てんくろ。ー転生勇者の黒歴史ー

仁渓

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王国戦士団長付従者マルコ(33)

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               33
 マルコは、ダンに伴われて、戦士団庁舎へ足を踏み入れた。
 本来、戦士団庁舎は、部外者立ち入り禁止である。
 打ち合わせなどで訪れた者は、入口にある受付で身分と来訪目的、打ち合わせの相手先を確認された上、中から打ち合わせ相手が迎えに出て来て、始めて立ち入りが許される仕組みとなっていた。
 もちろん、外から戦士団員と一緒に訪れた場合には、迎えがなくても中に入れるが、その場合でも、誰が来訪したかの記録を残すため、受付に身分を明かす必要がある。
 今回は、ダンが同行しているため、後者だった。
 国賓や王国の重臣のような、誰もが知る相手を伴っている場合は、受付担当者も、さすがに身分を確認するわけにはいかないので、『誰ほか何名、いついつ入庁』といった具合に、代わりに記録する。
 退庁時も同様だ。
 一方、出退勤する戦士団員は、一言、受付に声をかけてから、庁舎内に入るというのが、決まりであった。
 戦士団長のダンであっても、決まりは厳守だ。
 戦士団庁舎玄関前の階段を昇り、玄関の左右に立つ、二人の警備役の戦士団員に、「おはよう」と、ダンは挨拶をした。
 敬礼とともに、「おはようございます」と快活な挨拶が返ってくる。
 警備兵は、二人とも自分の身長の五割増し程の長さの刺股を持っている。
 直径五センチメートル程の太さの堅い木でできた柄に、金属製の丸みを帯びたY字形の部品が接続されている。Y字の開き幅は、五十センチぐらいだ。
 警備兵たちは、もちろん腰には剣を帯びていたが、いきなり剣を抜くことはせず、基本的な捕り物には、刺股を利用する。
 刃物ではないからといって、決して侮ってはいけない武器である。長さを利用した突きや叩きの他、刺股部分に挟み込んでの捕獲と、汎用性の高い武器だ。
 マルコも、二人の警備兵に挨拶をした。
「ペペロは、来ているか?」
 と、ダンは、警備兵たちに尋ねる。
「は、先程、来庁いたしました」
 ダンは、頷き、
「ペペロの弟のマルコだ。儂の住み込み従者となった。儂よりも、オフィーリアの用事で、各庁舎に出入りするので、顔を覚えて、配慮してやってくれ」
 ダンの言葉に二人の警備兵は、一瞬、驚いたような顔をした。
 が、すぐ、表情を消し、「承知しました」と返答をする。
「ぺぺロ共々、よろしくお願いします」
 マルコは、頭を下げた。
「おう、よろしくな」と、警備兵。
 受付担当者の詰め所は、庁舎入口の脇にあった。
 戦士団庁舎の受付だけを専門にする部署ではなくて、国政関連の様々な庁舎全体の警備を担当している。
 戦士団庁舎は、王宮を守るため、王宮に隣接している。
 その他の政府関連庁舎も、利便性のため、やはり、王宮に隣接していた。
 各庁舎の警備も、戦士団は職務としているのだ。
 出入口に警備兵を配置するだけでなく、巡回警備も行っている。
 一連の施設の警備担当者の詰め所が、戦士団庁舎の受付も兼ねている、という仕組みである。
 立場上、ダンは、どの庁舎に誰が出入りをしているか、その気になれば、常に把握できるわけだ。不穏な動きは、事前に設置できる。
 今後、頻繁に色々な庁舎へ出入りするだろうからと、ダンは、受付詰め所に立ち寄り、その場にいた戦士団員たちに、マルコを紹介した。
「ぺぺロ共々、よろしくお願いします」
 と、マルコは、先程と同じ挨拶を、皆にした。
「あれっ、団長、従者は持たない主義だったのでは?」
 戦士団員の一人が、声を上げた。
 先程、玄関の警備兵が驚いた顔をしたのは、同じ感想を持ったためだろう。
 ダンは、自分にできることは、自分でしてしまう主義なのだ。
 だから、マルコは、ダンの初めての従者ということになる。名目だけだけど。
「自分のためにはな。マルコは、儂ではなく、オフィーリアの補佐をしてもらう予定だ」
「さすが愛妻家」
「恐妻家と呼んでくれ」
 ははははは、と、詰め所内に笑いが湧き起こる。
「誰か、ペペロに団長室に来るように伝えてくれないか」
「自分が」
 と、ダンを愛妻家と呼んだ男が、すぐに部屋を出て行く。
 ダンは、マルコを戦士団長室へ連れて行った。
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