青春クロスロード ~若者たちの交差点~

Ryosuke

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第5章

二郎の散歩⑦ ~三佳の行方と新たな物語~

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 敦子、エリカ、ほのかの追求からようやく解放された二郎はようやくこの日一番の目的だった陸上部の三佳の様子を見るために校庭に出てきていた。ちょうど夕方5時になり日も少しずつかげり始めてきたこの時間、気持ちの良い汗を散らしながら多くの生徒達が部活に青春を捧げる姿が広がっていた。



 この日校庭では野球部とサッカー部、それに陸上部が活動を行っており、校舎玄関口から見て手前にサッカー部が、その奥に野球部が練習しており、両部の脇に沿って陸上トラックの100m走が出来る程度のスペースがあり、そこを陸上部は主な練習場所として利用していた。ただ陸上部の場合、学校外周をランニングしたり、幅跳びで砂場を利用したり、競技によって使うスペースが異なるため、いくつかのグループに別れて練習していた。



 二郎はしばらく校庭の際から遠目で陸上部の様子を伺い三佳の姿を探していたが、どうにも見つからずにいた。



 三佳と言えばトレードマークの背中まで伸びたポニーテールと170cm程のスラッとした立ち姿は遠くから見ても一目で分かるはずであったが、いくら目をこらして探してもその特徴的なシルエットは見つからなかった。



(おかしいなぁ、校外に走りにでも行っているのかな。面倒くさいが誰かに聞いてみるか)



 そんなことを考えながら二郎は一人の陸上部員がポツンといるところへそろそろと近づき話し掛けた。



「あのー、すいません」



「はい、なんですか?」



「急にすいません。三佳ってどこにおりますかね。もしかして外周にランニングでも行っていますか」



「はい?えーっと、あなたは?」



 二郎が話し掛けたのはショートボブに白いキャップを被り、胸にナイキのロゴが入った水色のTシャツと黒いスポーツタイツに黒のショートパンツを身に纏い、明るい青一色のスニーカーを履いている爽やかスポーツ少女である2年2組の美波葵だった。



 葵の明らかに警戒する様子を見た二郎は不信を払拭するように返答した。

 

「いや、俺は三佳と同じクラスの2年5組の山田っていうだけど・・・」



「はぁ、5組の山田君ですか?ごめんなさい、ちょっと分からないけど、三佳に何か用ですか?」



 葵は二郎の名前を聞くも全く心当たりがなかったのか、二郎をさらに怪訝そうな目付きで睨み付けて言った。



「別にこれと言って用があるわけじゃないけど、ちょっと近くを寄ったから声でも掛けようかと思っただけなんだけど。そんな怪しい者じゃないからそんな怖い目で見ないでくれよ。別にアイツに付き纏ったりしているわけじゃないからな」



「ふーん、そうですか。でも、だいたい怪しい人ほど、自分は怪しくないって言う気がするけど」



 葵は二郎の言い分にさらに不信感を募らせて後ずさりしながら言った。



「いやいや、どんだけ疑い深いのさ。俺は夏休みにわざわざ三佳の全国大会の応援で熊谷まで行ったくらいの仲だし、最近は結構仲良くしている方だと思うんだけどな」



「え、君も全国大会に来ていたの?もしかしてあの時三佳に取材をしたのも君だったの」



「そう言えばそんなこともあったな。あれは俺の連れが生徒会でその手伝いもあって三佳の応援に行ったんだよ。どうだ、信じてくれるか」



 二郎の話に信憑性が取れたところでようやく葵は表情を緩めて答えた。



「そっかそっか、いや~あなたみたいに三佳に言い寄ってくる男子が後を絶たないから少し敏感になっていてね。三佳の友達とは思わず疑ってしまってごめんなさい」



「いや、分かってくれれば良いんですよ。それで三佳が見当たらないんだけどアイツはどうしたんですか」



「実は今日部活には来てないんですよ。最近あまり顔を出して無くて」



「そうなんですか。やっぱり何かあったのかな、三佳の奴」



「あの~、何か気になることでもあるんですか」



 二郎はつい先程交わした三佳との会話を思い出しながら心配そうに言った。



「いや、たいしたことではないんですけど、今日の授業終わりにちょっと話をしたときに、なんか元気がない気がして。それでちょっと気になって部活の様子を見に来たところだったんですよ。普段元気のある奴だから静かにしていると気になってしまって。まぁ俺の考え過ぎなのかもしれないですけどね」



 葵は二郎の人の良さを感じたのか、急に親近感を持って二郎の人となりを知ろうと話題を変えて言った。



「そうだったんだ。三佳の事を心配して来てくれたんだね。優しいね、山田君って。あぁそうだ、私まだ自己紹介してなかったよね。私は2年2組の美波葵って言います。私も短距離をやっている関係で三佳とは練習のペアをする事が多いんだ。同級生だし敬語はもうやめてね。ところで山田君は部活には入ってないの?」



「え、俺か。俺は一応バスケ部入っているよ。まぁウチは割と参加が自由だから気が向いたら行く感じなんだよ。美波さんは三佳とは部活以外でも仲が良かったりするのか?最近様子がおかしいこととかなかったか?」



 自分の事はさらっと流し、再び二郎が三佳の話に戻して問いかけた。



「バスケ部なんだ、ウチのクラスの尊とか大和もバスケ部だよね。そっか二人と同じ部活なんだ。そっか、そっか。う~ん、三佳とはそうだね、部活の仲間って感じで、プライベートで一緒に遊んだりはしないけど一年の時は同じクラスだったし、部活も2年近く一緒にやっているし、仲は良い方だと思うけど。まぁ三佳ってあまり高校の友達とは遊んでいる人はいないみたいだし、他の部員も皆私と同じ感じだと思うな。最近はやっぱり全国大会も終わってからは少し気が抜けているというか、モチベーションが上がらない感じだったけど、それでも夏休み中は練習には出てきていたのよ。でも2学期が始まってからはちょくちょく休むようになってね。それでも顧問の先生を含めてこれまで練習詰めだったから誰も三佳には練習に出ろって言う人はいないし、私も少しくらいゆっくり休んでも良いと思うけどね」



 葵は三佳のことをよく知っているようだったが、親友と呼べるような間柄には至っていない様子で言った。それでも三佳を心配する葵の言葉は苦楽を共にしてきた戦友の言葉のように二郎は聞こえた。



 また三佳の交友関係に関しては二郎にとっては意外に思えた。なぜなら、二郎の知る三佳は誰よりも人懐っこく部活でもすみれやエリカ、忍のように仲の良い友人が沢山いると思っていた。ところが、葵の話を聞く限り三佳の交友関係は思いのほか深い人間関係を築いているのではなく、一定の距離を保ってこの2年間陸上部では過ごしてきたようだった。



「そうだったのか。全然気付かなかったな。でも意外だな。俺なんて夏休みの間だけでも2回も遊びに行く機会があったし、もっと付き合いの良い方だと思っていたよ」



「え、三佳とそんなに遊びに行く仲なの、山田君って」



「まぁ共通の友人がいたからだけど、おまけというかよく分からないうちに二回とも同席する事になっただけで、三佳が俺と遊びたいと思っているわけじゃないと思うぞ。それでもクラスの女子達とは結構仲良くしているみたいだし、その点から見てももっと部活でも付き合いが広い奴だと思っていたんだが、まぁ俺がとやかく言うのはお門違いだな。ごめん、忘れてくれ」



 二郎は余計な事をしゃべりすぎたと言った口ぶりで、片手を顔の前にあげて少し頭を下げるように言った。

 

「ふーん、そうなんだ、それじゃ」



 葵が話しだしたところで、もう一人の陸上部の男子が声を掛けた。



「おーい、葵!そこで何やってんだ?」



「あぁごめん翔平、今行くよ。ごめんね、山田君。もう行かなきゃ」



「おう、悪かったな、練習の邪魔してしまって。それとありがとう、色々教えてくれて。それじゃ練習を頑張ってな」



 二郎は葵を見送ると、葵に声を掛けた男子の顔をちらっと見てその場を後にした。



(アイツ、木嶋だったよな。アイツ、陸部だったのか。まぁいいか)



 二郎が校舎へ戻っていく傍らで葵を出迎えるように声を掛けたのは陸上部のハードル走者である2年1組の木嶋翔平だった。



「葵、アイツ、確か山田だよな。なんでアイツと話していたんだ?」



「翔平、山田君のこと知っているの?」



「あぁ一年の頃に同じクラスだったんだ」



「へーそうなんだ。山田君、元気のなかった三佳を心配して様子を見に来たんだってさ。なんか、一見怪しい根暗な人に見えるけど、彼以外と優しいんだね」



「山田が三佳を心配だって。なんか想像できないな。あいつはあまり他人と関わらない印象だったんだけど、2年になってアイツも変わったのかな」



「そうなの、なんか話してみるといい人そうだったけどなぁ」



 葵の話を聞きながら翔平は何か思うところがあるように離れていく二郎の背中を見送った。



 翔平と二郎は一年の時に同じクラスだったが、クラスで最も存在感のなかった二郎とクラス内でも陽キャラでクラスの中心のグループにいた翔平はほとんど関わりがなかったが、それでもお互いに特に悪い印象はなく、いわゆるただのクラスメイトと言う間柄だった。そんな翔平の二郎の印象は良くも悪くも害のない奴であり、個人主義で他人を心配するような性格とは考えていなかった。

 

「そうか、まぁいいか。それよりも100mダッシュ5本行くから準備してくれ」



 翔平はこの時は二郎の存在をこれ以上考えるのをやめて練習を再開するのであった。



 しかしながら、この先翔平と二郎、さらには剛を含む3人の男達の間で青春にふさわしい甘酸っぱい記憶を刻むやり取りが繰り広げられることになるのであった。そして、その新たな青春の物語の中心には三佳がヒロインとしてこの舞台を駆け巡るのであった。
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