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9、もう手遅れです
お父様は数秒目を閉じ、大きく息を吐きました。これは、何か大きな決断をする前にお父様がよくなさる仕草です。
案の定。お父様は腹をくくったようです。顔を上げたお父様が陛下に向けた視線にはあからさまな侮蔑が含まれておりました。
その声はとても低く地を這うかのよう。断固とした響きで告げられたそれは、提言でもなんでもなく筆頭公爵家からの「決意表明」。
「陛下。もう手遅れです。アレックス殿下の側近になろうというものなど、おりませぬ。貴族としての誇りのあるもの、良識のある者、能力のあるものは、誰一人として殿下に付こうなどとは思わないでしょう」
「…なっ!貴様、いくらなんでも不敬であるぞ!改めよ!」
「ご不満ならば断罪でもなんでもなさってください。しかしその前に、我々が今王家の方々をどう思っているのか、不敬を承知で申し上げます。
夫である陛下に裏切られ、女性としての誇りも名誉も傷つけられ、思うところがおありだったでしょう。それでも『後継を産む』というお役目を立派に果たし、王配として国のために尽くす正妃様。
そしてそのお子として、正妃様と共に幼き頃より修練を重ね、その能力も品格も疑うものないと言われる第二王子殿下。
一方、貴族でありながら、婚約者のいる高位貴族、しかも王族を誘惑し子を宿すという淑女にあるまじき行い。さらには、召し上げられて後も、陛下の寵愛をいいことに国を混乱に貶め、国庫を食い荒らすだけの側妃様。
そして、幼き頃より王配となるべく厳しい教育を受け、人柄も能力も申し分のない婚約者の信頼を裏切り、可愛いだけの女に手を出したあげく孕ませた。それが陛下、あなたです。
『真実の愛』とやらのために、不貞の相手を側妃とし、その寵愛を隠そうともせず散財と横暴を許した陛下。
婚約者のいる王族を誘惑して側妃という地位を手に入れたあげく、陛下の寵愛の基、王族としての一切の責務を放棄し好き放題に国庫を食い荒らす側妃様。
自らの無能を棚に上げ、その虚言により有能な忠臣を次々と退職に追い込んだ第一王子。
これが我々の目から見た今の王族の姿です。
このような物言いが不敬だと仰るのであれば、どうぞ私を処分なさってください。
しかし、さすればこの国にもう希望などありませぬ。苦言を呈す忠臣を次々と切り捨て、甘言を口にするもののみを重用するような王家に誰が付いてゆきたいと思うでしょう?
望んだわけではございませんが、我が国の貴族への唯一の抑止力となっていたのが、我がジーニアス。その後ろ盾を失い、このまま最後の王となられるおつもりですか?
王家が生き残る道はただ一つ。陛下、どうか正しきご判断を」
「王であろうと異論は許さぬ。愚かな王として打ち取られるか、黙ってその場所から去るか、どちらかを選べ」
父は陛下に突き付けたのです。
陛下は最後のあがきのように自分の味方である「陛下の忠臣たち」に視線を送りました。
しかし向けた視線を受けるものはおりませんでした。
父の言葉を裏付けるかのように、この場にいる宰相からも「陛下の側近」からも父を諫める声の一つも上がらなかったのでした。
彼らとて分かっているのです。父の言葉は真実であると。
ここで声を発すれば最後、一応「王族」である陛下とは違い、甘言により重用されたにすぎない彼らは容赦なく狩られることになるのだと。ここで下手をすれば一族断絶も有り得るのだと。
案の定。お父様は腹をくくったようです。顔を上げたお父様が陛下に向けた視線にはあからさまな侮蔑が含まれておりました。
その声はとても低く地を這うかのよう。断固とした響きで告げられたそれは、提言でもなんでもなく筆頭公爵家からの「決意表明」。
「陛下。もう手遅れです。アレックス殿下の側近になろうというものなど、おりませぬ。貴族としての誇りのあるもの、良識のある者、能力のあるものは、誰一人として殿下に付こうなどとは思わないでしょう」
「…なっ!貴様、いくらなんでも不敬であるぞ!改めよ!」
「ご不満ならば断罪でもなんでもなさってください。しかしその前に、我々が今王家の方々をどう思っているのか、不敬を承知で申し上げます。
夫である陛下に裏切られ、女性としての誇りも名誉も傷つけられ、思うところがおありだったでしょう。それでも『後継を産む』というお役目を立派に果たし、王配として国のために尽くす正妃様。
そしてそのお子として、正妃様と共に幼き頃より修練を重ね、その能力も品格も疑うものないと言われる第二王子殿下。
一方、貴族でありながら、婚約者のいる高位貴族、しかも王族を誘惑し子を宿すという淑女にあるまじき行い。さらには、召し上げられて後も、陛下の寵愛をいいことに国を混乱に貶め、国庫を食い荒らすだけの側妃様。
そして、幼き頃より王配となるべく厳しい教育を受け、人柄も能力も申し分のない婚約者の信頼を裏切り、可愛いだけの女に手を出したあげく孕ませた。それが陛下、あなたです。
『真実の愛』とやらのために、不貞の相手を側妃とし、その寵愛を隠そうともせず散財と横暴を許した陛下。
婚約者のいる王族を誘惑して側妃という地位を手に入れたあげく、陛下の寵愛の基、王族としての一切の責務を放棄し好き放題に国庫を食い荒らす側妃様。
自らの無能を棚に上げ、その虚言により有能な忠臣を次々と退職に追い込んだ第一王子。
これが我々の目から見た今の王族の姿です。
このような物言いが不敬だと仰るのであれば、どうぞ私を処分なさってください。
しかし、さすればこの国にもう希望などありませぬ。苦言を呈す忠臣を次々と切り捨て、甘言を口にするもののみを重用するような王家に誰が付いてゆきたいと思うでしょう?
望んだわけではございませんが、我が国の貴族への唯一の抑止力となっていたのが、我がジーニアス。その後ろ盾を失い、このまま最後の王となられるおつもりですか?
王家が生き残る道はただ一つ。陛下、どうか正しきご判断を」
「王であろうと異論は許さぬ。愚かな王として打ち取られるか、黙ってその場所から去るか、どちらかを選べ」
父は陛下に突き付けたのです。
陛下は最後のあがきのように自分の味方である「陛下の忠臣たち」に視線を送りました。
しかし向けた視線を受けるものはおりませんでした。
父の言葉を裏付けるかのように、この場にいる宰相からも「陛下の側近」からも父を諫める声の一つも上がらなかったのでした。
彼らとて分かっているのです。父の言葉は真実であると。
ここで声を発すれば最後、一応「王族」である陛下とは違い、甘言により重用されたにすぎない彼らは容赦なく狩られることになるのだと。ここで下手をすれば一族断絶も有り得るのだと。
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