31 / 36
勇者、領主に会う
31
しおりを挟む「はぁ……うーん……ふぅ」
という期待でも落胆でもない、例えるならば戸惑いという感情を乗せた言葉が俺の口から漏れる。
心なしか胸を躍らせて鏡の前にだった俺の目にはしっかりと自分のものだと思われる顔が映っていた。
結論から言うと俺は決して夢に見た勇者のようなイケメンではなかった。
とはいえ、元の世界の自分ほど凡人でもない。
いや、ベースはだいぶ元の世界の自分によっているとは思う。
なんとなく似た顔立ちなのは自称神の計らいだろうか。
とにかく、元の世界の自分に似てはいるが
それよりも少し整った顔立ちをしていたわけだ。
十人十人が
「あの人カッコいいよね」
と噂するようなタイプではないが、四人くらいはそう思ってくれそうな顔立ちというか。
クラスで一番にはなれないが三番目か四番目には入れそうな感じというか。
それを喜んでいいのか落胆するべきなのかわからず、先の戸惑いの声が出たわけである。
この世界に初めて来た時に心なしか身長が少し伸びたような気がしたが、それは間違いではなかったらしい。
部屋に置いてあった鏡は全身を映せる姿見のようなタイプで、その鏡で見てもやはり俺の背は伸びているような気がした。
というよりも、等身がわずかに変わったような。足が少し長くなったような気がする。
これならばある程度どんな服を着たとしても不自然じゃないくらいには着こなせるだろう。
そこは喜ぶべき点である。
自分の姿を今になってようやく確認できた俺は部屋に用意された服の中からなるべく落ち着いた色合いで、厨二病と呼ばれないで済みそうな無難な服装をいくつかみつくろい、それから夏服と冬服になりそうな物も選んで札を貼っておいた。
勇者の服もここで脱いで置いておいていいとのことだったので見繕った服の中から特に気に入った物に着替えておく。
下はグレー系のスラックスのような質感の物で上に選んだのは黒いフード付きの服だった。
フード付きの服はどれも異世界色の強い主張の激しい物が多かったのだが、これはその中では割と落ち着いた感じの物だった。
元の世界ではパーカーを好んで着ていたため、フードがついていた方がなんとなく落ち着くのだ。
服を両方とも着替えて鏡の前に立つと、勇者の服を着ていた時のような異世界感はそこにはなかった。
どちらかというと現代感の方が強い気がする。
このままスマホと財布だけ持ってさっとコンビニに行って軽食と漫画を買って帰ってきそうな服装である。
しかしまぁ、落ち着くし似合っていないわけでもないからいいだろう。
服を着替えて部屋を出ると扉の前で先程の執事さんが待っていた。
執事さんは顔色ひとつ変えずに視線だけを動かして俺の全身を見た後に
「よくお似合いです」
と褒めてくれた。
ただ、それが本心なのか社交辞令なのかはその表情からは読み取れなかった。
それから再び執事さんに案内されて屋敷の中を歩く。
来た道を戻るわけではなかったのでさっきとは別の部屋に行くようだ。
時計が見当たらないので正確な時間はわからないが、そろそろ昼時のはずである。
なんとなくお腹は空いていているし、このライオッド卿との会談がいつまでかかるのかもわからないが
「なるべく早く終わらせてください」
などと言えるような胆力は当然持ち合わせていない。
服を無料で貰い、生活面でのサポートだけでなく強くなる手助けまでしてくれるというのだ。
多少お腹が空いたからといって相手を急かすような真似をしたらバチが当たってしまうだろう。
実力でどれくらい魔王と戦えるようになるのか未知数な俺は運気といったランダム要素でもなるべく減らしておきたくないわけである。
魔王との戦いで何が起きるかはわからないからね。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる