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第一章
5 あなたを、縛りたくなくて。
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「お嬢……これは……」
「しっ! 静かに」
フリルのあしらわれたオレンジ色のドレスを着た美少女と、燕尾服の美青年が、重厚な扉の前でなにやらこそこそとしている。
少女は丸めた紙を持ち、扉にそっとあてていた。
ただ待っていることなどできなかったカレンと、主人に付き合わされているチェストリーである。
扉の前には使用人がいたが、カレンを遠ざけるようきつく言われているわけではないらしく、見て見ぬふりをしてくれた。
丸めた紙とともに扉に近づいて耳をすませば、少しだが話し声が聞こえてくる。
「では…………責任を…………」
「……婚約、ということで…………」
責任。婚約。かすかにだが、そんな言葉を聞き取ることができた。
カレンの思った通りだった。
伯爵家の娘に傷をつけた責任を取り、結婚する。そんな流れになっているのだろう。
わかってはいたことだが――カレンの胸が、つきりと痛んだ。
ジョンズワートと結婚したいと思っていた。
でも、こんな風に、彼を縛りたかったわけじゃない。
大好きな人と結婚できるというのに、カレンの心は曇るばかりだった。
あのとき、自分が馬から落ちたりしなければ。
ジョンズワートの誘いを受けなければ。
彼と仲良くならなければ。
ジョンズワートは、こんな形での結婚など、しなくてよかったのだ。
身体が弱く、ベッドにいるばかりだったカレンに、色々なものを見せてくれた。外の話をたくさん教えてくれた、優しい人。
今、カレンがこうして元気に過ごすことができているのも、ジョンズワートがいてくれたからだ。
彼がカレンの体調に合わせて外に連れ出してくれていたことだって、わかっていた。
ジョンズワートは、カレンの想い人で、恩人、なのである。
大好きで。本当に大好きで。
だからこそ、彼には幸せになって欲しかった。
自分の意思で、道を決めて欲しかった。たとえそれが政治的な意味の強いものだろうとも。
彼が本当に必要としている結婚を、して欲しかった。
なのに、カレンのせいで、カレンと一緒になる以外の選択肢がなくなってしまった。
彼はもう、カレンと結婚するしかないのだ。
責任だの結婚だのという話になると、わかっていたはずなのに。
実際に耳にしたそれは、ずしっと重く。
カレンの頭はぐるぐるくらくら。
バランスを崩し、どん、と扉にぶつかって。
ジョンズワートたちの前に、姿をさらしてしまった。
「カレン!」
慌てた様子のジョンズワートが、がたっと音をたてて立ち上がる。
ちなみに、カレンが持っていた紙はチェストリーがさっと回収した。
「もしかして、聞いていた?」
「……」
困り顔のジョンズワートが、カレンに近づいてくる。
普段、彼がアーネスト家に来るときは比較的ラフな格好をしているが。今日の彼は、正装に身を包んでいた。
彼の柔らかな金髪と、深い青の瞳に、この国の伝統的なカラーリングでもある白と青がよく映える。
彼は15歳の男性としては身長が高く、カレンとは既に頭一個分ほどの差がある。
ジョンズワートはカレンの前に辿り着くと、そっと跪いて彼女の手を取った。
「こんな形になってしまったけれど……。カレン。僕と結婚して欲しい」
ジョンズワートの深い青が、カレンをとらえる。
正装をしてひざまずく男と、男に手を取られたドレスに身を包んだ女。
両者見目麗しく、この場面を見た者は、物語の中のような光景に、ほう、とため息をついてしまうことだろう。
実際、両家の親は、絵になる二人を満足げに眺めていた。
カレンだって、いつかこんな日が来ればいいと思っていた。
けど。だけれども。「こんな形」は望んでいなかったのだ。
様々な感情が、カレンの中を駆け巡る。
ジョンズワートが好きだ。結婚したい。他の女性に渡したくない。
こんな責任に縛られて欲しくない。自分の意思で相手を選んで欲しい。彼に、幸せになって欲しい。
ぐるぐるでぐちゃぐちゃのカレンが出した答えは――
「お断りします」
だった。
「しっ! 静かに」
フリルのあしらわれたオレンジ色のドレスを着た美少女と、燕尾服の美青年が、重厚な扉の前でなにやらこそこそとしている。
少女は丸めた紙を持ち、扉にそっとあてていた。
ただ待っていることなどできなかったカレンと、主人に付き合わされているチェストリーである。
扉の前には使用人がいたが、カレンを遠ざけるようきつく言われているわけではないらしく、見て見ぬふりをしてくれた。
丸めた紙とともに扉に近づいて耳をすませば、少しだが話し声が聞こえてくる。
「では…………責任を…………」
「……婚約、ということで…………」
責任。婚約。かすかにだが、そんな言葉を聞き取ることができた。
カレンの思った通りだった。
伯爵家の娘に傷をつけた責任を取り、結婚する。そんな流れになっているのだろう。
わかってはいたことだが――カレンの胸が、つきりと痛んだ。
ジョンズワートと結婚したいと思っていた。
でも、こんな風に、彼を縛りたかったわけじゃない。
大好きな人と結婚できるというのに、カレンの心は曇るばかりだった。
あのとき、自分が馬から落ちたりしなければ。
ジョンズワートの誘いを受けなければ。
彼と仲良くならなければ。
ジョンズワートは、こんな形での結婚など、しなくてよかったのだ。
身体が弱く、ベッドにいるばかりだったカレンに、色々なものを見せてくれた。外の話をたくさん教えてくれた、優しい人。
今、カレンがこうして元気に過ごすことができているのも、ジョンズワートがいてくれたからだ。
彼がカレンの体調に合わせて外に連れ出してくれていたことだって、わかっていた。
ジョンズワートは、カレンの想い人で、恩人、なのである。
大好きで。本当に大好きで。
だからこそ、彼には幸せになって欲しかった。
自分の意思で、道を決めて欲しかった。たとえそれが政治的な意味の強いものだろうとも。
彼が本当に必要としている結婚を、して欲しかった。
なのに、カレンのせいで、カレンと一緒になる以外の選択肢がなくなってしまった。
彼はもう、カレンと結婚するしかないのだ。
責任だの結婚だのという話になると、わかっていたはずなのに。
実際に耳にしたそれは、ずしっと重く。
カレンの頭はぐるぐるくらくら。
バランスを崩し、どん、と扉にぶつかって。
ジョンズワートたちの前に、姿をさらしてしまった。
「カレン!」
慌てた様子のジョンズワートが、がたっと音をたてて立ち上がる。
ちなみに、カレンが持っていた紙はチェストリーがさっと回収した。
「もしかして、聞いていた?」
「……」
困り顔のジョンズワートが、カレンに近づいてくる。
普段、彼がアーネスト家に来るときは比較的ラフな格好をしているが。今日の彼は、正装に身を包んでいた。
彼の柔らかな金髪と、深い青の瞳に、この国の伝統的なカラーリングでもある白と青がよく映える。
彼は15歳の男性としては身長が高く、カレンとは既に頭一個分ほどの差がある。
ジョンズワートはカレンの前に辿り着くと、そっと跪いて彼女の手を取った。
「こんな形になってしまったけれど……。カレン。僕と結婚して欲しい」
ジョンズワートの深い青が、カレンをとらえる。
正装をしてひざまずく男と、男に手を取られたドレスに身を包んだ女。
両者見目麗しく、この場面を見た者は、物語の中のような光景に、ほう、とため息をついてしまうことだろう。
実際、両家の親は、絵になる二人を満足げに眺めていた。
カレンだって、いつかこんな日が来ればいいと思っていた。
けど。だけれども。「こんな形」は望んでいなかったのだ。
様々な感情が、カレンの中を駆け巡る。
ジョンズワートが好きだ。結婚したい。他の女性に渡したくない。
こんな責任に縛られて欲しくない。自分の意思で相手を選んで欲しい。彼に、幸せになって欲しい。
ぐるぐるでぐちゃぐちゃのカレンが出した答えは――
「お断りします」
だった。
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