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勇者、街に到着する
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しおりを挟む「申し訳ありません。冒険者登録ができるのはレベルが10に達した方のみなのですが……」
受付の女性のその言葉に、俺は何故その女性が不可解そうに俺を見るのかを理解した。
冒険者を検索して、見つからないのであればまだシステムの不具合と言い訳もできようが、レベルの達していない者が何故か冒険者手帳だけ持っている。
これはマズイ。
どこぞで手帳を盗んだのではないかと疑われても仕方がない。
というか、レベル10に達していないと冒険者になれないというシステムはどうなんだ。
レベルを上げるには魔物を倒さないといけないんじゃないのか? それじゃあつまりここにいる冒険者達はまだレベルが1の頃に進んで魔物を倒しに行き、地道にレベルを上げてようやく冒険者になったとでもいうのだろうか。
「普通の人は子供から大人に成長するまでの間にレベル10に到達するの。だから、大人なのにレベル1だっていうハルはここではとても不思議な存在なの」
俺の心の中の疑問に答えてくれたのはやはりリーリャさんであった。
きっとこの人自称神と同じく人の心を読む何かの力を持っているに違いないと思う。
とにかく、助かった。疑問が解けた。
俺がこうも不可解な目で見られている理由の中には年齢にそぐわないレベルだからというのもあるようだ。
「と、とにかく一度冒険者手帳を預からせていただけますか? 誰のものかしっかりと調べますので」
受付の女性は少し慌てたようにそう言った。
冒険者手帳からも誰のものかわかるような機能があるのなら、俺の持っている冒険者手帳が勇者の物であるというのはバレてしまうだろう。
しかし、ここは渡すしかない。
ここで渡すことを拒めば、「この冒険者手帳は他の人から盗んだ物です」と言っているような物だ。怪しすぎる。
俺は、「もうどうにでもなれ」という気持ちで冒険者手帳を受付の女性に預ける。
女性は手帳を預けると受付の奥に引っ込んでしまった。
しばらくの待ち時間。
周りの視線が妙に気になって顔を上げると、先程まで飲み食いして騒いでいた連中が興味津々にこちらを見ている。
「アイツ、手帳を盗んだんだってよ」
「バカなやつだぜ。どうせすぐバレんのにな」
そんな声が聞こえてくるようだ。いや、聞こえてきている。
ハンクさんやタタルさん、セーラさんが俺の方を見ている。リーリャさんだけはのほほんとした表情で考えが読めない。
「すいません、こんなことになってしまって」
実際に冒険者手帳を盗んだわけではないし、罪を認めるわけでもないが騒ぎを起こしてしまったのは事実。
迷惑をかけたハンクさん達に謝罪をする。
「いや……まぁ、俺らはお前が手帳を盗んだなんて思ってねぇけどよ……とんだ災難にあっちまったな」
そう言って再び肩を叩いてくれるハンクさんの人の良さに俺は再び深く感謝した。
しばらく受付の前で待っていると、今度はドタバタと大きな音を立てて先ほどの女性が戻ってくる。
最初に言葉を交わした時の事務的な姿はもうどこにもなく、見るからに焦っているのがわかる様子である。
「すいません、ハル様。大変お待たせしていたしました。ギルド長が直接合って話をしたいとおっしゃっております。ハンク様達もご一緒に」
受付の女性がそう言ったあと、ギルド内で聞き耳をたてていた他の冒険者達がにわかにざわついた。
ギルド長が出てくるというのはそういうことなのであろう。
その冒険者達の様子を受けて、俺は「ああ、手帳が勇者の物だってことがバレたんだな」と内心で悟っていた。
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