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樫野 珠代

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番外編(side健)

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「なぁ・・・奈緒。」
「んー・・・?」
居酒屋で飲んだ後に家ですでにビールを4缶は開けている奈緒はまさに自棄酒状態で、俺の話を聞ける状態ではないらしい。
そんな相手に言う俺もなんだが・・・。
「寝ようか。」
自然に口から言葉が出ていた。
俺の今の正直な気持ち。
奈緒を意識して間もないが、時間なんて関係ない。
俺はすでに奈緒を一人の女性として見てる。
そして彼女をどんどん好きになっていってる。
それは紛れもない事実。
このまま奈緒と友達関係を続けようとはこの時すでに思えなかった。
「んー?寝るぅ?健ちゃん、眠いのぉ~?だーめ。まだ寝かせないからぁ!」
そう言って俺の肩に手を置いて、にこりと微笑んできた。
わかってねぇ・・・こいつ。
「そうじゃねーよ。おまえがさっきそう言って俺を誘ったんだろ?だからそれを実行しようって言ってんだよ。」
「・・・へ?」
ぽかんと口を開き、俺の言葉が理解できないようだった。
この酔っ払い・・・。
心の中で毒づきながら、力の入っていない奈緒の体を丸ごと俺の方に向けた。
「俺と寝たいんだろ?だから望みを叶えてやるって言ってんだよ。」
「な、何よ、それ。同情?そんなもの、いらないわよ。さっきも言ったけど、その話ならもう・・・。」
「終わりにしていいのか?」
奈緒が言い終わらないうちに俺は次の言葉を投げ掛けた。
その言葉を聞いた奈緒は目を大きく開き、驚きと戸惑いで揺れていた。
「言っておくが、同情とかそんなもんじゃないからな。」
「じゃあ・・・じゃあなんなのよ!健ちゃん、言ったじゃない!付き合ってる女しか抱かないって。好きな女としかしないって!」
「あぁ、言ったよ。」
「それなのに私を抱くのっ?付き合ってもないし、全然好みじゃないんでしょ?なのになんで?同情以外、考えられないじゃないっ!」
声を高ぶらせ、瞳はすでに濡れていた。
そんな顔で見るなって言ってるだろう。
もう我慢なんかしねーぞ?
奈緒の腕を掴んで、思いっきり俺の方へ引き寄せた。
奈緒の細い体を優しく抱きしめ、ほーっと息を吐いた。
「ぐだぐだ五月蝿い。寝室に行くぞ。いいな?」
「健ちゃんが、ぜんっぜんわかんないっ!放して!」
そう言って俺から離れようとバタバタと暴れる。
そんなことで放すわけがない。
「なんだよ、何か不満か?おまえの願いを叶えてやるんだぜ?」
「やだやだぁ!健ちゃんの嘘つき!サイテー!」
暴れまくる奈緒をひょいっと肩に担ぎ、寝室へと向かう。
酒を飲んで少しクラッときたが、それでも奈緒くらい軽い奴は余裕だ。
ベッドへボトっと奈緒を落とすと、すかさず彼女の上に覆い被さった。
「やだ!あっちいけ!変態!レイプ魔!男の恥!」
「奈緒!ちょっと黙れ!」
大声で叫びだし、さすがにまずいと思い奈緒の口を手で塞いだ。
もがもがとあくまでしゃべり続ける奈緒に俺は溜息が出た。
コイツ・・・抱いてる時もこんな感じなのか?
なんだか一抹の不安がこみ上げてくる。
相手は奈緒だもんなぁ・・・。
素直に抱かれるタイプじゃないよなぁ。
逆に俺が攻められそうな勢いだ。
俺も攻めタイプなんだよな、どっちかっつーと。
せめて今だけでも大人しくして欲しい。
ではどうする?
未だに押さえた手の中で必死に何かを叫んでいる。
「奈緒・・・。ちょっとだけ黙ってくれ。でないと本当に襲うぞ。」
その言葉で、今まで暴れていた奈緒がぴたっと動きを止めた。
とりあえずほっとする。
「絶対騒がず、叫ばず、大人しくじっとするって約束できるか?できるなら手をどけてやる。」
あくまで優しく奈緒に向かって言った。
すると奈緒は、目を揺らしながら素直にこくんと頷いた。
その仕草で俺はゆっくりと手を放した。
奈緒はそのまま動かずに俺をじっと睨んでいる。
「なんで怒ってるんだよ。さっぱりわからん。」
「わからないのは私の方よ!健ちゃんの言うこと矛盾だらけで、もう信じらんない!」
「どこが矛盾なんだよ。」
「だからさっきも言ったでしょ!?なんで付き合ってもない私なんかを抱こうとするのよ!もう・・・本当に・・・・・・わかんない。」
そう言って最後は泣き出してしまった。
泣いてる顔も可愛いと思ってしまう俺って、奈緒に嵌ってる証拠だよなぁ。
「おまえがひっかかってるのはそこか?付き合ってないから嫌なのか?だったら付き合おうぜ。」
「・・・は?」
奈緒は泣いている事も忘れて俺の言葉をうまく呑み込めない状態のまま、俺を見上げる。
「だから、付き合おうって言ってんだよ。」
「なんで?」
「は?」
「だから!なんでそうなるのよ!健ちゃんって、そんなに軽い奴だったの?そんなに軽く付き合おうとか言っちゃう人だったの?そんな軽い気持ちで私を抱こうとする人だったの?健ちゃんって最低!」
「ちょーっと待て。」
このままだと奈緒は一人で勘違いをして、そして暴走しそうな勢いだ。
「はぁ・・・奈緒、おまえさぁ・・・今日、自分で言ったこと、もう忘れてるだろう。」
「私が言ったこと?」
奈緒は怪訝そうに視線を下げ、今日の出来事を思い返しているようだった。
「そう。おまえ、俺に言ったよな?告白したことを察しろとかなんとか。だったらおまえもいい加減、気付けよ。」
「気付けって・・・。」
「俺は言ったよな。好きな女しか抱かないって。」
「言ったわ。だからムカついてるの!なんで私を抱こ・・・。」
言いながら、何か思い当たったらしく、言葉が消えた。
そして徐々に顔を赤くしていく。
「け、健ちゃん・・・あのさぁ・・・その、つまり、それって・・・そういうこと?」
「ちゃんとした日本語を使えよ。」
奈緒の代名詞ばかりの言葉に思わず苦笑してしまう。
「だからっ・・・・・・もう!健ちゃん、はっきり言いなさいよ!」
「逆ギレかよ。」
口ではそう言ったが、それが奈緒なりの照れ隠しだということはもう把握済みだ。
っつーか、奈緒の上に圧し掛かったまま、言い合いをしていた俺もすごい。
さすがに、この状態でもうこれ以上は我慢限界。
奈緒には悪いが、俺が主導でいく。
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