青春クロスロード ~若者たちの交差点~

Ryosuke

文字の大きさ
38 / 189
第3章

夏休み その4 花火大会➀ ~恋と尊とエビフライ~

しおりを挟む
 8月中旬、夏休みも残すところ2週間となった頃、二郎は相変わらず特にやることもなく真面目に部活で暇を潰していた。この日は3年の先輩達が夏のインターハイ予選を早々に敗退して、新体制の男子バスケ部になってから初めての練習試合を行っていた。

 現在の男子バスケ部は二郎達2年が4人、一年が5人の合計9人が所属していたが、この日は1年の2人が家の用事で欠席したため7人が参加することになった。しかし、1日通して4試合行い、その上、試合の審判や得点係を出すとなると、選手交代などで人が足りなくなることが予想されたため、新体制のバスケ部で部長となった2年2組の中田尊は女子バスケ部へ応援要請をし、同じく女子バスケ部の部長となった成田忍に試合の補助として参加してもらえる事となった。もちろんタダではない。二郎達男子バスケ部2年の4人が忍に夕食を奢るという条件が尊と忍の間で交わされていたのだった。

 この時この夕食会がこの夏休みの最後に起こるある惨劇の幕開けとなる事に誰も気づくことはなかった。
 
 男子バスケ部2年は二郎、一の他に部長となった中田尊と小野大和の4人がいた。尊と大和は現在2年2組で同じクラスであり親友と呼べる仲の良い関係だった。

 尊は単純明快の筋肉バカで、良くも悪くも裏表のない性格とあって交友関係も広く、どちらかと言えば女子よりも男子にモテるタイプの男だった。また身長が180cm以上あり運動神経も良く部内のエース的な存在だった。ただバスケを始めたのは高校からだったので、幼少時からバスケ一本でやってきた忍のような絶対的エースと言うよりは部で一番出来る程度のものだった。

 中学時代になんとなく陸上部で高跳びをやっていた尊は琴吹高校に入学したとき、バスケ部からの執拗な部活勧誘を断れず、行くだけ行って断ろうと思い部活見学へ行った時、隣の女子バスケ部いた一人の女子部員に一目惚れをした。

 それは入学早々に入部を済まし、すでに練習に参加していた忍だった。高校一年の時点で身長170cmあり、中学時代から活躍していた忍は3年の先輩よりも大きく女子バスケ部にとってのゴールデンルーキーとして迎えられており、とても目立つ存在だった。尊はその時点では忍が同学年とは知らなかったが、短髪、長身でスラッとしたボーイッシュな忍のプレー中に見せる真剣な表情や時折見せる可愛い笑顔などバスケを全力で楽しむ姿に見惚れて、その日のうちに入部する事を決断した。

 それから尊は部活に全力を注ぐようになり、一気に上達することになるが、それも全て女子バスケ部で活躍を見せる忍と仲良くなりたい、そして、忍を振り向かせたいという不純な動機がそこにはあった。

 ただ悲しいことに尊は非常に単純でいつしか忍にアピールする事を忘れ、あまりに部活に没頭していたため、1年半近く経った2年の夏の時点でも、忍にとっては部活命のバスケを愛する良い奴程度にしか思われてなく、尊の想いは成就する気配が全くないといえる状態だった。

 そんな現状を危惧した尊は練習試合で部員が少ないことを口実に忍を誘い夕食に行くという作戦に打って出たのであった。この時二人で行くのではなくて、二郎や一、大和を誘ったのは、この後、計画した事を実行するには二人きりよりも話しが進めやすいという目算があった。
 

 練習試合を終えた尊は予定通り、忍を夕食に誘い二郎達5人は駅前のファミレスに行くことになった。一通り注文を終え、試合の反省や雑談をしていると尊が4人の話しを遮って話し始めた。

「そういえばさ、皆は花火大会はどこか行ったか。俺はまだ今年行けてないんだよな」

「花火大会?俺も行ってないけど、なんだいきなり」

「俺も行ってないよ。本当は昭和記念公園の花火を見に行く予定だったけど、台風で中止になったから行けなかったよ」

「私も部活が忙しくて行けてないわ。もうこの時期じゃ全部終わっているでしょ」

「俺も行ってないわ。それがどうしたんだ、尊」

 二郎、一、忍が答え、最後に大和が返事をして尊に話を返した。

「そうか、実は俺も一と同じく昭和記念公園の花火大会に毎年行っているんだけど中止になって行けてないんだ。せっかくの夏休みに一度も花火を見ないとなんか損した気がしてさ、それで色々調べたらまだ一つやる予定みたいなんだよ」

「そんなのあったけ、だいたい7月か8月の上旬で終わりだった気がするけど」

「先週確か墨田川の花火大会があってそれで大きな花火大会は都内では最後の気がしたけどどうだろうな。地元の青梅の花火大会も8月の初めにやったしなぁ」

 大和と二郎があれこれ言っていると一がその答えを提供した。

「尊、それって8月末の武蔵村山の花火大会のことじゃないか」

「さすが一、当たりだよ。実は規模はそんなに大きくなくて、会場に行くまでの交通の便があまり良くないけど、武蔵村山の花火大会はあまり混まない穴場らしいぞ。屋台もそれなりに出て、いろんな出し物とかも花火の前にやったりする地元のお祭りみたいな感じらしいんだわ」

 尊はここぞとばかりに花火大会の魅力を語り皆が興味を持つように必死で祭りの概要を説明した。

「へー、そうなんだ。一はよく知ってたね。稲城に住んでいるあたしにとっては武蔵村山ってまったく関わりが無くて全然知らなかったよ」

 南多摩の稲城市民で府中市の高校に通っている忍にとっては村山や小平、東大和といった北多摩エリアは交通の便も悪くほとんど行くことのない地域だった。もちろん、そのさらに北西にある青梅や羽村、福生などの西多摩エリアは地図の位置関係すらもよく分からない未開の地として忍は考えていた。

「まぁ俺も実は生徒会で話が出て聞いた話だけどね。尊の言うとおり、バカみたいに混まなくて結構良いらしいよ。生徒会長の英治先輩が小平住まいで毎年見に行くらしくて、3組の書記の巴ちゃんも立川の北側に住んでいて近所らしくて昭和記念公園の花火大会より混まなくて良いって言ってたよ」

 一の話を聞いて二郎、大和、忍の3人が納得していたところで、尊が本題に切り込んだ。

「まぁそういうことだから、皆でその花火大会を見に行かないか。花火自体は夜の7時45分から8時30分までで短いけど、屋台も出てちょっとした出し物もあるみたいだから少し早めに行って夏を満喫するのはどうだ」

「俺はもともと生徒会のメンバーで行く予定だったから、会場で合流する感じでも良ければいいよ」

「俺は花火だけで良いから適当にふらっと見に行くわ」

「俺も予定無いし、参加するぜ」

(よし、一は生徒会で二郎は遅れて参加か、大和には事情を説明して協力してもらえば、忍と二人きりになれるチャンスがあるかもしれない。後は忍が来てくれれば作戦は成功だ。ここは焦らず冷静に忍を誘うだけだ)

 尊は男子3人の参加を確認後、本命の忍へ声をかけた。

「忍もどうかな。今年まだ花火を見れていないなら良い機会だし、他の3人も来るみたいだからさ。・・・俺と、一緒に熱い夏の思い出を、つ、作ろうじゃないか」

 尊にとっては何日も悩み考えた一世一代のデートの誘いの決め台詞だったが、忍はそんなことよりも腹が減っていた。

「お待たせしました。ハンバーグとエビフライのセットです」

「あ、やっときた。私のハンバーグ!エビフライも2本も付けてもらって本当におごりで大丈夫?あぁ花火大会だっけ。それなら友達にも声かけてみて、都合がつけば参加するよ。じゃ、お先にいただきまーす!」

「おう、そうか、エビフライ美味いよな。いっぱい食べてくれ。も、もちろん友達も誘って大丈夫だから。日程は8月24日、8月第4週の日曜日だ。時間は夕方の6時頃に集合で良いと思うから話してみてくれ」

 尊がおおまかな日時を皆に伝えて、この場での話しは終わった。

 二人のやり取りに何かを察した二郎は一抹の不安を感じつつも、そこでは深くは考えずに運ばれてきたタンドリーチキンとメキシカンピラフを食べ始めた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...