青春クロスロード ~若者たちの交差点~

Ryosuke

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第4章

人の噂も七十五日㉞ ~エリカの推理~

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 ようやく場が落ち着き一瞬の沈黙が落ちると、二郎がエリカに目配せをし、それを受けてエリカが1歩前に出て話し始めた。

「改めて鈴木さん、五十嵐君、それと佐々木君も、私達のわがままに付き合ってくれてありがとう。先程から何度か話には出ているけど、私はこの2学期が始まってから校内で広まっている噂話を一日でも早く収束させたいと思っているわ。それはその噂の対象が私の大事な友人の事で、それは私自身聞いていてとても不快だし、少なからず噂のやり玉に挙がっている当人達はイヤな思いをしているはずだから、私は悪意をもってこの噂を流し広めている人間を突きとめてそれを止めさせたいと思っているわ。だけど、私は当日現場にいなくて詳細を全く知らなかったからこの2週間私なりに色んな人からあの日の出来事について聞いて、他にもこの話に関連のある事柄を自分なりに調べて、推理をしたからそれを皆に聞いて欲しいの。いいかな」

 エリカは真剣に、そして、静かな怒りを込めてこの場に居る5人に語りかけた。その雰囲気に瞬や亜美菜は何も言い返すことが出来なかった。その沈黙を了解と受け取ったエリカは順を追って花火大会当日の概要と噂を広げた犯人捜しの推理を話し始めた。

「まず事の発端は男子バスケ部の中田君が夏休みの最後に皆で花火を見に行こうと言ったことから始まったわ。これに忍が三佳とすみれを誘って参加することになった。それと同じく生徒会の皆さんもこの花火大会に行くことになって、この時点で噂の当事者である一君、二郎君、三佳、忍、中田君が参加することになったわ。それから当日飛び入りで二郎君と一緒にサッカー部の剛、つまり工藤君が参加したことで、噂の当事者が全員揃うことになった。ここまではいい」

 エリカの目配せに全員が無言で頷くと、エリカは話を先に進めた。

「それから噂になった出来事が起こっていくわ。まず一つ目は中田君が忍にした告白。これは当人の忍に確認したら事実だと認めたわ。それと大体7時頃に告白があったそうよ。それと同時に三佳が剛に告白を受けた。これも三佳が事実と認めていて時間は同じく7時頃とのこと。もちろんその告白は全く違う場所で行われたわ。ここでまず一つの問題が生じるの。同時刻に別の場所で起きた告白をどうやって犯人が知ることが出来たか」

 エリカの問いにすみれが段取り通りのように淀みなく答えた。

「それは犯人が一人ではなく複数人いたから、だよね」

「そう、その通り。私もそう考えるわ。次に二郎君の三股疑惑、これは当人の二郎君を前に話すのは気が引けるけど、大丈夫」

 エリカの確認程度の問いかけに二郎は黙認すると言った様に首を縦に振り目をつぶり了解のサインをした。

「ありがとう。では詳細はこんな感じ。生徒会副会長の二階堂先輩がバスケ部のシートに二郎君を誘いに来たのが7時頃。ちょうど三佳と忍の二人が告白を受けていた頃に二人はデートを始めて、7時20分頃には二人は別行動を取った。それから二郎君はしばらく一人で屋台を見て回った後で、忍が二郎君に声を掛けて、二人で話しているときに屋台のお姉さんが現れて修羅場になった。なんやかんやあって最終的には二郎君とお姉さんが二人で姿を消したと。これが7時30分頃の話ね。改めて話してみても凄い状況だったわね、二郎君。おっとごめんなさい、話が脱線したわ。まぁつまりは二階堂先輩といた時間と後の二人といた時間を確認するためには15分くらいは二郎君の様子を見て居ないと分からないって事なの。そして最後の一君と謎の女子との一悶着の件も同じく7時半前後に起きた事らしくて、これも全く異なる場所で同時刻に起こったことを考えても、どうしたってこの噂を見て広めた犯人は複数いることが確定するの」

 エリカの推理に二郎が付け足すように言った。

「それとこれは俺が聞き回って得た情報だけど、4つの噂はどうやら2つのルートに分かれて流されていたようだ。なぜなら、三佳と忍の噂に俺と一の噂のどちらかだけしか知らない奴がちらほらいたんだ。これはそれぞれ同時に起きた出来事で一人の人間では知ることが出来ないことだから、複数いた目撃者がそれぞれ知り得た4つの出来事を2つに分けてわざと噂で流すように仕向けたんだ。そうすることで簡単には情報の発信源にたどり着かないようにして、俺たちみたいな犯人捜しをする人間を混乱させようとしたんだろな。そんなこともあって犯人が複数いることはほぼ間違いないと俺も思っているよ」

 二郎の話を聞いたすみれがいまいち理解できないと言った様子で問いかけた。

「でもどういう理屈で二つに分けた意味があったの。あまり意味が無いように感じるけど」

「確かに疑問に思うかもしれないな。だけど聞き込みをしていて、これのやっかいさを思い知らされたよ。例えば、一人の人間に同時に4つの噂を聞いたとして、その人間はどこから噂を聞いたかと聞かれたら、迷わずその相手の名前を言うだろ。その場合、犯人捜しをする時に割と簡単に噂の流れを辿れるんだよ。だけど、もし別々の人間から別々の噂を聞いたとしたらどうだ。しかもそれが一日二日時差があった場合これが面倒になる。噂を誰から知ったかと聞かれたときに二人の名前を言うだろう。それを追うときに単純に倍のルートを探る必要が出来るし、それで時間が経つにつれて、2つの噂を別の人間から何度も聞くことが増えるだろ。そうすることで噂の流れる糸がひっちゃかめっちゃかになって、誰がいつ誰にどの噂を聞いて話したのかだんだん記憶が曖昧になってくるんだよ。おかげ随分情報収集に苦労させられたぜ。なぁエリカよ」

 二郎はエリカの様に当事者達からの話を聞かなかったため、当日の詳しい時系列を知らなかったが、独自の聞き込みから犯人が複数いることに気がつくことが出来たのだった。そのヒントを与えたのは普段人とほとんど交流のない四葉と当日早々に告白に失敗してからずっとバスケ部シートに張り付いたため人と時間の流れを全て知ることが出来た大和だった。

 まず四葉は三佳と忍の噂だけを数少ない友人であるレベッカから聞いたとのことだった。それ以降も一切他者から噂話を聞いていなかった四葉は二郎と会ったときもハッキリと二つだけしか話を知らないと言っており、二郎に疑問を与えるきっかけとなった。そして、大和は逆に一と二郎の事だけを噂に聞いていた。初め二郎は4つの噂を大和が知っていると思っていたが、詳しく話を聞く内に、大和だけが唯一あの日、尊の告白と剛の告白が同時に起こることだと知っていたことに気付いた。なぜなら、あの日尊の企みを一番初めに問い詰めたのは大和であり、また二郎が剛を連れてきて、三佳と二人きりになり話をしたいと誘ったときに、剛の気持ちを悟って援護射撃した張本人が大和だったからだ。

 そのため、二郎と一の噂話を聞いて驚いた事だけが印象に残っており、三佳や忍の噂を何度聞いても初めから事実をしていった大和にとっては当たり前だったこともあり、噂の情報源に関して確実な記憶として覚えていたのであった。それを元に二郎は三佳と忍の噂の情報源としての四葉ルートと二郎と一の噂の情報源としての大和ルートの2つに絞って徹底的に辿ることで、二郎はある二人の人物の名前にたどり着くことが出来たのであった。

 二郎の話を聞いたすみれが納得したように言った。

「なるほど、確かに情報は多ければ多いほど良い様に思えるけど、その中に曖昧な情報や間違った情報があると逆に混乱を招くことがあるよね。それを狙って犯人はわざと噂を2つに分けて情報を小分けにすることで噂の流れを細かく複雑になるようにしたって事だね」

「まぁそう言うことだろうな。ごめん、エリカ。話の腰を折っちまって、先を続けてくれ」

 二郎が申し訳なさそうにエリカに話の主導権を渡すとエリカが感心した様に言った。

「いや、大丈夫だよ。二郎君の言うとおり犯人が複数いることはやっぱり間違いないってわかったから。それにしてもよく三佳や忍、それと一君からも詳しい話を聞かずにその答えにたどり着けたね。二郎君って一体何者なの」

「別にただの根暗なひねくれ者だよ。クラスにいればそれくらい分かるだろ」

 二郎がはぐらかすように言うとエリカは呆れたように笑った。

「全くまた適当なこと言って。まぁ良いわ。今度一君にでもゆっくり話を聞くから。それじゃ、話の続きをさせてもらうけどここまで大丈夫、二人とも」

 エリカは黙って話を聞いていた瞬と亜美菜に視線を戻して言った。するとしびれを切らした二人が苛ついた様子で返事をした。

「あれこれ推理だの何だの言ってるけどよ、言いたいことがあるならハッキリ言えよ、飯田」

「あたしももう飽きたんだけど、早く終わらせてくんない」

 瞬と亜美菜の回答にエリカは満を持して断言した。

「あらそう、なら遠慮なく結論から言わせてもらうわね。私は鈴木さん、あなたが今回の一連の騒動の主犯だと思っているわ。それに協力者が五十嵐君あなたよ。二人で共同して4つの出来事の現場を目撃して、それを二つの噂に分けて流して広めていった。これが私がこの2週間調べた情報を基にして出した推理の結論よ」

 エリカに犯人として断言された二人は無言でその言葉を受け止め、しばらく黙っていたが亜美菜がその沈黙を破り言った。

「まぁそう言うことでしょうね。でも、一体何ために私はそんなことをするわけ。それに私が犯人だって証拠でもあるのかしら。ちゃんと納得できるだけの説明をしてもらおうじゃない」

 亜美菜は覚悟していたように堂々とそしてどこか自信を持ってエリカの話を促すように言った。

 その二人のやり取りを二郎は見守るように、そして同じく黙って静観する、瞬、すみれ、勇次の様子を確認しエリカの次の言葉を待つのであった。
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