月に憑かれたピエロ

おかゆ

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月に酔い

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月に酔い


人が目で飲むぶどう酒を、月は波の中へ夜ごと注ぎ込む。月の光に照らされて銀色に輝くローブを着たピエロは、真っ赤な血のしずくのようなワインの入ったグラスを揺らしていた。といっても、彼がグラスを揺らしているのか、彼自身が揺れているのか、もはや自分では皆目検討がつかぬほど、杯を重ねるごとに酔いが回って混乱した状態になっている。心臓がものすごい速さで脈打っているのをかき消すために、ピエロは音楽を流そうとプレイリストから曲を選ぶ。ピエロは美しい月夜にふさわしいシューベルトのセレナーデをかけた。酩酊した彼の耳に心地よく響いてゆく悲しげなピアノの音が、ゆっくりと何度も繰り返される。熱く歓喜し、甘く苦悩する。憂鬱なリズムの暗いセレナーデが頭の中にまとわり付いて離れない。病人の唇をなでるように、青い血を誘うように、ピエロは次第にこの音の上で安らぐことを夢見ていた。すべてを無にしたいという欲求が彼を襲う。ぎこちなく持ち上げた彼の痩せた腕には、なにも無かった。ピエロは、ふと立ち上がると、白い漆喰の天井の壁に震える手で釘を打った。そうして吊るしたロープにそっと首をかける。バタバタと打ち上げられた魚のように、苦しげにもがいたあと、彼は舌を出して死んだ。死ぬ間際に彼が見たものは、壁にかけてある鏡だった。そこにはピエロの血に濡れた泣き顔が映っていた。
月の光に輝く、銀色のローブを着て。
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