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第一回転生勇者シレン杯決勝リーグ参加者決定(72)
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72
「料理を? それとも闘いを?」
マルコが問うた。
「もちろん、お料理ですよ」
『この子は何をわかりきったことを言っているの?』という、冷たい目で、オフィーリアが、マルコを見た。
「そっちが大事なんだ」
マルコは、力なく笑う。
「どうせお遊びイベントだしな。頑張りすぎて、今みたいなのが客席に飛び込んだら大惨事だ。出てやるだけで十分だよ」
カチェリーナは、自分に原因がある事実を、すっかり棚上げだ。
「どうしても勝てないと思ったり、本気にならないと勝てないようなお相手でしたら負けておしまいなさい。自分から線を越えて出て構いません」
「そうは言っても斬り掛かられるとな。咄嗟の対応を、しすぎてしまうかもしれん」
「マルコ、おまえ、斬られてやれ」
カチェリーナが、無茶を言う。
「そうですね。それがいいでしょう」
オフィーリアが追随した。叱られた腹いせだろうか?
「人を殺して度胸をつけろとか、そういう話?」
びくびくと、マルコは聞き返す。
「違いますよ」
オフィーリアは、ころころと笑った。
「シレンさんは、圧倒的に対人戦の経験がありません。マルコさんが木刀で斬り掛かるところを、避けながら、余裕を持って、適度な力で場外に吹き飛ばす練習です。心の余裕は、積み重ねた練習によって生まれます」
「なるほど」とシレン。
「なるほど、じゃないよ。痛いの、ぼくだけじゃない」
「そこはマネージャーですから」
「うわぁ」
マルコは、天を仰いだ。やっぱり、叱られた腹いせだろうか?
「相手が強ければ負けちゃえばいいんだから、練習なんてしなくてもいいんじゃない? それに、そうそう、シレンを追い詰められる相手なんて、いないでしょう?」
「あら、達人は、どこに潜んでいるかわかりませんよ。一般枠から凄い人が勝ち上がってくるかも知れません」
「わたしも出ちゃおっかなぁ。優勝したら、セディークがどんな顔で表彰してくれるか見てみたい」
カチェリーナが調子に乗った。
「やめときなさい。セーブルちゃんに、ボコられるだけですよ」
「チ! あいつがいたか」
「王子って強いの?」
王子に出会った際の印象から、単純に、マルコは信じられない。
確かに、自分からシレンとの決勝戦の相手に志願してはいたけれど。
「優勝候補筆頭」
「嘘! シレンじゃないんだ」
「違うんだなぁ。だが、今回は、はたしてそうなるか」
カチェリーナとオフィーリアは、顔を見合わせて、くつくつと笑った。何か悪巧みをしている者たちの顔である。
「そういったわけですから、シレンさんは、無理せず負けてしまっても良いのですよ。王子が相手ならば王子に華を持たせ、一般の人が相手ならば、その人に華を持たせてあげれば良いのです」
オフィーリアはシレンを安心させた。
「八百長を疑われない程度には立ち合って、お互いが実力者であると示す必要はありますが、その程度のことは簡単にできるでしょう」
「そうか」
シレンは、大分、気が楽になったという顔をしている。
一方、マルコは、もやっとした。
「シレンが王子に負けを認めるのは、何だか悔しいね」
ついさっき、シレンに『優勝するつもりだったの?』と驚いた口と、同じ口から出たとは思えない言葉だ。
順当ならば、決勝戦は、シレン対セーブルが予想されるのだから、シレンが優勝じゃないということは、セーブルに負けるということだ。
「何かいい方法ない?」
「だから、おまえ斬られろ」
カチェリーナが、呆気なく突き放す。
「そうだった」
堂々巡りだ。
けれども、マルコは前向きだ。
「一人じゃしんどいな」と呟いて、思案する。
誰か、一緒にシレンに斬られてくれる仲間が必要だ。
最初に思い付いたのは、ペペロだった。
ペペロであるならば、シレンとお近づきになってもらう意味で一石二鳥なのだけれど、へたれな上に堅物だから、『対戦相手となれ合うのはよくない』とか、『他の戦士団からの参加者に不公平だ』とか、阿呆なことを言いそうだ。
そんなの捨てて、お近づきになった方が絶対いいのに。
だからといって、他の戦士団員に同じ役目をさせて、シレンとお近づきにさせるつもりは絶対にない。
あれ? 王子と同じ考えかな?
無視。
そもそも、知り合いじゃなければ、シレンが人見知りを発揮してしまう。
ダン、オフィーリア、カチェリーナと思い付いたけれども、みんな、本業が忙しいので却下。
スザンヌは? きっと、お腹がつかえるから無理だろう。
エリスとベティは論外。
他に知り合いは、
「オフィーリアさん、バネッサを借りてもいい?」
マルコは、バネッサに羽交い締めにされた事実を思い出した。
宮廷に勤める女官は、皆、それなりに格闘術を身につけている。
時として、身を挺して王族を守らなければならない可能性があるからだ。
少なくとも、マルコよりは、良い身のこなしができるだろう。
それに、バネッサには貸しがある。
オフィーリアは思案した。
「確かに、二人がかりぐらいでなければ、シレンさんの準備運動にもならないでしょうね。なるほど。バネッサさんですか。彼女に抜けられると、色々と切り盛りが大変なのですが、いいでしょう。バネッサさんには、わたしから伝えておきます」
「ありがとう」
そういうことになった。
「シレン、絶対に優勝するよ」
マルコは、シレンに宣言をした。
「料理を? それとも闘いを?」
マルコが問うた。
「もちろん、お料理ですよ」
『この子は何をわかりきったことを言っているの?』という、冷たい目で、オフィーリアが、マルコを見た。
「そっちが大事なんだ」
マルコは、力なく笑う。
「どうせお遊びイベントだしな。頑張りすぎて、今みたいなのが客席に飛び込んだら大惨事だ。出てやるだけで十分だよ」
カチェリーナは、自分に原因がある事実を、すっかり棚上げだ。
「どうしても勝てないと思ったり、本気にならないと勝てないようなお相手でしたら負けておしまいなさい。自分から線を越えて出て構いません」
「そうは言っても斬り掛かられるとな。咄嗟の対応を、しすぎてしまうかもしれん」
「マルコ、おまえ、斬られてやれ」
カチェリーナが、無茶を言う。
「そうですね。それがいいでしょう」
オフィーリアが追随した。叱られた腹いせだろうか?
「人を殺して度胸をつけろとか、そういう話?」
びくびくと、マルコは聞き返す。
「違いますよ」
オフィーリアは、ころころと笑った。
「シレンさんは、圧倒的に対人戦の経験がありません。マルコさんが木刀で斬り掛かるところを、避けながら、余裕を持って、適度な力で場外に吹き飛ばす練習です。心の余裕は、積み重ねた練習によって生まれます」
「なるほど」とシレン。
「なるほど、じゃないよ。痛いの、ぼくだけじゃない」
「そこはマネージャーですから」
「うわぁ」
マルコは、天を仰いだ。やっぱり、叱られた腹いせだろうか?
「相手が強ければ負けちゃえばいいんだから、練習なんてしなくてもいいんじゃない? それに、そうそう、シレンを追い詰められる相手なんて、いないでしょう?」
「あら、達人は、どこに潜んでいるかわかりませんよ。一般枠から凄い人が勝ち上がってくるかも知れません」
「わたしも出ちゃおっかなぁ。優勝したら、セディークがどんな顔で表彰してくれるか見てみたい」
カチェリーナが調子に乗った。
「やめときなさい。セーブルちゃんに、ボコられるだけですよ」
「チ! あいつがいたか」
「王子って強いの?」
王子に出会った際の印象から、単純に、マルコは信じられない。
確かに、自分からシレンとの決勝戦の相手に志願してはいたけれど。
「優勝候補筆頭」
「嘘! シレンじゃないんだ」
「違うんだなぁ。だが、今回は、はたしてそうなるか」
カチェリーナとオフィーリアは、顔を見合わせて、くつくつと笑った。何か悪巧みをしている者たちの顔である。
「そういったわけですから、シレンさんは、無理せず負けてしまっても良いのですよ。王子が相手ならば王子に華を持たせ、一般の人が相手ならば、その人に華を持たせてあげれば良いのです」
オフィーリアはシレンを安心させた。
「八百長を疑われない程度には立ち合って、お互いが実力者であると示す必要はありますが、その程度のことは簡単にできるでしょう」
「そうか」
シレンは、大分、気が楽になったという顔をしている。
一方、マルコは、もやっとした。
「シレンが王子に負けを認めるのは、何だか悔しいね」
ついさっき、シレンに『優勝するつもりだったの?』と驚いた口と、同じ口から出たとは思えない言葉だ。
順当ならば、決勝戦は、シレン対セーブルが予想されるのだから、シレンが優勝じゃないということは、セーブルに負けるということだ。
「何かいい方法ない?」
「だから、おまえ斬られろ」
カチェリーナが、呆気なく突き放す。
「そうだった」
堂々巡りだ。
けれども、マルコは前向きだ。
「一人じゃしんどいな」と呟いて、思案する。
誰か、一緒にシレンに斬られてくれる仲間が必要だ。
最初に思い付いたのは、ペペロだった。
ペペロであるならば、シレンとお近づきになってもらう意味で一石二鳥なのだけれど、へたれな上に堅物だから、『対戦相手となれ合うのはよくない』とか、『他の戦士団からの参加者に不公平だ』とか、阿呆なことを言いそうだ。
そんなの捨てて、お近づきになった方が絶対いいのに。
だからといって、他の戦士団員に同じ役目をさせて、シレンとお近づきにさせるつもりは絶対にない。
あれ? 王子と同じ考えかな?
無視。
そもそも、知り合いじゃなければ、シレンが人見知りを発揮してしまう。
ダン、オフィーリア、カチェリーナと思い付いたけれども、みんな、本業が忙しいので却下。
スザンヌは? きっと、お腹がつかえるから無理だろう。
エリスとベティは論外。
他に知り合いは、
「オフィーリアさん、バネッサを借りてもいい?」
マルコは、バネッサに羽交い締めにされた事実を思い出した。
宮廷に勤める女官は、皆、それなりに格闘術を身につけている。
時として、身を挺して王族を守らなければならない可能性があるからだ。
少なくとも、マルコよりは、良い身のこなしができるだろう。
それに、バネッサには貸しがある。
オフィーリアは思案した。
「確かに、二人がかりぐらいでなければ、シレンさんの準備運動にもならないでしょうね。なるほど。バネッサさんですか。彼女に抜けられると、色々と切り盛りが大変なのですが、いいでしょう。バネッサさんには、わたしから伝えておきます」
「ありがとう」
そういうことになった。
「シレン、絶対に優勝するよ」
マルコは、シレンに宣言をした。
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