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勇者、領主に会う
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しおりを挟む英雄信仰の信者、街の人間達から必要以上の興味を持たれないように勇者に関連する行動や言動はしばらくの間控えた方がいい、というのがライオッド卿の提案である。
俺自信、自ら勇者と明かすかどうかで散々迷ったのだからそんな行動も言動もした覚えはない。
しかし、ただ一つ。誰が見ても一発で勇者に関連づくアイテムを俺は身につけてしまっていた。
「つまり、その前勇者の防具もしばらくは脱いでおいた方がいいだろう」
ライオッド卿のその言葉に、俺はひどく狼狽えた。
異世界に転生してはや数日。対して時間はたっていないがそれなりに危険な場面もややあった。
その窮地を乗り越えてこられた最たる所以といえば俺が今着ている勇者の服なのだから。
小鬼の攻撃を無効化できるほどの防御力。
オーガや吸血狼とは直接戦っていないため判断できないが、どんな魔物と戦ってもそれなりに活躍してくれるであろうこの防具。
魔王との戦いではチート的な能力を発揮してくれないことはすでにわかっているが、それでも俺の心の拠り所的な存在である。
そんな防具を脱げと言われて、はいそうですかと納得するほど俺の神経は図太くない。
しかし、まぁ領主様からの警告を無視してまで着続ける勇気もないんだが……。
というよりも、この服をこれ見よがしに着ていることのリスクもよくわかったのだ。
勇者の格好を模したと思われても不思議ではないこの服装は街の人が見れば英雄信仰の信者だと思うだろう。
そして、英雄信仰の信者達が一目で自分たちの仲間だと判断できるかはわからないが、一目を引くことは間違いない。
そんな服を着ていては注目しろと言っているようなものである。
知らなかったとはいえ、これを着て街を案内してもらっていた自分を殴りたい。
というか、ハンクさんやセーラさんに一言教えてほしかった。
そんなわけで、諸々の事情を鑑みた結果、俺はこの勇者の防具と一時の間お別れすることにしたのだ。
ハンクさんの話を信じるならば、街の中にいれば一先ずは安全だろうしライオッド卿も強くなるまでのサポートを約束してくれた。
強くなれば自分が勇者だと明かしても問題はないわけだし、それまでは我慢して一刻も早く強くなれるように頑張ろうと思う。
しかし、勇者の服を脱ぐとなると違う面での問題が出てくる。
そう俺には他に着る服がないのだ。
この世界に来た時にはすでにこの勇者の服を身につけていたし、所持金はたったの八百ユルである。
いや、リーリャさんにリンゴ飴を買ってしまったので今は七百八十ユルか。
八百ユルで安い宿に二泊できるというセーラさんの言葉から考えると、安い服なら何着かは買えるのだろうが……。
この世界でお金を稼ぐ手段を確立できていない現状では手持ちのお金はあまり使いたくないというのがせこい俺の心情である。
「心配するな。ハル殿の生活面は私がサポートすると言っただろう。必要な衣服も十分に揃えておいたので好きなものを見繕うといい」
とライオッド卿がありがたい提案をしてくれる。
どうやら、こうなることは予測済みだったようで既に別室にさまざまな服を用意してくれているとのことだった。
別世界から来た俺がどういう物を好むのかわからなかったために、様々な種類の服をできる限り用意してくれたらしい。
物流が盛んではないというユタムではそれは簡単なことではなかっただろう。
ユクシムさんに自称神からの啓示があり「勇者が生まれるかもしれない」という報告を受けてから用意したにしても、準備する時間が短すぎる。
俺はそこまでしてくれるライオッド卿の行為に心から感謝し、それだけの期待が自分にはかかっているのだと理解した上でそろそろ腹を括らなければならないと感じていた。
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