青春クロスロード ~若者たちの交差点~

Ryosuke

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第5章

二郎の散歩⑩ ~修羅場回避と爆弾投下~

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「ジロー、何やっているデスカ?」

「レッベカ、お前こそどうした?」

「二郎君、大丈夫、なんか凄い状況だけど」

 二郎に声を掛けたのは地学準備室で勉強会をしていたレベッカと四葉だった。二人は勉強会を終えて部屋を出たとき向かいの本館二階にある2年5組に二郎と凜の姿を見かけて、レベッカが気になり様子を見ようとこっそり覗きに来ていたが、教室に着くやいなや忍がそこに加わり激しい言い合いが繰り広げられていたためなかなか声を掛けられずにいたのだった。しかし、凜と忍が二郎そっちのけで竜虎の戦いを繰り広げ始め完全に二郎がフリーになったところでようやく二郎に声を掛けたのだった。

「四葉さんもいるのか?良いところに来てくれた。もうよく分からんが二人から逃げるためにちょっと話を合わせてくれ、頼む」

「え、どういうこと?」

「とにかく話を合わせるだけで良いから頼むよ」

 二郎は理解不能なカオスな状況からなんとか逃げ切ろうと四葉に協力を要請して、激しい論戦を繰り広げている凜と忍に恐る恐る話し掛けた。

「ちょっとお二人さん、さっきも言ったが俺は生徒会にも部活にも今日は行けないんだわ。実はちょっと約束があるから俺はここで退散させてもらうぞ」

 二郎の突然の言葉にそれまでいがみ合っていた二人が合わせたようにジロリと視線を移した。

「「はぁ、今さら何を言っているの?!」」

「いや、だから俺は用事があるから今日は二人とは一緒に行けないって言っているんだよ」

「はぁ、用事だ?用事って何なのよ。もう、適当なこと言ってないで部活に来なさい!」

「ふー、放課後に二郎君の用事なんて、見回りか部活か生徒会の手伝い以外無いでしょ。そんな嘘ついても騙されないわよ、はぁはぁ」

 少し息を切らせながらも全く二郎の言葉を相手にしない凜と忍に二郎が教室の外で隠れていた四葉に声を掛けて言った。

「バカヤロウ、俺だって他にやることくらいあるんだよ。おーい四葉さん、ちょっと出てきてくれないか」

 二郎の掛け声に不安そうな四葉がそろり姿を現した。
 
「あの~、二郎君、本当に大丈夫なの」

「大丈夫だから、心配ないよ。ほら見ろ。これから彼女とちょっと用事があるんだよ。これでわかったか」

 突然現れた四葉に二人は愕然とした表情で口をパクパクしながら、ようやく絞り出すように言葉を絞り出した。

「え?あなたは4組の結城さん?一体どういうことなの、二郎?あなたたちもしかしてそう言う関係なの?」

「あなた・・・・二郎君どういうこと?用事って彼女と何をする気?」

 忍は唖然とした表情で、凜は冷静を装うも明らかに動揺を隠せないと言った様子を見せると二郎が二人の考えていることを察して否定するように言った。

「べ、別にたいした用事じゃないよ。ただ英語の勉強を教えるってだけだから二人が思っているような事は決して無いぞ、なぁ四葉さん」

「そうね、その通りです、はい。私が二郎君に勉強を教えて貰う約束をしていただけなんです」
 
 四葉も二郎の話に合わせてこの場を乗り切ろうと言葉を付け加えると、凜と忍は半信半疑ではあったが、それ以上に食い下がることが出来ずにいた。

 なぜなら凜と忍にとって四葉の存在はただただ謎の女というものだったからだ。とにかく得たいの知れない人物であり、そしてなぜか二郎が気に掛けている超地味っ子の隠れ美女であり、さらにいかにも真面目で大人しそうな見た目であったためあまり強気な態度を取ることが出来なかった。

 結局忍は突如現れた四葉に再び二郎を攫われることに不満を抱きつつも、夏祭りの時に四葉を相手に失態を犯したこともあり、この場は大人しく引く構えを見せた。

「そう、なのね。本当にただの勉強会なのね。それなら仕方が無いわ。今日だけは、本当に今日だけは、見逃してあげるわよ、ふん!」

 一方で凜も忍が諦めたことで溜飲が下がり冷静になったところでこの場を引くことにしたが、四葉に警告するように釘を刺した。 

「ふーん、まぁそう言うことにしておくわ。今日のところはこれで許してあげるわ。ただし、結城さん、勉強会っていうなら大人しく勉強だけする事ね、わかった?」

 凜の物言いにおびえるように四葉が返事をした。

「は、はい。もちろんです」

「分かってくれたなら、良かったよ。忍、明日はちゃんと部活に行くから今日は勘弁してくれな。凜先輩も今週中にはどこかで顔を出しますんで、あまりいじけないでくださいよ。それじゃ、俺らは行くからお疲れ様」

 そんな二人を見ながら体中に冷や汗をかきつつも何とか修羅場を乗り切ったと、二郎は二人にフォローを入れつつ早々とその場を後にしようとしたところで、そんな四人のやり取りを傍観していたレベッカが最後の爆弾を投下した。

「おぉ、ちょうど良かったデス。さっき言っていたデートのプランを一緒に考えましょう。四葉チャンとジローはデートで何を食べに行きたいデスカ?私はヤキニク食べたいですヨ♪」

 その言葉に二郎と四葉は凍り付いた。のんきにあれこれと言っているレベッカの言葉は何一つ耳に入らず、恐る恐る凜と忍の方を向くと鬼の形相をした二人が体をプルプルと震えさせながら、何かを言っているようだった。

「デートプランだって?ははは、部活さぼって、嘘までついてデートの計画の話をするだって・・・」

「結城さん、一度ならずも二度までも私を出し抜いて二郎君とデートですって、私も舐められたもんだわ・・・・・」

 二郎と四葉はお互いの顔を見て目線が合うと無意識に手をつなぎ一目散にその場から逃げ出した。またそれを追ってレベッカも二人を追うように後を付いて行った。

 当然、凜と忍は一目散に逃げ出す3人を逃がすまいと叫びながら追いかけた。

「このバカ二郎!いい加減にしろ~!!!」

「この浮気者!!ただじゃ済まないわよ!」

「ちょっと待った!デートなんかじゃないんだ!頼むから信じてくれ~」

「先輩達ごめんなさ~い。でも、レベッカの勘違いなんです。怒らないでくさい」

「ハハハ、忍チャンも副会長サンもそんなに怒らないでくだサ~イネ。でも追いかけっこ楽しいデ~ス!ハハハ」

 最後の最後で凜と忍にとんでもない誤解を与えてしまった二郎はもうヤケクソになって四葉とレベッカと三人で何とか逃げ切るのであった。

 得てして2学期が始まってからようやく行うことが出来た日課である二郎の校内散歩は色々なところに火種を蒔き散らす結果となり、今後の学校生活に波乱を巻き起こすターニングポイントの一日になるのであった。
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