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第3章 真のスローライフ編
第37話 そろそろ名前呼びで
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遂に来て欲しくない日が来てしまった。
今日は即位式だ。
ガルザは器として、アロマロッテは精霊魔法の発動起源として、バエルバットゥーザの一部となってこの世を去ったことは一部の人間しか知らない。
裏で暗躍し、バエルバットゥーザの封印を解いたコーネリアスも同様にもうこの世には存在していない。
これで世界に平和が訪れたと言っても過言ではないだろう。
しかし、めでたしめでたしとはならなかった。
全ての責任は国王陛下にあると言い出した者たちがいたのだ。
ガルザは陛下の実子。
聖なる魔法の使い手を片田舎から呼び出したのは陛下で、コーネリアスを国の魔術師と認めたのもまた陛下だ。
国王陛下と王妃は最初から決めていたかのように冠を置いた。
陛下が退位されるとなれば、唯一の血縁であるフェルド王子が即位することになる。
そうなると、私も身分が変わってしまう。
「新国王フェルド万歳! 王妃リリアンヌ万歳!」
誰かがそう叫んだ。
式に参列している貴族全員が立ち上がり、一斉に拍手する。
私たちの結婚を発表したときは戸惑いながらだったけれど、今回はしっかりと手を上げて歓呼に応えた。
長い式を終えて王宮のバルコニーに立つと、多くの国民が祝福のために集まってくれていた。
私たちの頭には王冠が載せられ、その存在感を知らしめている。
空にはレッドクリフドラゴンのジーツーが飛び回り、さながら花火のようなものを吐き出し、祝福をしてくれている。
マオさん率いる魔族の一部も式には参列してくれていたし、他の魔族は王宮の外で祝福してくれた。
「王様になっちゃったね」
「すみません、まだまだスローライフはできそうにないですね。もしも、息が詰まるようなら……」
この発言に少しむくれて、ずいっと辻くんに顔を寄せる。
「私が辻くんとファイを放置してスローライフを楽しむような女だと思っているの?」
彼は慌てて、大袈裟に手を振った。
「それは違います! でも、美鈴さんの理想がどんどん遠ざかっていくので」
これまでは彼から手を握ってくれたけれど、今度は私から手を握る。
残った三つの魔力も辻くんに送ることはできなくなってしまった。
だけど、それが手を繋がなくなる理由にはならない。
「そんなことないと思うよ? まだまだ先は長いし、辻くんと一緒ならどこだって楽しいよ」
驚きの顔から一変して恥ずかしそうに頬を赤く染めた辻くん。
そんな反応をされると、私まで照れちゃうじゃない。
「ちゃんとこの先のことも考えてるから大丈夫だよ。私は理想を諦めないからね」
照れ隠しをしていると、辻くんは私をギュッと抱き寄せた。
「僕は生涯に渡って、美鈴さんを愛すると誓います」
「何回も誓ってくれてありがとう。ただ、ね。その……」
これまで何度も言おうか、言うまいか悩んできたことがある。
私の顔を覗き込みながら首を傾げる旦那様はなんて鈍感なんだ。
こんなことを私に言わせるなんて。
「だから、その、名前で。名前で呼んで欲しい、かなって」
きょとんとする辻くん。
「だって、私たち夫婦なんだよ!? 私、リリアンヌ・グッドナイトなのに、いつまで『美鈴さん』って呼ぶの?」
早口にまくしたてる。
もう止まらない。
「マオさんも、ムギちゃんも名前で呼んでくれるのに……。辻くんだけだよ。私もいつから『辻くん』をやめればいいのか分かんない」
言っちゃった。
思わず、胸のモヤモヤを全部吐き出しちゃった。
マオさんもムギちゃんも『美鈴』は名前ではなく、名字だと説明するとすぐに呼び方を改めてくれた。
だけど、辻くんはいつまで経っても『美鈴さん』と呼ぶ。それこそ、子供の前でもだ。
優しく目を細めた彼の顔が近づく。
「愛してるよ、唯」
耳元で囁かれ、声にならない奇声を上げながら、真っ赤な顔を彼の胸にうずくめる。
だから不意打ちはずるい。
ずる過ぎるってば。
「……私も」
ん? と意地悪に微笑む辻くんに消え入りそうな声で名前を呼んだ。
「大好き、友暁くん」
恥ずかしくて死にそう。
何が恥ずかしいって、母親になってから夫の名前を初めて呼んで、悶えていることだ。
辻くん改め、友くんも顔を逸らしてしまった。
「ゴホンっ」
誰かの咳払いで我に返る。
そこは二人だけの空間ではなく、王宮のバルコニーで眼前にも眼下にも大勢の人がいた。
「「あ……」」
ばっちり先代の王や騎士団や魔術師団などに見られていた。
国民にも見られて、指笛を吹かれるやら、冷やかされるやら。
私たちはまたしても顔を真っ赤に染めた。
今日は即位式だ。
ガルザは器として、アロマロッテは精霊魔法の発動起源として、バエルバットゥーザの一部となってこの世を去ったことは一部の人間しか知らない。
裏で暗躍し、バエルバットゥーザの封印を解いたコーネリアスも同様にもうこの世には存在していない。
これで世界に平和が訪れたと言っても過言ではないだろう。
しかし、めでたしめでたしとはならなかった。
全ての責任は国王陛下にあると言い出した者たちがいたのだ。
ガルザは陛下の実子。
聖なる魔法の使い手を片田舎から呼び出したのは陛下で、コーネリアスを国の魔術師と認めたのもまた陛下だ。
国王陛下と王妃は最初から決めていたかのように冠を置いた。
陛下が退位されるとなれば、唯一の血縁であるフェルド王子が即位することになる。
そうなると、私も身分が変わってしまう。
「新国王フェルド万歳! 王妃リリアンヌ万歳!」
誰かがそう叫んだ。
式に参列している貴族全員が立ち上がり、一斉に拍手する。
私たちの結婚を発表したときは戸惑いながらだったけれど、今回はしっかりと手を上げて歓呼に応えた。
長い式を終えて王宮のバルコニーに立つと、多くの国民が祝福のために集まってくれていた。
私たちの頭には王冠が載せられ、その存在感を知らしめている。
空にはレッドクリフドラゴンのジーツーが飛び回り、さながら花火のようなものを吐き出し、祝福をしてくれている。
マオさん率いる魔族の一部も式には参列してくれていたし、他の魔族は王宮の外で祝福してくれた。
「王様になっちゃったね」
「すみません、まだまだスローライフはできそうにないですね。もしも、息が詰まるようなら……」
この発言に少しむくれて、ずいっと辻くんに顔を寄せる。
「私が辻くんとファイを放置してスローライフを楽しむような女だと思っているの?」
彼は慌てて、大袈裟に手を振った。
「それは違います! でも、美鈴さんの理想がどんどん遠ざかっていくので」
これまでは彼から手を握ってくれたけれど、今度は私から手を握る。
残った三つの魔力も辻くんに送ることはできなくなってしまった。
だけど、それが手を繋がなくなる理由にはならない。
「そんなことないと思うよ? まだまだ先は長いし、辻くんと一緒ならどこだって楽しいよ」
驚きの顔から一変して恥ずかしそうに頬を赤く染めた辻くん。
そんな反応をされると、私まで照れちゃうじゃない。
「ちゃんとこの先のことも考えてるから大丈夫だよ。私は理想を諦めないからね」
照れ隠しをしていると、辻くんは私をギュッと抱き寄せた。
「僕は生涯に渡って、美鈴さんを愛すると誓います」
「何回も誓ってくれてありがとう。ただ、ね。その……」
これまで何度も言おうか、言うまいか悩んできたことがある。
私の顔を覗き込みながら首を傾げる旦那様はなんて鈍感なんだ。
こんなことを私に言わせるなんて。
「だから、その、名前で。名前で呼んで欲しい、かなって」
きょとんとする辻くん。
「だって、私たち夫婦なんだよ!? 私、リリアンヌ・グッドナイトなのに、いつまで『美鈴さん』って呼ぶの?」
早口にまくしたてる。
もう止まらない。
「マオさんも、ムギちゃんも名前で呼んでくれるのに……。辻くんだけだよ。私もいつから『辻くん』をやめればいいのか分かんない」
言っちゃった。
思わず、胸のモヤモヤを全部吐き出しちゃった。
マオさんもムギちゃんも『美鈴』は名前ではなく、名字だと説明するとすぐに呼び方を改めてくれた。
だけど、辻くんはいつまで経っても『美鈴さん』と呼ぶ。それこそ、子供の前でもだ。
優しく目を細めた彼の顔が近づく。
「愛してるよ、唯」
耳元で囁かれ、声にならない奇声を上げながら、真っ赤な顔を彼の胸にうずくめる。
だから不意打ちはずるい。
ずる過ぎるってば。
「……私も」
ん? と意地悪に微笑む辻くんに消え入りそうな声で名前を呼んだ。
「大好き、友暁くん」
恥ずかしくて死にそう。
何が恥ずかしいって、母親になってから夫の名前を初めて呼んで、悶えていることだ。
辻くん改め、友くんも顔を逸らしてしまった。
「ゴホンっ」
誰かの咳払いで我に返る。
そこは二人だけの空間ではなく、王宮のバルコニーで眼前にも眼下にも大勢の人がいた。
「「あ……」」
ばっちり先代の王や騎士団や魔術師団などに見られていた。
国民にも見られて、指笛を吹かれるやら、冷やかされるやら。
私たちはまたしても顔を真っ赤に染めた。
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