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01 転生してからのこと

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 唐突だけど、私はSRPGのキャラクターに転生している。

 その事実に気がついたのは六歳のときだった。
 メイドさん達に着替えを手伝って貰っている際に「一人でできるわ」と呟いたのがきっかけだった筈だ。

 毎日、これでもかと縦ロールにされる長い髪を振り乱して鏡の前に立つと、前世の自分とは比べものにならないほどに深い紺碧の瞳と派手な金髪を持つ少女がそこにいた。どう見ても日本人ではない。
 自分の持つ日本人に対するイメージが次々に湧き上がる。私はこれまでの六年間では絶対に知り得ない情報と共に前世の記憶を思い出した。
 私は平成生まれのどこにでもいる女子大生だった。
 そうだ、夏休みに海水浴に行って溺れちゃったんだ。
 二十年間の記憶が一気に蘇り、脳が情報を処理できなかったのか、ツーっと鼻血が流れる。
 手の甲で鼻血を拭い、鏡に映る自分に手を伸ばす。

 今の私はウルティア・ナーヴウォール。
 貴族の一人娘で両親とは結構、いや、かなり仲良しだ。メイドさん達も良くしてくれる。
 しかし、それ以上の情報がない。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と言うし、まずは情報収集することにしよう。

 いかにもお嬢様な部屋に中世ヨーロッパ風の服装。電化製品はなく部屋の至る所にキャンドルスタンドが立っている。
 ここは以前住んでいた地球ではなく、異世界だと勝手に結論づけた私は更なる情報を求めて部屋を飛び出した。

 向かう先は両親のお部屋。両親は金髪を縦ロールにしていないことに驚いていたけど、やがて今の母が髪をとかしながら質問に答えてくれた。

 私はナーヴウォール伯爵領の領主の屋敷に住んでおり、この瞳と髪は母親譲りのようだ。
 とにかく愛情深い両親なのだろう。その証拠の一つとして習い事が多い。
 この年で文字の読み書きができるということがどのように評価されるのか知らないけど、私はメイドさんや家庭教師からよく褒められる。
 読み書きができるのであればこっちのものだ。暇を見つけては屋敷の書庫から本を拝借して読み漁った。
 その結果、勝手に異世界認定したここは私が前世でプレイしたSRPGの世界であると判明した。

 そのゲームの主人公は魔法学園に入学し、勇者候補となってヒロインと出会い、冒険しながら各地のサブヒロインとも仲良くして最終的に魔王を倒す。
 プレイヤーは主人公達のレベルと各ヒロイン達との好感度を上げ、試行錯誤しながらパーティーを組んで敵を倒すのだ。
 まさか自分がドはまりして、やりこんだゲームの世界に転生するなんて。

 そのゲームにおけるウルティア・ナーヴウォールは悪役令嬢に相当する。
 人間でありながら魔王に付き従い、スパイとして魔法学園に潜り込んで主人公とヒロインを監視しつつ、たまにちょっかいを出す役どころだ。
 ストーリーが進むと魔王側の魔女として何度か対戦するのだが、主人公やヒロインは目深に魔女帽子を被っただけの彼女に気付かずに戦闘が繰り広げられる。今思うとご都合主義の塊のようなゲームだ。

 ストーリーを進める中で選択肢が現れ、二周目の選択次第でウルティアは攻略対象の二人目のメインヒロインとなる。
 その場合、専用エンディングが用意されており、十五歳以上対象とは思えないくらいにエロいウェディングドレス姿の一枚絵を見ることができる。
 更に選択次第でウルティアが隠しボスになるルートも存在し、度肝を抜かれるほどに強くなって再登場する。実際に私は完膚なきまでに打ちのめされた。

 このSRPG内には五つの属性魔法があり、それぞれに優劣がある。
 上手く敵の弱点を突けるようにパーティーを構築して攻略するのだが、隠しボスのウルティアはそもそものレベルが桁違いで、なおかつ『氷』という謎の属性魔法を使用する為、弱点が存在しない。
 割としっかりめにストーリーが練られており、隠れ人気キャラであるウルティアのハッピーエンドもバッドエンドもユーザーには受け入れられていたと思う。

 やり込み派の私はクリア後、何周回もしてエンディング、アイテム、キャプチャーの全回収に勤しんだが、一つだけ気に入らない事があった。
 それはウルティアのエンディングに使用された一枚絵だ。なぜそこまでエロを求めてしまったのか、と制作会社に問いただしたくなるようなもので本当に十五歳以上対象で良いのか心配になった。

 それはさておき、私が追加ヒロインかつ隠しボスのウルティア・ナーヴウォールに転生していると分かった今、やる事は一つだ。
 それは何が何でもハッピーエンドを回避して、あの一枚絵の再現をさせないことである。
 ついでに不幸になりたくないからバッドエンドも回避しておきたい。
 そうと決まれば善は急げだ。
 私はゲームのストーリー序盤に訪れるであろう悲劇を回避する為に魔法の習得に全力を注ぐことにした。
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