【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも

文字の大きさ
1 / 77

プロローグ

しおりを挟む
 のどかな農村の、顔なじみばかりの小さな食堂にて。
 この日は、旅行者と思われる若い男の二人組が酒を飲んでいた。
 まだ昼間だというのにずいぶんと羽目を外したようで、テーブルには空いたグラスがいくつも並んでいる。
 金髪の男はテーブルに突っ伏し、もう片方の男は深くフードをかぶっており、どちらも顔を見ることはできない。


 金髪の男の名は、ジョンズワート・デュライト。いくつかの国境を越えた先の国の、公爵様である。
 そんな彼が、どうしてこんな場所で飲んだっくれているのか。
 それには、理由があった。
 彼の妻、カレン・アーネスト・デュライトは、4年前に誘拐された。
 死亡説も流れたが、諦めることができず。ジョンズワートは、再婚もしないでカレンを探し続けていた。
 ようやく有力な情報が入り、この地を訪れたのだ。
 やっとのことで妻に辿り着いた彼が目にしたのは――従者の男と家庭を築き、幸せそうに過ごすカレンの姿。息子までいた。
 年の頃は、3歳ほどだろうか。
 子の年齢を考えると、ジョンズワートの前から消えた頃に、カレンは妊娠したことになる。
 彼女は、誘拐されたわけではなかったのだろう。意中の相手とともに、ジョンズワートから逃げたのだ。

 そう理解したジョンズワートは、カレンに声をかけることなくその場を後にしたが……この村から立ち去るまでには至らず。
 カレンに見つかってしまうかもしれない、邪魔をしてしまうかもしれないとわかっていたのに、彼女の住む村で、未練たらしく酒を飲んでいた。
 そんなことをしていたら、カレンが夫と子供を連れて同じ店に来てしまった。
 どうやら、食材を卸しにきたようだ。
 ジョンズワートはとっさに顔を隠そうとして、テーブルにつっぷした。
 こうして、酔いつぶれた旅の男が誕生したのである。
 


 少々飲みすぎではあったが、問題を起こしているわけでもないため、店の人間も、他の客も、カレンたちも、無理にジョンズワートたちに接触することはしなかったのだが――カレンの息子が、近づいてきてしまった。

「おじたん、だいじょーぶ?」

 クリーム系の柔らかな色合いをした金の髪に、深い青色の瞳。愛らしい少女のようにも見える幼子は、見知らぬ男に向かってこてんと首を傾げた。
 続いて、勝手に離れちゃダメでしょう、おじさんじゃなくてお兄さんよ、と言いながら、母親が……カレンがやってくる。

「旅の方ですか? 急に申し訳ありません。この店にはよく来るものですから、この子ったら、慣れすぎちゃっ……て……」

 そこで、ジョンズワートと、カレンの視線が、絡んでしまった。

「ワート、さま……?」
「カレン……」

 顔を上げてしまったジョンズワートの瞳は、子と同じ、深い青色だった。

 ホーネージュ王国の公爵、ジョンズワート・デュライトと、その妻だった女性・カレンの物語は、ここから再び交差する。
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...