青春クロスロード ~若者たちの交差点~

Ryosuke

文字の大きさ
80 / 189
第4章

人の噂も七十五日⑬ ~私の知らない君を探して~

しおりを挟む
 一とすみれは生徒会室のある本館3階に移動するため教室を出て階段を登り始めるとすみれがドキドキを押さえながら声を潜めて言った。

「夜の校舎ってなんとも言えない雰囲気があって何だかドキドキするね」

「確かにね、毎日普通に使っている階段も何か特別な感じがするよね。ほら、足下が暗いから捕まって」

すみれの言葉に一は頷きながらすみれの手を取って言った。

「っ!うん」

 すみれは言葉にならない驚きの後、しっかりと一の手を握るとそれからは何も言わずに一段前を歩く一の手のひらの暖かさを実感しながらこの後の展開にさらなる妄想を膨らませるのであった。

「はい、到着!鍵を開けるからちょっと待って。・・・よし。・・・・・はい、我らが生徒会室へどうぞ」

 一が鍵を開け一足先に部屋へ入ると手慣れた様子で電気をつけて部屋の前で待つすみれを招き入れた。

「お邪魔します。・・ここが生徒会室かぁ。私今まで一度も入ったことがなかったよ。意外とこぢんまりとして小さくまとまってる感じだね」

 すみれが率直な感想を言うと一が苦笑いで答えた。

「そうなんだよ、すーみんの言うとおりに正直手狭でね。五人が全員揃って作業していると圧迫感が凄いから、なるべく作業時間が被らないように工夫して最近は活動しているよ。何だか年々モノが増えるって英治先輩がぼやいていたよ」

 一が言うとおり現状の生徒会室はスペースがあまりなく見るからに窮屈そうな状況だった。

 まず目につくのは一達生徒会のメンバーのデスクだ。入り口から一番奥に位置するのが会長用のデスクであり、そのデスクに側面が着くように縦にデスクが向き合うように2列4台並べてあり、会長が4人の横顔を見る事が出来る配置となっていた。そのデスクの上にはノートパソコンが置いてあり、さらには多くの書類や私物などが並べてあった。

 またそのデスクの塊から人が二人通れるかどうかと言うほどの間を開けて両サイドに大きな棚が設置されており、右側には壁全面に、左側は壁の半分ほどの幅を占めており、これまで長年に渡る歴代の生徒会の活動記録や本年度の生徒会の取り組みに関する書類など多種多様の資料がファイルリングされていた。

 左側半分の棚のないスペースには制服やコートを掛けるハンガー置き場や冷蔵庫やゴミ箱に掃除用具入れや備品をしまう小さな引き出し箱、他にも生徒会活動には関係ない受験用の赤本や歴代の先輩達が置いていったのか漫画や小説、雑誌などの本が詰め込まれた小さな本棚など多くのモノが置かれていた。
 
 その様子を一通り見渡すと所々に歴代の生徒会メンバーが写った写真や学内行事の様子を撮った写真などが貼られており、これまでの生徒会の歴史を随所で感じることの出来るこの部屋の雰囲気をすみれは好意的に受け取っていた。
 
 そんなことを思いつつ少しでも一の事を知りたいと思いながら、生徒会室の中をじっくりすみれが観察していると一枚の写真を指さして一に問いかけた。

「これって一君達だよね。去年のクリスマスの写真かな。ふふふ、なんかこれ凄く良い写真だね」

 そう言った写真にはクリスマスにちなんだコスプレをした生徒会の5人のメンバーが写っていた。

「それか、懐かしいな。あれから色々あったけどあっという間な気がするな。この時まだ新しく生徒会に入ったばかりでちょうど年末の部屋の大掃除を皆でやった後に親睦会もかねて忘年会をしようってほのか先輩が言い出してさ。俺の生徒会の一番初めの仕事はこのパーティーの準備だったんだよなぁ」
 
 一が懐かしそうに写真を眺めているとすみれが笑いながら尋ねた。

「でも、これ何の格好をしているの、一君。1人だけ何か変なコスプレなんだけど」

「何ってトナカイのコスプレだよ。ほのか先輩がクリスマスパーティーにはサンタの衣装が絶対に必要だって言うモノだから、ドンキでコスプレの調達をしに行ったんだけど、サンタコスが4着しかなくて、俺なんかはトナカイで十分だって凜先輩が言い出して、結局俺だけ微妙なトナカイコスプレをさせられて恥ずかしい思いをしたんだよな」

 一が笑いながら去年のクリスマスパーティーを思い出しているとすみれが写真を見ながら言った。

「でも、結構ノリノリな感じで写真には写っているし、どちらかと言えばこの子、宮森さんだっけ。彼女の方がめちゃくちゃ恥ずかしそうに顔を真っ赤にしているけど」

「あー巴ちゃんね。これ大変だったんだよ。コスプレなんて風紀の乱れだって言い始めてなかなか服を着ないモノだから、ほのか先輩と凜先輩が意地になって着せようとしてさ。やっとこさ着たところで記念写真を撮るって言ったら、またそこで写真は魂が抜かれるから良くないとか、こんな格好したら嫁に行けなくなるとか言って巴ちゃんがごねるもんだから服を脱がないように皆で押さえつけてやっと撮った写真がこれなんだよね。本当に巴ちゃんには悪い事したけど、なんだかんだで思い出に残っているのはこういうバカな事だったりするんだよね」

 その写真には暴れ出す巴の体をがっちり腕ごと両手で抱き込み満面の笑顔とともにサンタコスをノリノリで着こなすほのかと、コスプレの赤いポンチョを巴に着せて自分も初めてするコスプレに思いのほかテンションを上げてしめしめと笑う凜に、渋々と先輩の命令に従い巴にサンタ帽子を被せてトナカイのコスプレをさせられている一がいた。またその少し後ろには白いふわふわの髭をつけてサンタ帽を被りながら達観した表情で4人を見つめる英治と写真の真ん中で3人に捕縛され顔を真っ赤にしながら何かを叫んでいる巴の姿がそこにはあった。

「私の知らない一君がいる」

「どうした急に」

 先程までの明るい表情から真剣な顔つきになったすみれに心配そうに一が声を掛けた。

「いや、これが生徒会の人たちと居るときの一君なんだなって思ってね。私はまだ一君の事を全然知らないんだなって痛感しているとこだよ」

「そんなの当たり前だろ。俺だってまだすーみんのことよく知らないし、これから沢山知っていきたいと思っているよ」

「ありがとう。でも私も生徒会の皆さんに負けないくらい一君がいつも笑顔で居てもらえるような最高の彼女になれたら良いなと思うよ」

 すみれの嘘偽りのない正直な想いを聞いた一は嬉しく思いながらも、その思いを受け止められるかどうかという一抹の不安を心に隠しながらごまかすように言った。

「そうだね、でも、ハードルは高いぞ。本当に色々と振り回されて大変な思いをさせられたけど、その分この一年は本当に多くのことを学ばせてもらったし、バカな事で楽しませてもらったんだ。そんな訳でこの生徒会の先輩3人と巴ちゃんを加えた4人を俺は尊敬しているし、最高の仲間だって思っているよ。だからそれと同じくらい俺にとって大事な存在になるのは難易度が高いかもよ」

 一は今まで誰にも話したことがない生徒会メンバーへの思いを語りつつ、すみれに発破を掛けるようにいじらしく言った。

「そんなにハードルが高いの!やっぱり私じゃ無理なのか」

 先程までの真剣な表情から急に自信を無くし弱気な顔になったすみれが一に泣きつくように言った。

「まずは突然意味不明な妄想世界に飛ばないように気をつけることかから始めようか。さすがにさっきのアレは想像豊かな男子高校生でも付いていけないレベルの妄想だったからね。すーみんは一体普段からどんな妄想をしているんだよ。全く破廉恥な娘だわ!」

 一がすみれの妄想爆発した教室での事をいじり倒していると、余りの羞恥心に顔を下げて、即座に土下座をしながら平謝りをし始めた。

「本当にそれだけは誰にも言わないでください。何でも言うことを聞くからお願いします。思い出すと恥ずかしくて穴に入りたいぐらいだよ。もうしませんから勘弁してください」

「本当に、何でも言うこと聞くの。本当に?」

 一がニヤニヤしながらすみれに問いかけると、恥ずかしそうにつぶやいた。

「エッチな奴は、ちょっと心の準備をさせて欲しいです」

「だから何で俺がそんな要求すると思っているのさ。冗談に決まっているでしょ。付き合いたての大事な彼女にそんな無茶振りをするわけないでしょうが。本当に今日のすーみんはむっつりすーみんだな。全然懲りてないじゃんか、全く」

 一のからかいにようやく気付いたすみれはさらに顔真っ赤にして、顔を両手で押さえながら羞恥心でもだえ苦しむのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...