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聖女を救え!
帝国王の葛藤
結論を言おう。実は、王様は側妃様を喜んで迎えたわけではなかったのである。
これまでの王国は、周辺の小さな国を属国にし、その文化や技術を取り込むことで発展を遂げてきた。
属国となった国の国民も、小国のままでいるよりも結果的には暮らしが楽になるため感謝されるのだという。
その際には聖女も活躍。戦場に聖女がいる、それだけで軍人の気力と戦力は増した。聖女は傷ついた兵士を癒すのみならず、精神面でも王国を支えてきたのだ。
ところが、ナージャ出産で聖女様が弱りだした。それをきっかけにこの国の在り方そのものが変わってきた。
まず戦をやめた。聖女というわかりやすい旗印がなくなり、全体的な士気が下がってしまったのだ。「いざというときに聖女に助けてもらえる」それが当たり前になっていた兵士。その甘さゆえ、助けがないことで戦に尻込みするようになる。このまま戦を行えばこれまでよりも帝国側のダメージが多いのは明白。
ここで根本的な問題に考えが至る。そもそも戦は必要なのか?自国民を失ってまで他国に侵略する必要はあるのか?国もある程度大きくなり、ダメージの多い戦をしてまで属国を増やすメリットはなくなっていた。
こうして戦を止め、平和な治世に突入した帝国。
しかしその切り替えが上手くいかなかった。軍人たちの仕事はほぼ要人警護。街の見回りはするが、士気は上がらず腕前は錆びるばかり。武力と技術で成り立ってきた帝国は、徐々に技術のみの国になりつつあった。
一方でナージャを産んでから弱ってしまった聖女様を、王様はなんとか回復させようと力を尽くした。
珍しい薬草、高価なポーションなどあらゆるものを買い求め、聖女に飲ませる。それでも聖女は回復しない。
しかし、ある高級な薬草を飲ませてみたところ、悪化を何とか防ぐことができたというのだ。それは帝国にはない、公国にのみ生えている薬草だった。
ところが、不幸にもこの薬草は非常に高価なもので、毎日毎日何年も飲ませているうちに徐々にその費用が国庫を圧迫し始めたのだ。
ここから帝国の腐敗はハイスピードで進むことになる。
戦術に長けてはいても、貴族間のやり取り、権謀術数の苦手な王家は、元属国の宰相だった人物を宰相に据え、ブレインとして知恵を借りていた。
その宰相の妻が元公国の人間だったのだ。彼女は王にこう申し出た。「公国に伝手がある。なんとか薬草を融通してもらえないか相談してみよう」と。
その結果、公国からこのような話がもたらされた。
実は公国には3人の王女がいた。その第3王女は非常に美しく父王に溺愛されているのだが、一方で自分より身分が下のものを馬鹿にしており、ある高位貴族ともめごとを起こした。廃嫡するのもしのびないので、側妃としてもらってほしいというのだ。
宰相も「正妃様がご病気であり、世継ぎもナージャ殿下のみ。ナージャ殿下になにかあれば王家は滅ぶ。側妃を迎えてみては」と進言。
薬草の取引の契約、膨大な持参金とともに、側妃を迎えることになったというのだ。
公国の王は第三王女を溺愛しており、なにかあれば薬草の取引を停止するだろう。また、持参金は国庫の補填に充てられ、返還を求められても返還できない。
こうして側妃は母国を後ろ盾に、帝国で暗躍するようになったというのだ。
帝国の自慢の武力も落ち、帝国には公国と戦う力は既になかった。王はやむなく側妃を受け入れていたのだ。
ナージャが震える声で呟いた。
「父上は母上のために側妃を迎えたのか?ずっと……ずっと、父上は側妃に篭絡され、母上のことなどどうでもいいと思っているとばかり……」
「聖女様を救うためにはそれしかなかったのです。陸軍の一部は宰相に知られぬよう影で聖女様をお守りしておりました。帝国は聖女様がいなくなれば側妃が正妃に、という心づもりなのでしょう。徐々に輸入される薬草の量も少なくなり……」
「それで母上の容態が悪化しだしたのか……。では、聖獣が私に顕現したとたん、父上が私に冷たくなったのは……」
「殿下が側妃に狙われぬよう、冷遇していると思わせたのです。ナージャ殿下の留学も、側妃に邪魔をさせぬようにとフィガロ団長に密命を……。王国に高名な医師がいることは陛下も知っていらっしゃり、最後の希望にかけてみようと、ひそかに協力を命じられておりました。海軍がお連れし、陸軍が出迎えたのも、閣下のご指示です。今まで殿下と王国の皆様にお伝え出来ずに申し訳ございませんでした。王国側の意図を確認する必要があったのです。今の状況で王国に攻め入られたら帝国は終わり。どこまで信頼してよいのか分からなかったものですから……」
再度深々と頭を下げて謝罪するリアム団長。その横でフィガロ団長も頭を下げた。
「あなた方を試すようなことをしてすまん。聖女様の容体悪化は国の戦力にかかわること。皆に伏せられていた。リアムと俺にだけ、口外せぬとの約束で知らされたんだ。
もうこれでこっちの情報は全て出した。どうか……聖女を救ってほしい。申し訳ないが、王国の威だけ借りたい。後はこちらで動く」
「サフィ、レオン殿下。私からもお願いする。…………このご恩はいつか必ず返す。だから、どうか……頼む」
これまでの王国は、周辺の小さな国を属国にし、その文化や技術を取り込むことで発展を遂げてきた。
属国となった国の国民も、小国のままでいるよりも結果的には暮らしが楽になるため感謝されるのだという。
その際には聖女も活躍。戦場に聖女がいる、それだけで軍人の気力と戦力は増した。聖女は傷ついた兵士を癒すのみならず、精神面でも王国を支えてきたのだ。
ところが、ナージャ出産で聖女様が弱りだした。それをきっかけにこの国の在り方そのものが変わってきた。
まず戦をやめた。聖女というわかりやすい旗印がなくなり、全体的な士気が下がってしまったのだ。「いざというときに聖女に助けてもらえる」それが当たり前になっていた兵士。その甘さゆえ、助けがないことで戦に尻込みするようになる。このまま戦を行えばこれまでよりも帝国側のダメージが多いのは明白。
ここで根本的な問題に考えが至る。そもそも戦は必要なのか?自国民を失ってまで他国に侵略する必要はあるのか?国もある程度大きくなり、ダメージの多い戦をしてまで属国を増やすメリットはなくなっていた。
こうして戦を止め、平和な治世に突入した帝国。
しかしその切り替えが上手くいかなかった。軍人たちの仕事はほぼ要人警護。街の見回りはするが、士気は上がらず腕前は錆びるばかり。武力と技術で成り立ってきた帝国は、徐々に技術のみの国になりつつあった。
一方でナージャを産んでから弱ってしまった聖女様を、王様はなんとか回復させようと力を尽くした。
珍しい薬草、高価なポーションなどあらゆるものを買い求め、聖女に飲ませる。それでも聖女は回復しない。
しかし、ある高級な薬草を飲ませてみたところ、悪化を何とか防ぐことができたというのだ。それは帝国にはない、公国にのみ生えている薬草だった。
ところが、不幸にもこの薬草は非常に高価なもので、毎日毎日何年も飲ませているうちに徐々にその費用が国庫を圧迫し始めたのだ。
ここから帝国の腐敗はハイスピードで進むことになる。
戦術に長けてはいても、貴族間のやり取り、権謀術数の苦手な王家は、元属国の宰相だった人物を宰相に据え、ブレインとして知恵を借りていた。
その宰相の妻が元公国の人間だったのだ。彼女は王にこう申し出た。「公国に伝手がある。なんとか薬草を融通してもらえないか相談してみよう」と。
その結果、公国からこのような話がもたらされた。
実は公国には3人の王女がいた。その第3王女は非常に美しく父王に溺愛されているのだが、一方で自分より身分が下のものを馬鹿にしており、ある高位貴族ともめごとを起こした。廃嫡するのもしのびないので、側妃としてもらってほしいというのだ。
宰相も「正妃様がご病気であり、世継ぎもナージャ殿下のみ。ナージャ殿下になにかあれば王家は滅ぶ。側妃を迎えてみては」と進言。
薬草の取引の契約、膨大な持参金とともに、側妃を迎えることになったというのだ。
公国の王は第三王女を溺愛しており、なにかあれば薬草の取引を停止するだろう。また、持参金は国庫の補填に充てられ、返還を求められても返還できない。
こうして側妃は母国を後ろ盾に、帝国で暗躍するようになったというのだ。
帝国の自慢の武力も落ち、帝国には公国と戦う力は既になかった。王はやむなく側妃を受け入れていたのだ。
ナージャが震える声で呟いた。
「父上は母上のために側妃を迎えたのか?ずっと……ずっと、父上は側妃に篭絡され、母上のことなどどうでもいいと思っているとばかり……」
「聖女様を救うためにはそれしかなかったのです。陸軍の一部は宰相に知られぬよう影で聖女様をお守りしておりました。帝国は聖女様がいなくなれば側妃が正妃に、という心づもりなのでしょう。徐々に輸入される薬草の量も少なくなり……」
「それで母上の容態が悪化しだしたのか……。では、聖獣が私に顕現したとたん、父上が私に冷たくなったのは……」
「殿下が側妃に狙われぬよう、冷遇していると思わせたのです。ナージャ殿下の留学も、側妃に邪魔をさせぬようにとフィガロ団長に密命を……。王国に高名な医師がいることは陛下も知っていらっしゃり、最後の希望にかけてみようと、ひそかに協力を命じられておりました。海軍がお連れし、陸軍が出迎えたのも、閣下のご指示です。今まで殿下と王国の皆様にお伝え出来ずに申し訳ございませんでした。王国側の意図を確認する必要があったのです。今の状況で王国に攻め入られたら帝国は終わり。どこまで信頼してよいのか分からなかったものですから……」
再度深々と頭を下げて謝罪するリアム団長。その横でフィガロ団長も頭を下げた。
「あなた方を試すようなことをしてすまん。聖女様の容体悪化は国の戦力にかかわること。皆に伏せられていた。リアムと俺にだけ、口外せぬとの約束で知らされたんだ。
もうこれでこっちの情報は全て出した。どうか……聖女を救ってほしい。申し訳ないが、王国の威だけ借りたい。後はこちらで動く」
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