19 / 77
第二章
11 従者は、願う。このきっかけを、掴み取ってくれと。
しおりを挟む
いくつかの店をまわったら、喫茶店で一休み。
一言に喫茶店といっても、それなりの身分の者しか入れないような高級店だ。
オープンスペースもあるが、希望すれば個室に通してもらえる。
どうも、ジョンズワートがカレンに贈る菓子はここで購入することが多いようで。
来店するとすぐに店主が出てきて、名乗ってもいないのにカレンたちを公爵夫妻として扱った。
当然のように、カレンとジョンズワートは個室へ通される。
二人に気を遣ったのか、同行していた護衛は部屋に入らず、扉の前に立つだけに留めた。
その護衛というのは……チェストリーだったりする。今回は二人の馬車を操る御者も務めている。
他の店にいたときも、彼はデュライト公爵夫妻に気を遣い、離れた位置で待機していた。
普段はカレン、チェストリー、アーティの三人で外出することが多いから、チェストリーはカレンの話し相手にもなっていた。
けれど、今回は。
二人が距離を縮めるいい機会に、自分が出張って邪魔をするわけにはいかないと思い、なるべく彼らの視界に入らないよう動いていた。
護衛として警戒はしているものの……正直なところを言えば、少し退屈だった。
デュライト公爵夫妻とは最低限の会話しかせず、午後いっぱい連れ回されるのである。
しかし、両想いのはずなのにどうしてか上手くいかない二人が、ようやくきっかけを掴んだのだ。
黙って、離れて、静かについていくぐらい、この「デート」が持つ意味を考えれば、なんてことはなかった。
扉の前で、チェストリーは小さくため息をつく。
10代の頃のカレンとジョンズワートは、誰がどう見たって両想いだった。
それが、どうしてか拗れてしまって、疎遠になって。
チェストリーは、二人が離れてしまったことを残念に思っていた。
カレンが結婚を考える年齢になった頃だって、チェストリーの目には、彼女はジョンズワートのことが忘れられず、数多舞い込む縁談を白紙にしていたように見えた。
離れていた頃のジョンズワートがどう過ごしていたのかは、チェストリーにはわからなかったが。
カレンに結婚を申し込んできたと知ったとき、ああ、あの人もお嬢と同じだったんだ、忘れられないままだったんだ、と感じた。
二人の婚約期間中、カレンにこう言われたことがある。
「8年も経ったのにずっと私を好きだったなんて、無理がありますよね?」
流石のチェストリーも、ずばずばと「いや貴女もそうでしょう」「ずっと心にジョンズワート様がいたじゃないですか」「それと同じでは?」とまでは言えず。
「何年も続く想いというものも、あると思いますよ。……俺も、そういう人を知っていますしね」
と返すに留めた。
結婚後のジョンズワートはカレンを大事にしているが、どこか遠慮気味で。
カレンも自分を大切に扱ってくれるジョンズワートに応え、公爵家の奥様としての役割を果たそうとしているが、嫁入りしてからは表情が曇りがち。
表面上は妻を大事にする夫と、奥様として頑張る妻という微笑ましい二人だが、カレンを曇らせるなにかがあることは、チェストリーも感じ取っていた。
深い事情までは聞けないが……二人の寝室が別なことも知っている。
カレンの外出時、護衛を務めるのは自分だから、もちろん、ジョンズワートが滅多にカレンに同行しないことも知っていた。
今も昔も、二人は両想い。
なのにどうしてか噛み合わない。すれ違う。夫婦として寄り添うことができない。
二人とも、不器用で、臆病で。本当に必要な一歩を踏み出すのが、苦手なのかもしれない。
でも、今回は。カレンから「一緒に」と言い、ジョンズワートがそれに応えてカレンをデートに連れ出したと聞いている。
チェストリーは、期待していた。
これが、二人の関係がよい方向に変わるきっかけになるのではと。
「上手くいってくれよ……」
幼い頃からの二人を知るチェストリーは、二人がいる個室の前に待機しながら、そう願った。
一言に喫茶店といっても、それなりの身分の者しか入れないような高級店だ。
オープンスペースもあるが、希望すれば個室に通してもらえる。
どうも、ジョンズワートがカレンに贈る菓子はここで購入することが多いようで。
来店するとすぐに店主が出てきて、名乗ってもいないのにカレンたちを公爵夫妻として扱った。
当然のように、カレンとジョンズワートは個室へ通される。
二人に気を遣ったのか、同行していた護衛は部屋に入らず、扉の前に立つだけに留めた。
その護衛というのは……チェストリーだったりする。今回は二人の馬車を操る御者も務めている。
他の店にいたときも、彼はデュライト公爵夫妻に気を遣い、離れた位置で待機していた。
普段はカレン、チェストリー、アーティの三人で外出することが多いから、チェストリーはカレンの話し相手にもなっていた。
けれど、今回は。
二人が距離を縮めるいい機会に、自分が出張って邪魔をするわけにはいかないと思い、なるべく彼らの視界に入らないよう動いていた。
護衛として警戒はしているものの……正直なところを言えば、少し退屈だった。
デュライト公爵夫妻とは最低限の会話しかせず、午後いっぱい連れ回されるのである。
しかし、両想いのはずなのにどうしてか上手くいかない二人が、ようやくきっかけを掴んだのだ。
黙って、離れて、静かについていくぐらい、この「デート」が持つ意味を考えれば、なんてことはなかった。
扉の前で、チェストリーは小さくため息をつく。
10代の頃のカレンとジョンズワートは、誰がどう見たって両想いだった。
それが、どうしてか拗れてしまって、疎遠になって。
チェストリーは、二人が離れてしまったことを残念に思っていた。
カレンが結婚を考える年齢になった頃だって、チェストリーの目には、彼女はジョンズワートのことが忘れられず、数多舞い込む縁談を白紙にしていたように見えた。
離れていた頃のジョンズワートがどう過ごしていたのかは、チェストリーにはわからなかったが。
カレンに結婚を申し込んできたと知ったとき、ああ、あの人もお嬢と同じだったんだ、忘れられないままだったんだ、と感じた。
二人の婚約期間中、カレンにこう言われたことがある。
「8年も経ったのにずっと私を好きだったなんて、無理がありますよね?」
流石のチェストリーも、ずばずばと「いや貴女もそうでしょう」「ずっと心にジョンズワート様がいたじゃないですか」「それと同じでは?」とまでは言えず。
「何年も続く想いというものも、あると思いますよ。……俺も、そういう人を知っていますしね」
と返すに留めた。
結婚後のジョンズワートはカレンを大事にしているが、どこか遠慮気味で。
カレンも自分を大切に扱ってくれるジョンズワートに応え、公爵家の奥様としての役割を果たそうとしているが、嫁入りしてからは表情が曇りがち。
表面上は妻を大事にする夫と、奥様として頑張る妻という微笑ましい二人だが、カレンを曇らせるなにかがあることは、チェストリーも感じ取っていた。
深い事情までは聞けないが……二人の寝室が別なことも知っている。
カレンの外出時、護衛を務めるのは自分だから、もちろん、ジョンズワートが滅多にカレンに同行しないことも知っていた。
今も昔も、二人は両想い。
なのにどうしてか噛み合わない。すれ違う。夫婦として寄り添うことができない。
二人とも、不器用で、臆病で。本当に必要な一歩を踏み出すのが、苦手なのかもしれない。
でも、今回は。カレンから「一緒に」と言い、ジョンズワートがそれに応えてカレンをデートに連れ出したと聞いている。
チェストリーは、期待していた。
これが、二人の関係がよい方向に変わるきっかけになるのではと。
「上手くいってくれよ……」
幼い頃からの二人を知るチェストリーは、二人がいる個室の前に待機しながら、そう願った。
51
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!
佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」
突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。
アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。
アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。
二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる