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エピローグ
二人は、ずっと一緒に暮らしていく。
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「父上、今日こそ僕に乗馬を教えてください!」
「まだ10歳だろう? もう少し大きくなってからの方が……」
「同い年でもう乗ってる人もいます!」
「うちはうち、よそはよそだよ。僕はあと何年か先でいいと思う」
このやりとりも、もう何度目だろう。
デュライト公爵家の当主・ジョンズワートとその長男・ショーンの攻防。
はじめの3年は農村で育ったショーンだが、その後の暮らしで公爵家に慣れ、10歳となった今ではジョンズワートを父と呼び、次期公爵としての教育も受けている。
昔から活発な彼は、父と同じように乗馬をたしなみたくて仕方なく、挑戦させて欲しいと何度も何度も父に頼み込んでいた。
しかし、ジョンズワートの返事はいつも「まだ早い」「あと何年か待とう」で。
小型の馬ではあるが、同い年の友人が馬に乗っていることも知っているショーンは納得がいかない様子だ。
ジョンズワートが息子に乗馬の許可を出さない理由を知るカレンは、そんな夫と息子を見て苦笑している。
「あの人、まだ気にしてるのね」
そう言って困ったように微笑みながら、カレンは自分の腹を撫でた。
今、カレンのお腹には新しい命が宿っている。
第一子であるショーンは10歳。再会し、夫婦となってから第二子第三子と産まれていき……今お腹にいるのは、二人の第四子だ。
15歳のジョンズワートは、カレンと馬の二人乗りをし、楽しさのあまり指示を怠り、当時12歳だったカレンを落馬させた。
色々あった二人だが……あそこまで拗れた1番最初の原因は、あのとき負った額の怪我である。
かなり薄くはなったが、傷はまだカレンの額に残っている。
もしもこの傷がなかったら。乗馬をしていなかったら。
最初の求婚をあんな形で断ることはなかったかもしれないし、妊娠の可能性を隠して逃亡するなんていう大騒動にも発展しなかったかもしれない。
だからかジョンズワートは、乗馬のこととなると息子が何度頼んできても譲らない。
ショーンは、見た目をはじめとして、色々な部分が父親のジョンズワートに似ている。
乗馬など教えたら、父親と同じく好きな子を馬に乗せて怪我をさせそうだ。
そういうわけで、ジョンズワートは息子に乗馬の練習をさせずにいた。
まあ実際、あと数年は経ってからの方が安心だろう。
だからカレンも、こういうとき、無理に息子につくことはしなかった。
「おー、またやってますねえ」
どこか呑気にそんなことを言いながら現れたのは、今もデュライト公爵家でカレンやその子供たちに仕えるチェストリーだ。
父親交代のため数年はショーンから離れていた彼だが、今は世話係の一人としてそばにいる。
ショーンが公爵家の長男、ジョンズワートの息子として馴染むまでずっと休暇というのも性に合わなかったため、離れているあいだの多くの時間をアーネスト家で過ごしていた。
「チェストリー! チェストリーからも父上に頼んでよ!」
「はは、坊ちゃん。これに関しては俺がどう言っても無駄だと思いますよー」
「なんで?」
「旦那様は坊ちゃんが心配なんですよ。乗馬は楽しいものですが……同時に、とても危なくもありますから」
「でも、ちゃんと練習すれば……」
「その『練習』も、あと何年かすればさせてもらえますよ。きっと」
「んー……」
ショーンは不貞腐れてはいるが、今回はこれで諦めたようだった。
今のショーンにとっての父親は、ジョンズワートである。
しかし、幼い頃の自分の父親代わりがチェストリーだったことはショーンも知っているし、記憶のどこかにも残っているようで。
今も世話係をしていることもあり、ショーンにとってのチェストリーは第二の父のようなものである。
無駄に傷つけなくて済むよう、ショーンには外部向けの説明――カレンとチェストリーが誘拐され、カレンの心が回復するまで離れた地で三人で暮らしていたという話だ――をしてある。
「ショーン様、そろそろお勉強のお時間です」
「あ、もう? わかった、今行くよ。父上、僕がもう少し大きくなったら、絶対ですよ!」
「わかったわかった。約束するよ」
家庭教師に呼び出されても、去り際に乗馬の話をしていくショーン。
ジョンズワートはそんな息子に苦笑しながらも、「勉強、頑張ってね」とひらひらと手を振って見送った。
「……ところでチェストリー。サラはどうしてる? 時期が時期だし、もう少し休みを取ってもいいんだよ?」
「そうですね……。奥様と坊ちゃんたちも心配ですが、あいつについていられるのは、俺だけですからねえ」
「カレン、きみも構わないよね?」
「ええ、もちろんです。チェストリー、私は大丈夫ですから。自分の奥さんについていてあげて?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……。時短勤務や休暇、もっと使わせてもらいます」
主人のカレンに付き合っての逃亡生活。その後は父親交代のために主人の元を離れ。
自分を救ってくれた主人第一で、それまで自身の人生はあまり重視していなかった彼であるが……今は違う。
チェストリーには、今、妻も子供もいる。
カレンとともにデュライト公爵邸に戻ったのち、サラと親しくなり、夫婦となったのだ。
世話焼きな彼女が、チェストリーの愚痴に付き合い続けたことから関係が発展。
デュライト家を離れているあいだも手紙のやりとりをしていたし、アーネスト家に居る頃は隣の領地なこともあり、頻繁に会っていた。
自然と恋仲になり、結婚し。第一子の妊娠を機にサラは退職。今は第二子の誕生を控えている。
サラは男爵家の次女であるが、チェストリーが元々子爵家の生まれなこと、公爵家に仕える人間であることなどが幸いし、結婚に反対されることなども特になかった。
ちなみに、ジョンズワートの部下であるアーティも、カレンたちが再会した頃の彼女と既に結婚している。
***
カレンとジョンズワートの方針で、夕食はなるべく家族揃ってとることにしている。
まだ幼い第三子も含めた五人で食卓を囲めば、穏やかな時間が流れ始める。
公爵家であるから食事はマナーの練習も兼ねており、そこまで賑やかなわけではないのだが。
それでも、五人もいれば笑ったり拗ねたり、それなりに盛り上がったりもするもので。
妻であり母であるカレンからは笑みが絶えない。
ジョンズワートもまた、そんな妻子を見て愛おし気に瞳を細めている。
誘拐され、死亡説まで流れても諦めず妻を探し続け、取り返した男、ジョンズワート・デュライトと、それだけ愛され求められた妻、カレン・アーネスト・デュライト。
この二人の話は、再会した彼らが仲の良い夫婦として暮らしていることまで含めて、ホーネージュでは有名だ。
二人をモデルにした恋物語まで存在するぐらいである。
そのお話を読んだときは、本当はこんなにきれいじゃなかったよね、実際には拗れまくっていたよね、と二人で苦笑したものだった。
額に傷をつけたことがきっかけで拗れに拗れ、すれ違いに勘違いを重ねた二人。
色々なことが……本当に色々なことがあったが、今では物語の中の自分たちに負けないほどに、よき関係を築けている。
ジョンズワート・デュライトと、カレン・アーネスト・デュライトは、これからも、夫婦として、親として、公爵家の人間として。大事なものを、守り続けていく。
死が二人をわかつまで――いや、もしも命を失ったとしても。もう二度と、二人が離れることはない。
「まだ10歳だろう? もう少し大きくなってからの方が……」
「同い年でもう乗ってる人もいます!」
「うちはうち、よそはよそだよ。僕はあと何年か先でいいと思う」
このやりとりも、もう何度目だろう。
デュライト公爵家の当主・ジョンズワートとその長男・ショーンの攻防。
はじめの3年は農村で育ったショーンだが、その後の暮らしで公爵家に慣れ、10歳となった今ではジョンズワートを父と呼び、次期公爵としての教育も受けている。
昔から活発な彼は、父と同じように乗馬をたしなみたくて仕方なく、挑戦させて欲しいと何度も何度も父に頼み込んでいた。
しかし、ジョンズワートの返事はいつも「まだ早い」「あと何年か待とう」で。
小型の馬ではあるが、同い年の友人が馬に乗っていることも知っているショーンは納得がいかない様子だ。
ジョンズワートが息子に乗馬の許可を出さない理由を知るカレンは、そんな夫と息子を見て苦笑している。
「あの人、まだ気にしてるのね」
そう言って困ったように微笑みながら、カレンは自分の腹を撫でた。
今、カレンのお腹には新しい命が宿っている。
第一子であるショーンは10歳。再会し、夫婦となってから第二子第三子と産まれていき……今お腹にいるのは、二人の第四子だ。
15歳のジョンズワートは、カレンと馬の二人乗りをし、楽しさのあまり指示を怠り、当時12歳だったカレンを落馬させた。
色々あった二人だが……あそこまで拗れた1番最初の原因は、あのとき負った額の怪我である。
かなり薄くはなったが、傷はまだカレンの額に残っている。
もしもこの傷がなかったら。乗馬をしていなかったら。
最初の求婚をあんな形で断ることはなかったかもしれないし、妊娠の可能性を隠して逃亡するなんていう大騒動にも発展しなかったかもしれない。
だからかジョンズワートは、乗馬のこととなると息子が何度頼んできても譲らない。
ショーンは、見た目をはじめとして、色々な部分が父親のジョンズワートに似ている。
乗馬など教えたら、父親と同じく好きな子を馬に乗せて怪我をさせそうだ。
そういうわけで、ジョンズワートは息子に乗馬の練習をさせずにいた。
まあ実際、あと数年は経ってからの方が安心だろう。
だからカレンも、こういうとき、無理に息子につくことはしなかった。
「おー、またやってますねえ」
どこか呑気にそんなことを言いながら現れたのは、今もデュライト公爵家でカレンやその子供たちに仕えるチェストリーだ。
父親交代のため数年はショーンから離れていた彼だが、今は世話係の一人としてそばにいる。
ショーンが公爵家の長男、ジョンズワートの息子として馴染むまでずっと休暇というのも性に合わなかったため、離れているあいだの多くの時間をアーネスト家で過ごしていた。
「チェストリー! チェストリーからも父上に頼んでよ!」
「はは、坊ちゃん。これに関しては俺がどう言っても無駄だと思いますよー」
「なんで?」
「旦那様は坊ちゃんが心配なんですよ。乗馬は楽しいものですが……同時に、とても危なくもありますから」
「でも、ちゃんと練習すれば……」
「その『練習』も、あと何年かすればさせてもらえますよ。きっと」
「んー……」
ショーンは不貞腐れてはいるが、今回はこれで諦めたようだった。
今のショーンにとっての父親は、ジョンズワートである。
しかし、幼い頃の自分の父親代わりがチェストリーだったことはショーンも知っているし、記憶のどこかにも残っているようで。
今も世話係をしていることもあり、ショーンにとってのチェストリーは第二の父のようなものである。
無駄に傷つけなくて済むよう、ショーンには外部向けの説明――カレンとチェストリーが誘拐され、カレンの心が回復するまで離れた地で三人で暮らしていたという話だ――をしてある。
「ショーン様、そろそろお勉強のお時間です」
「あ、もう? わかった、今行くよ。父上、僕がもう少し大きくなったら、絶対ですよ!」
「わかったわかった。約束するよ」
家庭教師に呼び出されても、去り際に乗馬の話をしていくショーン。
ジョンズワートはそんな息子に苦笑しながらも、「勉強、頑張ってね」とひらひらと手を振って見送った。
「……ところでチェストリー。サラはどうしてる? 時期が時期だし、もう少し休みを取ってもいいんだよ?」
「そうですね……。奥様と坊ちゃんたちも心配ですが、あいつについていられるのは、俺だけですからねえ」
「カレン、きみも構わないよね?」
「ええ、もちろんです。チェストリー、私は大丈夫ですから。自分の奥さんについていてあげて?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……。時短勤務や休暇、もっと使わせてもらいます」
主人のカレンに付き合っての逃亡生活。その後は父親交代のために主人の元を離れ。
自分を救ってくれた主人第一で、それまで自身の人生はあまり重視していなかった彼であるが……今は違う。
チェストリーには、今、妻も子供もいる。
カレンとともにデュライト公爵邸に戻ったのち、サラと親しくなり、夫婦となったのだ。
世話焼きな彼女が、チェストリーの愚痴に付き合い続けたことから関係が発展。
デュライト家を離れているあいだも手紙のやりとりをしていたし、アーネスト家に居る頃は隣の領地なこともあり、頻繁に会っていた。
自然と恋仲になり、結婚し。第一子の妊娠を機にサラは退職。今は第二子の誕生を控えている。
サラは男爵家の次女であるが、チェストリーが元々子爵家の生まれなこと、公爵家に仕える人間であることなどが幸いし、結婚に反対されることなども特になかった。
ちなみに、ジョンズワートの部下であるアーティも、カレンたちが再会した頃の彼女と既に結婚している。
***
カレンとジョンズワートの方針で、夕食はなるべく家族揃ってとることにしている。
まだ幼い第三子も含めた五人で食卓を囲めば、穏やかな時間が流れ始める。
公爵家であるから食事はマナーの練習も兼ねており、そこまで賑やかなわけではないのだが。
それでも、五人もいれば笑ったり拗ねたり、それなりに盛り上がったりもするもので。
妻であり母であるカレンからは笑みが絶えない。
ジョンズワートもまた、そんな妻子を見て愛おし気に瞳を細めている。
誘拐され、死亡説まで流れても諦めず妻を探し続け、取り返した男、ジョンズワート・デュライトと、それだけ愛され求められた妻、カレン・アーネスト・デュライト。
この二人の話は、再会した彼らが仲の良い夫婦として暮らしていることまで含めて、ホーネージュでは有名だ。
二人をモデルにした恋物語まで存在するぐらいである。
そのお話を読んだときは、本当はこんなにきれいじゃなかったよね、実際には拗れまくっていたよね、と二人で苦笑したものだった。
額に傷をつけたことがきっかけで拗れに拗れ、すれ違いに勘違いを重ねた二人。
色々なことが……本当に色々なことがあったが、今では物語の中の自分たちに負けないほどに、よき関係を築けている。
ジョンズワート・デュライトと、カレン・アーネスト・デュライトは、これからも、夫婦として、親として、公爵家の人間として。大事なものを、守り続けていく。
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