デブでチビな僕にモテ期が!?

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登校二日目

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「ふぁ~あ……眠い……」

 大きなあくびをし、目をこする少年。昨日は色々と精神負荷が重なり、二日続けての寝不足となった彼の目にはうっすらとくまが浮かんでいた。
 モゾモゾと着替えを済まし、リビングに向かう。

「ハルおっはよー……って眠そうね。また徹夜でゲームでもした?」

 今日も今日とて、自宅のように我が物顔をしている幼馴染。今日の朝の一杯はコーヒーのようだ。ミルクと砂糖をタップリと入れ、マイルドで甘い香りが漂っている。

「那慈深おはよ。昨日はゲームなんてする余裕無かったよ。にがっ」

 カタンと小さな音を立て椅子を引き、コーヒーを入れブラックで啜る。苦味で少しだけ目が覚めた智美は砂糖とミルクに手を伸ばす。

「ほい。色々あったもんねぇ。あ、みちるちゃんは今日は朝から会議だって、先に家出たよー。帰りも遅くなるから買い物して来てって言ってた」

「あ、ありがと。そっか、じゃあ晩飯も自分で作んないとか……めんどい」

 ミルクと砂糖を近づけながらそう言った那慈深に礼を言い、帰宅後の食事の用意を考えて憂鬱になる。
 出部家は現在父が単身赴任中。母みちるはウェディングプランナーをしており、そこそこ仕事を任される地位にいる。そのため、こういったことはよくあった。

「そう言わないの。あ、じゃあさ──」

 何かを言いかけた那慈深の言葉を遮ったのは来客のチャイムだった。

ふぉんなふぁふぁからふぁれふぁろこんな朝から誰だろ? ふぁーい」
「あ、こらハル! パン咥えたまま動くな行儀悪い!」

 パンを咥えたまま玄関へ向かう智美のあとを、那慈深が追う。玄関を開けた智美は思わずパンを口から落としかける。

「ともくんおはよっ」

 ニコッと笑う寝不足の原因である人物だった。

 *

「うへぁ……」

 智美は机に伏して疲労感を顔に写していた。
 朝からやって来た白百合と那慈深と共に登校し、教室中の詮索の視線と羨望の視線に晒され、男子からはからかわれた。
 そして、那慈深は何故か不機嫌になっていて、登校するまでに何度攻撃と口撃を受けたか分からない。身も心もボロボロだ。

「ともくん。大丈夫ですか?」

 隣から白百合が小さな声で心配してくれる。だが、智美にはそれに答える元気もなく、片手を上げ心配ない旨を伝える。

「お、出部。やってくれるのか。じゃあ出部はクラス委員なー」
「は!?」

 智美はガバッと顔を上げる。本日もジャージに身を包む物理教師はキョトンとした顔で智美と目を合わせニッと笑う。
 しまったぁ! と思った時には時すでに遅く、黒板に書かれたクラス委員の欄に出部智美の名を書き足した。

「ちょ、先生今のは違──」「ちなみに、他に候補者がいない場合の取り消しは聞かんからな。そんじゃ──女子からも一名誰か立候補いるかー?」

 委員会決めの時間だったことを忘れ、迂闊にも手を上げてしまったことを智美は嘆く。

「おぉ、白百合か。お前なら問題ないな。よろしく頼むぞ」

 顔を伏せ、嘆きのうめき声をあげる智美の耳に飛び込んで来たのは、天使の救済か、悪魔の堕落か。横を見れば、隣にいる白百合が大きく手を上げているのが目に入った。
 そして、目があった白百合はいつものように優しく微笑んだ。

「んじゃ、早速だがクラス委員。あとの進行は任せたぞ」

 そういう狂子は教壇の椅子を黒板の脇に移動し、足を組み、そこに肘を立ててダラケ始めた。
 スッと立ち、教壇へと歩みを進めた白百合とは対照的に智美はオズオズと嫌そうに前に立つ。

「あとは適当に決めていってくれ。決まったら起こして」
「はい」

 そう言って寝に入る不良担任に優等生の返事を返し、白百合は進行を始める。智美は完全なる書記として進行補佐をするのだった。
 なお、黒板の字が下過ぎて見えないと笑い者になり、その後踏み台を使って乗り切ったのは言うまでもない。

 そんな中、二人ほど面白くない顔をしている人物がクラスの中にいた。

 一人目の人物はこう言う。

「アンタね。しーちゃんが可愛いからってデレデレし過ぎじゃない?」

 箸を向けるは幼馴染。手元には女の子らしいピンク色のお弁当箱に可愛らしく盛り付けられた栄養バランスと色彩に富んだ弁当がある。

「そそそそんなことないだろ!?」
「そうですよ。私はまだお返事もいただいてないくらいですから、ともくんにとっては割とどうでも良い相手なんだと思います」

 否定する智美の横からニコニコとした表情で白百合が口を挟む。
 その表情を見つめる二人は汗を流し白百合を見つめる。もう一人ホワホワとした表情を浮かべる人物は空気を読まずに口を開いた。

「チビくんは~白百合ちゃんが嫌いなのぉ~?」

 その言葉に智美は固まる。爆弾を投げ込んだ人物は呑気にマイペースに玉子焼きをほうばっている。

「そうですか……ともくんは私のことがお嫌いなんですね……」

 暗い表情で頭を伏せた白百合に石化を解いた智美が慌ててその言葉を否定しようとすれば、もう一人の幼馴染が再度突っかかってくる。
 お昼時間に可愛い女子三人をはべらした智美は順調にクラスの男子からの憎悪値ヘイトを溜めていっていた。
 実際には三人揃ってからかっているわけだが。

「おい」

 そんな和気あいあいとした空間に少し低い声音が響く。面白くない顔をしていた人物二人目、大橋龍巳だ。
 大柄な人物は椅子に座る小さな少年を見下ろし圧力的な瞳で睨むように立っていた。
 意外な人物の登場にクラスの男子大多数から、リア充の破壊を願う期待の眼差しが集まる。

「大橋くん、どうし──」「なに!? ハルにパシリでもさせようっていうの!? 言っとくけど、見た目通りどんくさいからお昼食べられなくなるわよ!」

 瞬時に反応し、返事をしようとした智美の前に那慈深が割り込む。助けようと発した言葉は助けられる人物の心を抉ったが、そんなことを気にせず対峙する人物二人の間には剣呑な雰囲気が漂う。

「那慈深……お前の言葉が痛い……えっと、大橋くん何か用があるんだよね、外で話そっか」
「ハル!?」

 ヨロヨロと立ち上がった智美は、那慈深の肩越しに龍巳にそう提案する。それに困惑の表情を見せた那慈深には「大丈夫大丈夫」と告げ、連れだって教室の外に出ていった。
 心配そうな表情で背中を見送る三人。主に那慈深はオロオロとした表情だったが、光になだめられ、席についた。

 ◆

「ほら」
「わっとと。ありがと──牛乳……」

 龍巳はガコンっと音を立て、落ちて来た紙パックを掴み、放る。それを受け止めた智美はデフォルメされた牛がプリントされた飲み物を前に複雑な顔をした。

「牛乳は嫌いか?」

 そう言った龍巳はピンク色のパックに包まれたいちごみるくをジュルジュルと吸い込んでいる。

「いや、うん、牛乳は好きだよ……ありがと」

 自販機の横に置いてあるベンチへ二人は腰を落とす。そして、無言でジュルジュルと飲み物を飲む二人。
 体格差がある二人は座っていると余計に大きさの違いを強調している。
 先に飲み物を飲み干した龍巳は紙パックを横にあるゴミ箱に放り込む。そして、顔を下げたり上げたりし、意を決し、口を開く。

「あの、よ……」
「うん?」

 その声に反応し、龍巳を智美は見上げた。

「うんん……こう言っちゃなんだが、俺って怖いか?」
「え、あ、うん」

 いきなりの質問につい肯定を返した智美は空気が固まる音を聞いた。
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