【完結済】婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでくださいな

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

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4、これ以上の失態は許されません。

 ところで、我が国では、お家騒動を避けるために基本的に第一王子が王太子になることになっております。
 第一王子に生まれつき障害があるとか、よほどの事情が無い限り、これは覆されません。
 つまり、たとえ側妃腹であろうと、正妃様のお子である第二王子ではなく第一王子であるアレックス様が王位継承権第一位なのです。
 普通ならば、側妃様が何人いようとも正妃様より先にお子が出来ぬよう調整するものなのですけれどね。もしくは「正妃様にお子が出来ぬと分かってから側妃様を」というのが、当たり前の王族としての判断なのですが……。
 ごめんなさい、つい愚痴ってしまいました。今さら言っても仕方ありませんわね。

 生まれた経緯はさておき、生まれたお子が優秀ならばまだ良かったのですが……。
 当のアレックス様ときたら、お母さまである側妃様と、父である陛下にそっくりだったのでした。
 絹糸のような金の髪、優し気に垂れた眼は晴れた日の海のように透き通った碧。白皙の肌にすうっと通った鼻筋。王家の金と、陛下の愛した優し気な瞳を併せ持つ、天使のような少年。外見だけは最高に理想の「王子様」なのですが……。
 中身はとても残念なもの。年齢不相応なプライドと自己愛の塊といったらよいのでしょうか。思慮が浅く、母親である側妃様と父親である陛下以外を「自分より下」だと見下し、「私は高貴な身分なのだから何をしても良い」と思っている愚かな子供。それがアレックス様なのです。

 もちろん、人望もなにもあったものではありません。そうでしょうとも。このような方に仕えたいと願うものがいるでしょうか。いるとしてもまともな人なら裸足で逃げ出します。
 実際に、過去にはこんなこともありました。
 幼い頃のアレックス様には、陛下から「是非に」と請われ、真面目で面倒見が良いと評判のハロゲン伯爵の嫡男マリウス様が側近としてつけられました。
 でも、マリウス様がアレックス様の軽率な言動や振る舞いをお諫めしたところ、アレックス様は「お前はこの私を馬鹿にするのか?」「第一王子である私のいうことに従わない気か」と逆切れした。マリウス様がそのお立場上反撃できないのをいいことに、殴る蹴るの暴行を加えたのです。
 実際のところマリウス様は思慮深いだけではなく剣技にも体術にも優れており、そのせいで陛下に目をつけられ……こほん、その腕を買われて側近に大抜擢されたのでした。アレックス様程度であれば軽くあしらうことも叩きのめすことも簡単でしたでしょうに……。反撃した結果、ご自分の実家にも咎非に問われることを懸念し、あえてマリウス様はその暴力を黙って受けられたのです。
 それなのに、そんなことも知らずにアレックス様は「マリウスに自分の分を分からせてやったのだ」と鼻高々で吹聴して回りました。おまけにアホ息子を諫めることのできる唯一の人物、陛下と側妃様にまでアレックス様の肩を持ち、マリウス様に謝罪するのではなく「お前は側近なのだ。仕える主への言動や態度を改めるように」とマリウス様の方を叱責したのです。
 これにはさすがのマリウス様の我慢も限界。マリウス様は「私のような無骨なものには殿下の側近は荷が重いようです」と職を辞し、「実家が咎非に問われぬように」と伯爵家に除籍を願いを送りそのまま出奔、他国の騎士団に入ってしまわれました。あらかじめ下準備は済ませていたのでしょうね。お手本にしたいくらいの迅速な逃走劇です。
 要するに「こいつの側近でいるくらいなら、家督も国も捨てて騎士として身をたてたほうがマシです」と匙を投げたわけです。

 陛下のたっての願いで王命まで使って無理に殿下の側近に据えたにもかかわらず、何の非もないマリウス様を庇うどころか馬鹿息子アレックス殿下の言いなりになって責めたてた陛下と側妃様。
 そのせいで、将来を期待された優秀な嫡男を失ってしまったハロゲン伯爵は、事情を知って怒り心頭。
「息子が陛下にご迷惑をおかけした以上、陛下に顔向けできませぬゆえ」と陛下が止めるのも聞かずに王都を後にし、領地に引っ込んでしまわれました。
 その後は王家からの再三の呼び出しにも「体調不良で」「領内で事故が起き」と何かと理由をつけ、応じておりません。王家の参加する全ての社交まで無視するほどの徹底ぶりです。
 そう、王家は代々忠臣として知られる伯爵家にまで見限られたのです。

 陛下が最後の望みを託した優秀な教育係たちも、何もしなかったわけではありません。彼らも必死で殿下の「なまけ癖」と「被害者意識が高く人のせいにする性質」を改めようとしておりました。ですが、アレックス様が母親である側妃様に泣きつき、いわれのない叱責を受けることに。
 結果的に、マリウス様につづいて教育係たちも「力足らずで申し訳ございません」と次々と職を辞し、「面倒は御免だ」とばかりに王都からも出て行ってしまいました。
 そうなると、もう次など見つかりません。
 こうして、殿下が学園に上がる直前の8歳の頃には、殿下を諫め貴族としての品格や教養を教えようとするものは誰もいなくなってしまったのでした。
 
 忠臣や信頼できる方々を失い、残ったのは王家に対する不信感のみ。
 ここにきてようやく焦ったのは、可愛い息子を甘やかすだけ甘やかした陛下と側妃様。このまま学園にやってはアホックスが何をしでかすか分かりませんものね。
 ただでさえ王家を支えるはずの高位貴族たちの心はみるみる内に離れていっております。
 これ以上の失態は許されません。
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