デブでチビな僕にモテ期が!?

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ジャージの担任、時々大男、そして三つ指ついた美人

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「ねぇねぇ姫乃さんさっきのって──」
「彼とは──」
「姫乃さん髪キレー──」
「それより──」「そういえば──」

 色々と衝撃的な展開が起こった直後、智美が何かを聞こうとする前に、女子達が白百合の周りに集まり、質問責めが始まった。
 文字通りコロコロと転がされた智美はヨロヨロと自席につく。どうやら白百合はその隣の席だったようで、隣で涼しい顔をして、先ほどの発言やプライベートなことまで優雅に答えていた。

 まだ状況の掴めていない赤い顔で白百合の方を見た智美は視線に気付いた白百合と目が合い、またも微笑みを受け、バッと窓の外に視線を移した。
 そのやりとりにまたキャーッと女子達の歓声が上がる。

「ねぇねぇ、どういうこと? ハルの知り合いなの?」

 囁き声が前の席と机の間から聞こえ、ギョッとする。那慈深が机の陰から頭半分出して、ジト目で智美を見ていたのだ。

「ねぇったら、どうなの?」
「いや、知らないよ。そもそも那慈深だって僕の交友関係くらい知ってるだろ?」

 ヒソヒソ声でやりとりする二人。

「でもぉ~白百合ちゃんは知ってるみたいだったよぉ~?」

 いつの間にか那慈深の隣で同じように頭半分出して、ニコニコとしている光がそう口にする。

「そ、そうよ。アンタのこと『ともくん』とか呼んでたわよ? 私に隠してあんな可愛い子と知り合ってたなんて許さないわよ?」

 その言葉に那慈深はジト目から段々と厳しい目に変わる。

「いや……仮に知り合いだったとして、なんで那慈深に許しを請わないといけないんだよ」
「そ、それはその、アンタがごにょごにょ……」

 那慈深の言葉に不思議そうに返す智美。そんな返しに珍しく口ごもる那慈深に、より不思議そうな顔をする智美。光はニコニコと二人の様子を伺っている。

「僕が?」
「ッ──いいのよ! 私はみちるちゃんからハルの面倒みるように言われてるんだから、そこらへんの把握もしてなきゃいけないの!」

 勢いよく立ち上がり思いの外大きな声を上げてしまった那慈深は、一瞬静まり、集まる視線にボッと顔を赤くして、自席へと走って戻っていった。

「オラァ! 静かにしろォ! 席につけェ! あん? そこの……出部! 寝てんじゃねぇぞ!」

 バァンと大きな音を立てながら教室に入ってきたジャージ姿の先生の声に生徒は自席へと散って行く。そして、智美は去り際に頭へと瓦割りを食らわしていった那慈深のせいで机に突っ伏していたところを責められることとなった。

「よっし、全員揃ってんな。私は担任の戦場狂子。担当は──」

 あの格好だ。体育だろうな、と全員が思っていると……

「──物理だ。よろしく頼むぞ!」

 先ほどの白百合インパクト同様、全員から疑問符のついた叫びが上がる。

「うるっさい! なんだおまえら、私が物理だとおかしいってか? アァン!?」

 シーンと静まる教室。

「よし、それでよろしい。それじゃ、適当に自己紹介でも終わらせて、みんな疲れてるだろうし、解散にすっか。んで、親睦を深めるなり、部活動を見に行くなり、好きにしてくれ。じゃあ、そっちのやつからな」

 そういって、狂子は教壇に頬杖をつき、座った。
 そして、廊下側から順に自己紹介が始まる。

 *

 那慈深の自己紹介でギャップ萌え信者が出来たり、光の自己紹介で空気がほわほわになったり、白百合の自己紹介で教室がスタンディングオベーションになったりと、色々あったが、自己紹介も終わり、解散の流れとなった。

「──ということで、解散なー。あ、そうそう、白百合ー、ちょっと職員室まで来てくれるかー?」

 狂子に連れられて、職員室に向かう白百合の背中を見ながら、少しホッとする智美。
 帰ろうかと思い、かばんに手をかけ、席を立とう──

「おい、なに帰ろうとしてやがる、ツラ貸せって言ったろ」

 ──としたところを背後から現れた大きな手に止められる。白百合の一件で完全に忘れていた智美は顔面蒼白で自らの血の引く音を聞く。

 そのまま引きずられるように、体育館裏へと連れ出された。

「えっと……大橋くん……だったよね? あの、ぶつかったことならごめん……」

 既に到着してから五分。腕を組み、黙ったままの大男こと大橋おおはし 龍巳たつみ
 無言の空間と圧力に負けて、先に口を開いたのは智美だった。
 その言葉を聞いて、龍巳はハッとした顔をして、口を開きかけ、やめる。
 その様子に智美はビクッと身を竦める。
 その後、更に五分ほど、同じようなやり取りをするが、何も進まなかったが、意を決したように龍巳が動く。

「……あのよ──」「なにやってんのよぉ!?」

 口を開きかけ、手を前に出そうとした体勢で、龍巳は突然の叫び声に固まる。

「ハルに手を出したら許さないからねっ!」

 ザザーッと土煙を立てて身体を龍巳と智美の間に滑らせたのは那慈深だ。
 ファイティングポーズをとり、龍巳を見上げ威嚇している。

「……っ──わりぃ」

 そして、出しかけた手を引っ込めて、踵を返し去っていった。

「あの人──」「大丈夫!? 怪我してない!?」

 龍巳の後ろ姿を見つめる智美は何かを思うが、視線に割り込んで来た那慈深で見えなくなる。そして視界は上下に振り回された。

「だだだだだいじょうぶぶぶぶ。だから、振るのやめてぇぇぇぇ」
「ホント!? 隠してない!? ──よかったぁ」

 肩を持って揺する那慈深は智美の言葉を聞き、安心したのか、胸を撫で下ろす。

「ふぅ……なんで那慈深がここに?」
「なんでって……まったく。帰ろうかと思ったら、ハルの姿が見えなくて。光ちゃんに聞いたら大橋くんに連れていかれたって聞いて……だから、その……とにかく! 今日は早く帰ろ!」

 そういって那慈深は智美の前を歩き始めた。
 その後、二人で談笑しつつ家路につく。

「──それで? 大橋くんは何の用だったの? カツアゲ? いじめ?」
「なんで、すぐそうなるのさ……うーん、でもずっと黙ってて結局どういった用だったのかわかんないんだよね。最初はぶつかったことで怒ってるのかと思ったんだけど……」

 そういって、智美は最後に見た龍巳の表情を思い出し、少し考える。

「ふぅん……いじめられたらちゃんと言うのよ? それはともかく……姫乃さんのことよ、どうするの?」

 考えていた思考を那慈深の口から出た名前で吹き飛ばされる。そして、顔から火が出たように熱くなり、赤くなった。

「……まぁ、姫乃さん可愛いもんね。でも気をつけなさいよ! ああいう子程ね、厄介だったりするし、それに知り合いでも無いんなら余計に気をつけないとダメなんだからね?」

「だからなんで、お前がそんなに色々言うんだよ……」

 智美の様子を見て、ジト目に変わる那慈深がいつもよりやや早口でまくし立てた。
 それに智美は不思議に思いつつ、口うるさいことにウンザリした顔で問いかけとも独り言ともとれる言葉を投げる。

「そ、それは──」「あ、家着いた」

 そうこうしている内に家までたどり着いていたようで、会話が終了する。
 家に入ろうとして──

「……なんで、こっちに来るの?」
「え? みちるちゃんが終わったらお茶しようって言ってたから?」

 ──飄々ひょうひょうと舌を出し、自分の家じゃなく、隣家についてくる幼馴染の様子に諦め気味にため息を吐きながら、自宅の扉を開いた。

「ただいまぁ──あ?」「どしたの? って、あ」

「おかえりなさいませ」

 そこで見たのは、ニコッと笑顔でお出迎えした姫乃白百合の姿であった。
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