青春クロスロード ~若者たちの交差点~

Ryosuke

文字の大きさ
96 / 189
第4章

人の噂も七十五日㉙ ~新たな証言者~

しおりを挟む
 エリカ達三人が話し合いをしている頃、二郎も独自で噂を流した犯人捜しをするための証人探しで体育館に居た。

 練習が始まる前のバスケコートで二郎は女子バスケ部の副部長である神部歩と待ち合わせをしていた。

「神部、この前お願いしていた件だけど何か分かったか」

「まぁ分かったような、わかんないようなそんな感じだったわよ」

 問いかけに煮え切らない表情で歩は答えた。というのも歩は二郎に日曜日の練習中に行った1on1で負けた罰として噂話を流した犯人捜しに協力する事になっており、二郎に従うことをしゃくに思う一方で、親友である忍や想い人の尊に同じバスケ部員である一や二郎が噂の種にされている事を不満に思っていたこともあり、渋々ながらも二郎に協力することになっていたからだった。

 そんな事情もあって二郎は噂の情報源の可能性がある3組の調査と女バス部員からの聞き取りを歩にお願いしていた。

「分かったことは二つ。一つは女バスの子達からの話で、やっぱり噂を聞いた相手は3組の子からが多かったみたいよ。もう一つの3組内部の話だけど噂を聞いた相手は皆バラバラだったわ。なんか噂の出所のことを聞くとヤケに黙り込んじゃって、やっと出た名前も皆バラバラで一人にはたどり着かなかったわ。なんか誰かに気を遣っている感じだったわ」

「そうか、まぁある程度予想はしていたけど、そう簡単にはいかないか。でも、これで犯人は3組の誰かって事は間違いなさそうだな。俺も放課後に残っている他のクラスの奴に先週話を聞いたらほとんどの奴が3組の友達から噂を聞いたって奴ばかりだったからな。それと一つ確認だが、3組のリーダー的な奴って誰がいるんだ。他の女子が気を遣って名前を出しにくいような奴はいるか」

 二郎は普段知ることもない3組内の勢力図について歩に質問した。

「そうね、まずウチのクラスの女子で力を持っているのは2人かな。1人は生徒会の宮森さんね。真面目で先生受けもいいし、若干口うるさいところもあってブーブー言われることもあるけど、なんだかんだで男女含めて彼女がクラスのリーダーだと思うわ。もう1人は吹奏楽部の鈴木って子かな。彼女は女子内の大派閥のリーダーで女子の半分が彼女のグループにいる感じだし、他の子達も睨まれないように気を遣っているところもあるわね。私は正直ああいう面倒くさい女は嫌いだから関わらないようにしているけどね」

 歩は巴に対しては親しみを持って、亜美菜に対しては嫌悪感を隠さずに二郎に説明した。それはちょうど1年の頃にすみれが亜美菜に対して感じていた感情とまるで同じモノだった。

「宮森と鈴木か。男子はどうだ」

「男子はリーダーらしいリーダーは居ないけど、強いて言うなら野球部の五十嵐君が男子の中じゃ目立っているかもね。悪い意味で、だけどね。彼ちょっと痛いところがあるけど運動神経は良いし、黙っていればまぁまぁイケ面だから一部の女子からは人気あるからね。まぁそう言うこともあって凄い高圧的で人を見下すからあまり好かれてないけど、それでもウチのクラスの中じゃ一番目立っているとは思うよ」

「あぁそう言えばあのバカもお前のクラスだったな。俺はこの騒動を聞いたときに一番初めに五十嵐のことを犯人だと思っていたから、あいつが3組だって聞くとあぁやっぱりかって気がするわ」

 二郎の意味深の言葉を聞いて歩が問い詰めた。

「それどういうことよ。五十嵐君が犯人かもって、あんた彼と何かあったの」

「いやまぁたいしたことじゃないが、ちょっとな。まぁお前が気にすることないさ。とりあえず今回はご苦労さん。また動いてもらいたいときは言うからそんときはよろしく」

「ちょっとあんた、勝手に話を終わらせないでよ、もう」

 歩が二郎に抗議をしているところで、隣のスペースで部活を行う剣道部の部員達が入って来ていた。その中の知った顔を見つけた歩は声を掛けて呼び止めた。

「あ、宮森さん。お疲れ様。今日は生徒会は大丈夫なの」

「神部さん、そうなのよ。今日は一ノ瀬君が仕事を請け負ってくれてるから私は部活に出て大丈夫なのよ」

 2人の会話を聞いていた二郎が巴に話し掛けた。

「宮森、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけどいいか」

「あなたは山田君じゃない。珍しいわね、あなたがこの時間に体育館にいるなんて。でもどうして制服のままなの」

 巴は生徒会によく顔を出す二郎とは顔見知りであり、普段二郎が校内を徘徊して部活に遅刻する常習犯である事を知っていたため、二郎の問いかけを完全に無視するように驚いて言った。

「俺がここに居ることはそんな驚くことなのか。そんなことよりも宮森もあの祭りの日は現場にいたんだよな」

「祭りって武蔵村山の花火大会の日のことかな」

「その通りだ。一が生徒会のメンバーで行くって言ってたから、お前も来ていたんだろ、違うか」

「そうだけど、それがどうしたのよ」

 巴は二郎の問いに怪訝そうな様子で返答した。

「宮森、お前も当然知っていると思うが、あの日の色んな事に関する噂が出回っていて、こちとら迷惑しているんだ。俺としては気分が悪いし、友人がコソコソと陰口をたたかれているのは許せないんだわ。だから、その噂を流した奴を突き止めて早いところ収束できるようにしたいから犯人捜しに協力して欲しいんだが」

「いきなりどうしたのよ。それに犯人捜しってそんなこと出来るの」

「出来るかどうかじゃない。やるんだよ。そのためにも何でも良いから知っていることを教えてくれ」

 二郎の真剣な表情に巴は一息ついて答えた。

「そう、本気なのね。分かったわ。確かに私も変な噂話は風紀の乱れに影響すると思うからどうにかしたいと思っていたのよ。だから協力してもいいわよ」

「そうか、ありがとう。そんじゃあの日の事を詳しく教えてくれないか」

 二郎は巴の好意を受け取り、遠慮せずに質問した。

 巴の話はまとめれば以下の様だった。

17:00 生徒会メンバーが会場到着。1時間程会場を散策。

18:00前 3年先輩と別れて一と場所取りをする。その時に尊と大和に会う。

18:10 場所を見つけて2人で待機。

18:15 巴は用事があってその場を移動し、一だけが残る。

19:30 再び生徒会シートに戻るも一の一悶着を目撃し、バスケ部シートへ避難する。その後は花火が終わるまでバスケ部シートにいた。



 その話を聞いた二郎が巴に問いかけた。

「なるほどな。何があったかは聞かないけど、一と別れてから生徒会シートに戻るまで一時間以上あるけど、会場の中にはいたのか」

「うん、いたよ。ちょっと考え事をしていて気がついたら結構時間が経っていてビックリしたわ」

「そうか、ちなみにその時に誰かウチの学校の人間を見なかったか」

「うーん、誰も見なかったと思うわ。それに考え事をしていてあまり周囲を見ていなかったから誰かいても気付かなかったと思うわ」

「そりゃそうか。まぁあとは一の事は・・・あいつに直接聞くとするとして、最後に何か気になった事とかはなかったか、何でも良いからさ」

 二郎は素直に質問に答えていく巴に手がかりがなさそうに思い最後の確認のつもりで問いかけた。

「気になることか。・・・・そうだ、1人ウチのクラスの子を見かけたのよ。あの一君の騒動の野次馬の中に彼女がいたのよ。一瞬目が合ったんだけど、すぐに姿を消してしまったけど間違いないと思うの」

「彼女って一体誰のこと言っているんだ」

 二郎が食い付くように答えを求めると巴が目を見据えて言った。

「それは鈴木さんよ」

 その答えに黙って2人の話を聞いていた歩が驚いたように言った。

「それって鈴木亜美菜の事なの、宮森さん」

「そう・・・だけど」

 歩の差し迫った反応に巴が驚いている一方で二郎と歩が目を合わせて頷いた。

「どうやら犯人の顔が見えてきたみたいだな」

「そうね」

 2人のわかり合ったようなやり取りにいまいち要領を得ない巴が首を傾げていると、この騒動の真相を解明する最後のピースを知る男が3人に声を掛けるのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...