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転生勇者の黒歴史(12~13)
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12
村長が強制的にエリスたちを連れて帰った後、マルコは一人で規定量の残りの薬草を採取し、村の集荷施設へ運び込んだ。
とぼとぼと家に帰り、部屋に引きこもると、布団に潜り込む。
心配したマリーベルが、様子を見に来た。
「エリスが、王都に行っちゃうって。転生勇者様が迎えに来た」
「お迎えが!」
と、マリーベルは、一瞬驚いたが、すぐに平静さを取り戻した。
「エリスちゃん、とうとう自分からは言えなかったんだね。だから、言っただろ。あの娘は、この村にとどまるような娘じゃないって」
マリーベルは、以前からエリスが、特待生として、いつか村を出る日が来ることを知っていたようだ。「マルコには自分で言うから」と、エリスから、固く口止めをされていたらしい。
「うん」と、マルコ。
続く言葉は、思ったけれども、さすがに口には出さなかった。
『わかってるよ。補正は、村を出たら解けちゃうって。幼なじみ補正がかかっているから、エリスは僕の相手をしてくれてたんだ』
口には出さなかったけれども、何度も頭の中で、繰り返し考えてしまう。
マルコは、いつの間にか、眠りに落ちていた。
13
マルコは、夢を見た。
転生勇者が、この世界に転生してきた後の夢だ。
今朝、馬車から降りてきた際のシレンの夢である。
マルコの特殊能力による夢ではない。
その日にあった出来事を、頭の中で自動的に反芻整理する普通の夢だ。
マルコは、シレンに『ポエマー』と呼びかけかけた。
ラジオネーム、『恋に恋するポエマー』を略して『ポエマー』だ。
寸前で口をつぐんだけれども、『ポエ』くらいまで呼びかけていた。
シレンは、ぎょっとした。
確かに、一瞬、マルコを睨んだ。
その後は、何事もなかったかのような無表情になったけれど、何だったのか?
もし、突然、声をかけられて驚いただけという理由でなければ、他に何がある?
多分、シレンには、『ポエ』が聞きとれたのだ。
『ポエ』と来れば、『ポエマー』だろう。
普通の人は使わない言葉だが、転生前の笠置詩恋にとっては、日常用語だ。『ポエマー』イコール『恋に恋するポエマー』である。
自分のラジオネームを知る人間の存在に驚いたのだ。
しかも、異世界で。
だから、睨んだ。
シレンは山でもマルコを睨んでいたと、エリスが言っていた。
嫌われる覚えなどないんだけれどなぁ。
何が、そんなにシレンのお気に召さないのか?
もちろん、マルコが、シレンのラジオネームを知っていることだろう。
シレンにとって、ラジオネームは他人には知られたくない、ばらされたくない秘密なのだ。
もちろん、自分の世界にいた頃にも、自分が『恋に恋するポエマー』である事実は秘密にしていたのだろう。
なぜならば、多分、単純に恥ずかしいから。
ラジオネームを知られているということは、『恋に恋するポエマー』としての、シレンの投稿内容も、マルコは知っているはずだと思われているのに違いない。
仮に、投稿内容までは知らなかったとしても、『恋に恋するポエマー』というネーミングから色々と想像されてしまう時点で、十分に恥ずかしい。
まず、『恋』が、もう恥ずかしい。
『恋に恋する』となると、相当恥ずかしい。なにしろ、恋に恋してしまっているのだ。現在進行形で、恋には縁がないのに決まっていた。
そのうえ、『ポエマー』だ。
自分の恋であったり、恋以前であったり、そのようなものを、詩にしてしまうのだとしたら、やっぱり恥ずかしい。
恋でなくとも、自分が書いた詩を人に知られるのは、恥ずかしい話だ。
書いた詩以前に、詩を書いていると知られることすら、普通は恥ずかしい。
『恋に恋するポエマー』まで重なれば、恥ずかしさ極まれり、である。
もちろん、マルコは、シレンが知られていると思っている、『恋に恋するポエマー』としての、シレンの投稿内容(大半が自虐的だ)の多くを承知している。
スダマサピくん関連の恥ずかしい投稿のあれやこれやを色々、通称、黒歴史書に書き留めていた。
今思えば、なぜ自分は、そのような夢の内容を書き留めようと思ったのかを、マルコは思い出せない。
書き留めるところまでを含めてが、マルコの特殊能力であるのだとしか言い様がなかった。
山で、エリスにシレンから睨まれているという指摘を受けた際、『秘密を知られたからには生かしてはおけない』という恐ろしい想像をして、マルコとエリスは震え上がった。
だが、逆に、『おまえの恥ずかしい秘密をばらされたくなかったら、言うことを聞け』という方向性もある。
そう考えると、シレンからすれば、自分が脅されるネタを、マルコに握られていることになる。そりゃあ、睨みたくもなるだろう。
マルコは、ハッと目を覚ました。
突然、マルコは、自分の特殊能力の使い方に思い至った。
誰に対しても、使える能力というわけではない。
効果を発現する相手が極めて限定的なのだ。
シレンの黒歴史を行使するにあたって、一番効果的な相手がいるとすれば、その人物は、もちろんシレンである。
使い道は、もちろん脅迫だ。
『転生勇者の黒歴史』をばらさない代わりに、僕の言うことを聞け、の一点張りだった。
問題は、いつ使うのか?
もちろん、今に決まっていた。
マルコは、エリスの王都行きを阻止したい。
でも、薬草の知識を得たいというのは、エリスの夢だ。
エリスの夢を、阻止はできない。
であるならば、自分も一緒について行く。
当のエリスを迎えにくるという役割を持って、マルコの前に転生勇者本人が現れたのだ。
どう考えても、マルコに、特殊能力を使えというフラグが立ちまくっている。
マルコは、立ち上がった。
今すぐ、シレンに会いに行かなければならなかった。
村長が強制的にエリスたちを連れて帰った後、マルコは一人で規定量の残りの薬草を採取し、村の集荷施設へ運び込んだ。
とぼとぼと家に帰り、部屋に引きこもると、布団に潜り込む。
心配したマリーベルが、様子を見に来た。
「エリスが、王都に行っちゃうって。転生勇者様が迎えに来た」
「お迎えが!」
と、マリーベルは、一瞬驚いたが、すぐに平静さを取り戻した。
「エリスちゃん、とうとう自分からは言えなかったんだね。だから、言っただろ。あの娘は、この村にとどまるような娘じゃないって」
マリーベルは、以前からエリスが、特待生として、いつか村を出る日が来ることを知っていたようだ。「マルコには自分で言うから」と、エリスから、固く口止めをされていたらしい。
「うん」と、マルコ。
続く言葉は、思ったけれども、さすがに口には出さなかった。
『わかってるよ。補正は、村を出たら解けちゃうって。幼なじみ補正がかかっているから、エリスは僕の相手をしてくれてたんだ』
口には出さなかったけれども、何度も頭の中で、繰り返し考えてしまう。
マルコは、いつの間にか、眠りに落ちていた。
13
マルコは、夢を見た。
転生勇者が、この世界に転生してきた後の夢だ。
今朝、馬車から降りてきた際のシレンの夢である。
マルコの特殊能力による夢ではない。
その日にあった出来事を、頭の中で自動的に反芻整理する普通の夢だ。
マルコは、シレンに『ポエマー』と呼びかけかけた。
ラジオネーム、『恋に恋するポエマー』を略して『ポエマー』だ。
寸前で口をつぐんだけれども、『ポエ』くらいまで呼びかけていた。
シレンは、ぎょっとした。
確かに、一瞬、マルコを睨んだ。
その後は、何事もなかったかのような無表情になったけれど、何だったのか?
もし、突然、声をかけられて驚いただけという理由でなければ、他に何がある?
多分、シレンには、『ポエ』が聞きとれたのだ。
『ポエ』と来れば、『ポエマー』だろう。
普通の人は使わない言葉だが、転生前の笠置詩恋にとっては、日常用語だ。『ポエマー』イコール『恋に恋するポエマー』である。
自分のラジオネームを知る人間の存在に驚いたのだ。
しかも、異世界で。
だから、睨んだ。
シレンは山でもマルコを睨んでいたと、エリスが言っていた。
嫌われる覚えなどないんだけれどなぁ。
何が、そんなにシレンのお気に召さないのか?
もちろん、マルコが、シレンのラジオネームを知っていることだろう。
シレンにとって、ラジオネームは他人には知られたくない、ばらされたくない秘密なのだ。
もちろん、自分の世界にいた頃にも、自分が『恋に恋するポエマー』である事実は秘密にしていたのだろう。
なぜならば、多分、単純に恥ずかしいから。
ラジオネームを知られているということは、『恋に恋するポエマー』としての、シレンの投稿内容も、マルコは知っているはずだと思われているのに違いない。
仮に、投稿内容までは知らなかったとしても、『恋に恋するポエマー』というネーミングから色々と想像されてしまう時点で、十分に恥ずかしい。
まず、『恋』が、もう恥ずかしい。
『恋に恋する』となると、相当恥ずかしい。なにしろ、恋に恋してしまっているのだ。現在進行形で、恋には縁がないのに決まっていた。
そのうえ、『ポエマー』だ。
自分の恋であったり、恋以前であったり、そのようなものを、詩にしてしまうのだとしたら、やっぱり恥ずかしい。
恋でなくとも、自分が書いた詩を人に知られるのは、恥ずかしい話だ。
書いた詩以前に、詩を書いていると知られることすら、普通は恥ずかしい。
『恋に恋するポエマー』まで重なれば、恥ずかしさ極まれり、である。
もちろん、マルコは、シレンが知られていると思っている、『恋に恋するポエマー』としての、シレンの投稿内容(大半が自虐的だ)の多くを承知している。
スダマサピくん関連の恥ずかしい投稿のあれやこれやを色々、通称、黒歴史書に書き留めていた。
今思えば、なぜ自分は、そのような夢の内容を書き留めようと思ったのかを、マルコは思い出せない。
書き留めるところまでを含めてが、マルコの特殊能力であるのだとしか言い様がなかった。
山で、エリスにシレンから睨まれているという指摘を受けた際、『秘密を知られたからには生かしてはおけない』という恐ろしい想像をして、マルコとエリスは震え上がった。
だが、逆に、『おまえの恥ずかしい秘密をばらされたくなかったら、言うことを聞け』という方向性もある。
そう考えると、シレンからすれば、自分が脅されるネタを、マルコに握られていることになる。そりゃあ、睨みたくもなるだろう。
マルコは、ハッと目を覚ました。
突然、マルコは、自分の特殊能力の使い方に思い至った。
誰に対しても、使える能力というわけではない。
効果を発現する相手が極めて限定的なのだ。
シレンの黒歴史を行使するにあたって、一番効果的な相手がいるとすれば、その人物は、もちろんシレンである。
使い道は、もちろん脅迫だ。
『転生勇者の黒歴史』をばらさない代わりに、僕の言うことを聞け、の一点張りだった。
問題は、いつ使うのか?
もちろん、今に決まっていた。
マルコは、エリスの王都行きを阻止したい。
でも、薬草の知識を得たいというのは、エリスの夢だ。
エリスの夢を、阻止はできない。
であるならば、自分も一緒について行く。
当のエリスを迎えにくるという役割を持って、マルコの前に転生勇者本人が現れたのだ。
どう考えても、マルコに、特殊能力を使えというフラグが立ちまくっている。
マルコは、立ち上がった。
今すぐ、シレンに会いに行かなければならなかった。
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