5 / 70
転生勇者の黒歴史(10)
しおりを挟む
10
村からトマスが慌てた様子で駆けてくる。
トマスの後ろには、もう一人、ドタドタと駆けてくる人物がいた。老人である。
「誰だろう?」と、マルコは顔を確認し、「村長だ」と声を上げた。
トマスと村長は、マルコたちの元に辿り着いた。
「どうしたの?」
と、マルコが尋ねる。
村長は、ぜいぜいと荒い息を整えてから、シレンに向き直り、
「マオック村の村長のサンチョです。転生勇者様たちが既に山に入られたと聞き及び、ご挨拶に参りました」
シレンと村長の間に割って入るように、オフィーリアが前に出た。
「ご苦労様です。こちらが、転生勇者のシレン様。わたしは、宮廷で女官長を勤めておりますオフィーリア・スラゼントスと申します」
「おばさん、偉い人だったんだ!」
と、マルコが大声を出す。
「これ!」と、村長がマルコをたしなめた。
村長が握手をしようとオフィーリアに手をさしのべる。
「いえ」
と、オフィーリアは、握手を断った。
「こんなですから」と、両手を顔の前にかざす。
オフィーリアの両手の指先は、土と草の汁で泥だらけになっていた。
ちなみに、シレンも同様だ。
「おまえら、何をやらせとるか!」
と、村長の雷は、マルコの上に落ちた。
「だって、自分でやりたがったんだよ」
村長は聞く耳を持たない。
「さて、マルコ。悪いが残りの収穫は、一人でやってくれ」
村長の言葉で、地面に置いてあるマルコの籠を、トマスが持ち上げた。
やはり、地面に置かれているエリスの籠に、マルコの籠の中身を移し替える。
もちろん、二人の籠には、オフィーリアとシレンが採取した薬草も入っていた。
トマスは、エリスの籠を背負った。四人が採取した薬草が、すべて入っている。
「重いだろうから、こいつは、先に持ち帰っておくからな」
「え? 何? どういうこと?」
マルコは、わけがわからない。
村長がオフィーリアとシレン、次いでエリスに言う。
「皆様も村にお戻り下さい。エリスは、転生勇者様たちのご案内だ。わざわざ迎えに来て下さったのだぞ」
「やっぱり」
と、エリスは、うつむいた。
「明日だって聞いてたのに」
「出発はな。今日は転生勇者様のお忍びの国内視察だ」
その割には、派手な姿だけど。
「エリス、どっか行くの?」
マルコは、うつむいてしまったエリスに問いかけた。
覚悟を決めたようにエリスは顔を上げ、マルコの顔を正面から見返す。
「クスリナ王立薬草学院の特待生に選ばれたの。明日から三年間、王都に行ってくる」
「やだ」
マルコの返答は間髪がなかった。
「三年よ、たった三年。卒業したら、村へ戻ってきて、薬師をやるわ」
エリスは、慌てて、取り繕った。
「僕も行く」
エリスの瞳には、必死の形相のマルコが映っている。
「『僕も』と言っても、エリスは特待生に選ばれたんだから」と村長。
「エリス、マルコに伝えていなかったのか?」
エリスは、嫌々をするように首を振った。
マルコを除く誰もが、『きっと言いだせなかったのだろう』と、エリスの心情を察した。
マルコには、そのような余裕はない。
「じゃ、僕も特待生になる。オフィーリアさん、どうやったらなれる?」
オフィーリアは、返答に窮した。
「各地の町村長から推薦状をもらった者に対して、王都で厳正な審査を行って」などと、無味乾燥な説明文的な言葉を、口にする。
終いまで聞かず、マルコは、村長に詰め寄った。
「村長、推薦状書いて!」
「書けるかっ! 村始まって以来の才女であるエリスと、典型的な村人Aのおまえでは大違いじゃ!」
「村長っ!」
エリスが、キッと村長を睨みつけた。
村長は、ハッとする。
「あ、いや、別に村人Aを馬鹿にして言っているわけじゃないぞ。ただ、まあ今回は、間に合わない話であるし、エリスには準備もあるから、皆様方にはひとまず村に戻っていただいて。マルコ、後は頼んだぞ」
村長は、マルコ以外の面々を追い立てるようにして、そそくさと、その場を後にした。
マルコは、空になった状態で置かれている自分の籠の脇に、沈むように座り込む。
先刻、何か面白くなりそうな気がして高鳴っていたマルコの胸が、今はつぶれそうだ。
面白さは、あっという間に、どこかに消え去っていた。
村からトマスが慌てた様子で駆けてくる。
トマスの後ろには、もう一人、ドタドタと駆けてくる人物がいた。老人である。
「誰だろう?」と、マルコは顔を確認し、「村長だ」と声を上げた。
トマスと村長は、マルコたちの元に辿り着いた。
「どうしたの?」
と、マルコが尋ねる。
村長は、ぜいぜいと荒い息を整えてから、シレンに向き直り、
「マオック村の村長のサンチョです。転生勇者様たちが既に山に入られたと聞き及び、ご挨拶に参りました」
シレンと村長の間に割って入るように、オフィーリアが前に出た。
「ご苦労様です。こちらが、転生勇者のシレン様。わたしは、宮廷で女官長を勤めておりますオフィーリア・スラゼントスと申します」
「おばさん、偉い人だったんだ!」
と、マルコが大声を出す。
「これ!」と、村長がマルコをたしなめた。
村長が握手をしようとオフィーリアに手をさしのべる。
「いえ」
と、オフィーリアは、握手を断った。
「こんなですから」と、両手を顔の前にかざす。
オフィーリアの両手の指先は、土と草の汁で泥だらけになっていた。
ちなみに、シレンも同様だ。
「おまえら、何をやらせとるか!」
と、村長の雷は、マルコの上に落ちた。
「だって、自分でやりたがったんだよ」
村長は聞く耳を持たない。
「さて、マルコ。悪いが残りの収穫は、一人でやってくれ」
村長の言葉で、地面に置いてあるマルコの籠を、トマスが持ち上げた。
やはり、地面に置かれているエリスの籠に、マルコの籠の中身を移し替える。
もちろん、二人の籠には、オフィーリアとシレンが採取した薬草も入っていた。
トマスは、エリスの籠を背負った。四人が採取した薬草が、すべて入っている。
「重いだろうから、こいつは、先に持ち帰っておくからな」
「え? 何? どういうこと?」
マルコは、わけがわからない。
村長がオフィーリアとシレン、次いでエリスに言う。
「皆様も村にお戻り下さい。エリスは、転生勇者様たちのご案内だ。わざわざ迎えに来て下さったのだぞ」
「やっぱり」
と、エリスは、うつむいた。
「明日だって聞いてたのに」
「出発はな。今日は転生勇者様のお忍びの国内視察だ」
その割には、派手な姿だけど。
「エリス、どっか行くの?」
マルコは、うつむいてしまったエリスに問いかけた。
覚悟を決めたようにエリスは顔を上げ、マルコの顔を正面から見返す。
「クスリナ王立薬草学院の特待生に選ばれたの。明日から三年間、王都に行ってくる」
「やだ」
マルコの返答は間髪がなかった。
「三年よ、たった三年。卒業したら、村へ戻ってきて、薬師をやるわ」
エリスは、慌てて、取り繕った。
「僕も行く」
エリスの瞳には、必死の形相のマルコが映っている。
「『僕も』と言っても、エリスは特待生に選ばれたんだから」と村長。
「エリス、マルコに伝えていなかったのか?」
エリスは、嫌々をするように首を振った。
マルコを除く誰もが、『きっと言いだせなかったのだろう』と、エリスの心情を察した。
マルコには、そのような余裕はない。
「じゃ、僕も特待生になる。オフィーリアさん、どうやったらなれる?」
オフィーリアは、返答に窮した。
「各地の町村長から推薦状をもらった者に対して、王都で厳正な審査を行って」などと、無味乾燥な説明文的な言葉を、口にする。
終いまで聞かず、マルコは、村長に詰め寄った。
「村長、推薦状書いて!」
「書けるかっ! 村始まって以来の才女であるエリスと、典型的な村人Aのおまえでは大違いじゃ!」
「村長っ!」
エリスが、キッと村長を睨みつけた。
村長は、ハッとする。
「あ、いや、別に村人Aを馬鹿にして言っているわけじゃないぞ。ただ、まあ今回は、間に合わない話であるし、エリスには準備もあるから、皆様方にはひとまず村に戻っていただいて。マルコ、後は頼んだぞ」
村長は、マルコ以外の面々を追い立てるようにして、そそくさと、その場を後にした。
マルコは、空になった状態で置かれている自分の籠の脇に、沈むように座り込む。
先刻、何か面白くなりそうな気がして高鳴っていたマルコの胸が、今はつぶれそうだ。
面白さは、あっという間に、どこかに消え去っていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生者のTSスローライフ
未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。
転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。
強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。
ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。
改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。
しかも、性別までも変わってしまっていた。
かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。
追放先はなんと、魔王が治めていた土地。
どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる