ぶ王国や、森の中に木を利用して作られたおとぎの国のような住居が並ぶリンドール。
レンガや鉄で作られた要塞のようなロンド。そして貝殻を埋め込んだ白く輝く帝国の街並み。
そのどの国とも違う。
東国には、なんとなく懐かしい日本の面影があった。
雪や氷の国だからか、傾斜した屋根。木と石と土でできた家。
ああ。日本に似てると思ったのは、外に雪が積もっても開くようにということだろうか、扉が横開きの引き戸だからかも。
でも、今はどこにも人影はない。
雪かきをする手のないまま、屋根の上にはうず高く雪が積もり、雪どけ水が流れやすいようが掘られた水路にもみっしりと雪が詰まっている。
自給自足していたのだろうか、家の周りの畑らしき場所にも雪が降りつもり、支え木が悲しく立つだけの小さな広場になってしまっていた。
ニワトリや牛やヤギを飼っていたと思われる小屋がたくさんあるが、その中は空っぽ。
鳥のフンだとか、抜け毛だとかの痕跡が小屋の主を教えてくれるだけ。
きっともう……食べ尽くされてしまったのだろう。
まるで「死の街」だ。
俺の恐れていた騒動も、苦しむ人の姿もない。
その代わり、一切の生の息吹を感じない。
ただ静けさに満ちていた。
ぎゅ、と手を握り締める。
大丈夫。
ゲイルがいるんだもん。
きっとどこかにみんな生きてる。
俺たちが探すのは、みんなが生きている場所。
集まっている場所だ。
「あのーーー!!誰かいませんかあああ!
王国から来ましたーー!サフィでえええす!冒険者で、ドラゴンライダーで、サンダーエンジェル!
S級冒険者のキースもいますよおおおお!」
叫ぶ声はすぐに雪に座れてしまう。
「どうしよう……。別行動で各自探してみる?それとも一緒に探す?
とりあえずルーダを呼んどく?」
一旦マークしといてもらおうか。
そしたら一旦王都に戻ったり、王都からもこっちに転移したりしやすいもんね。
と。ここでおずおずと手を挙げた人がいた。
公爵だ。
俺たちは先に行く。
あなたたちをそのままにして、東国に向かうよ。
辛かったね。苦しかったね。
今はもう、苦しくない?お腹空いてない?
どうか温かな場所で笑って居ますように。
俺が本当に聖女だというのなら、あなたたちに祝福を。
涙を落としながら彼らの上を通り過ぎる。
零れ落ちた涙は、シールドを抜けた瞬間、細かな氷の粒に代わった。
ダイヤモンドダスト?
それはまるで宝石のようにキラキラと輝き、彼らの上に降り注ぐ。
「……綺麗だな」
「…っうん。うん」
花を手向けることはできないけれど。
せめて涙の宝石を。
氷の山を越えると痩せた森のようなものがあった。
葉もなく細い枝と幹をむき出しにして、所在なさげに木々が生えている。
ゲイルを降ろしたのはこの手前。
ドラゴンに驚かせないようにと、ここからブリードさんが掴んできた馬に乗りかえ東国に向かったのだ。
でも今回はそのまんま、東国ギリギリまでドラゴン便で向かいます。
ブリードさんで東国に乗り付けちゃう!
だって「ドラゴン見られたらアウト」だとか「警戒されたくない」なんて言ってられないもん。
山から離れるにつれ、吹き付ける風は徐々に収まっていた。
魔道具とマントがあれば、シールドは外しても良さそう。
それでも王国や他の国とは比べものにならないような寒さだ。
森を超えてしばらく行くと、向こうのほうに街のようなものが見えた。
そのまでは辺り一面、真っ白な雪に覆われている。
道がどこなのかもわからないし、池や湖は真っ白な氷の塊に姿を変え、川の水すら流れを止めていた。
「……酷いね」
「ああ。氷の国とはよく言ったものだ」
これじゃあ魚だって捕れないし、飲み水の確保だって大変だろう。
当たり前だけど、作物だって育たたない。育ったとしても雪にやられてしまうよね。
予め防寒の下着や遮温効果のあるマントを身に着けていても、むき出しの顔に刺すような冷気を感じる。
吐く息も白い。
キースが無言で俺のマントをギュッと付け直し、どこかから取り出したマフラーを巻き付けてくれた。
街の前、ちょっと開けたところに着地する。
見える範囲に人影はない。
山越えに挑んだ人以外は、街の中心に集まって暖を取っていたりするのかな。
みんなで一か所に集まってたりするのかな。
暴動があったという話なのに、とても静かだ。
まるで雪が音を吸い込んでいるみたい。
まさかだけど「みんな捕まって王城に連れて行かれた」、とかないよね?
ふわり、とゴーンも降りてきた。
公爵が軽々とその背から飛び降りる。
「サフィ、大事ないか?」
「うん。キースも一緒だったしね。公爵も元気そうでよかった。意外と頑丈?」
「サフィ、言い方!あー、宰相はドラゴンに乗るのは初めてだったろう?大丈夫だったか?」
「ああ。馬とそう変わらぬ。問題ない」
あ。そうですか。
そう言えばこの人、神経質そうな見た目とは裏腹に、戦とかにも出てた武闘派だった。
ここまで連れて来てくれたドラゴンたちにお礼を伝えてヒールをかける。
いつもちょっとボロっとしているゴーンには、ヒールじゃなくハイヒールしておいた。
「ブリードさん、ゴーン、ここで大丈夫。ありがと。
悪いけどまたすぐ呼ぶかも。こき使うけど、いい?」
「うむ。所詮人の時間など我にとっては瞬きをする程度。どうということはない。退屈しのぎにはちょうどよい」
「我も問題ない。……籠っているよりよほど面白いからな」
ブリードさんは全く疲れなど感じさせぬ声でそういって笑い、ゴーンを引き連れバサアっと帰って行った。
「ここが東国……」
西洋風の街並みが並ぶ王国や、森の中に木を利用して作られたおとぎの国のような住居が並ぶリンドール。
レンガや鉄で作られた要塞のようなロンド。そして貝殻を埋め込んだ白く輝く帝国の街並み。
そのどの国とも違う。
東国には、なんとなく懐かしい日本の面影があった。
雪や氷の国だからか、傾斜した屋根。木と石と土でできた家。
ああ。日本に似てると思ったのは、外に雪が積もっても開くようにということだろうか、扉が横開きの引き戸だからかも。
でも、今はどこにも人影はない。
雪かきをする手のないまま、屋根の上にはうず高く雪が積もり、雪どけ水が流れやすいようが掘られた水路にもみっしりと雪が詰まっている。
自給自足していたのだろうか、家の周りの畑らしき場所にも雪が降りつもり、支え木が悲しく立つだけの小さな広場になってしまっていた。
ニワトリや牛やヤギを飼っていたと思われる小屋がたくさんあるが、その中は空っぽ。
鳥のフンだとか、抜け毛だとかの痕跡が小屋の主を教えてくれるだけ。
きっともう……食べ尽くされてしまったのだろう。
まるで「死の街」だ。
俺の恐れていた騒動も、苦しむ人の姿もない。
その代わり、一切の生の息吹を感じない。
ただ静けさに満ちていた。
ぎゅ、と手を握り締める。
大丈夫。
ゲイルがいるんだもん。
きっとどこかにみんな生きてる。
俺たちが探すのは、みんなが生きている場所。
集まっている場所だ。
「あのーーー!!誰かいませんかあああ!
王国から来ましたーー!サフィでえええす!冒険者で、ドラゴンライダーで、サンダーエンジェル!
S級冒険者のキースもいますよおおおお!」
叫ぶ声はすぐに雪に座れてしまう。
「どうしよう……。別行動で各自探してみる?それとも一緒に探す?
とりあえずルーダを呼んどく?」
一旦マークしといてもらおうか。
そしたら一旦王都に戻ったり、王都からもこっちに転移したりしやすいもんね。
と。ここでおずおずと手を挙げた人がいた。
公爵だ。
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