てんくろ。ー転生勇者の黒歴史ー

仁渓

文字の大きさ
66 / 70

優勝の行方(93~94)

しおりを挟む
               93
 担架に乗せられて、闘技場から運ばれてきたセーブルが、医療用テントの中に運び込まれた。
「マルコ、俺はおまえに謝らなければいけないことができた」
 突然、神妙な口調で、ペペロはマルコに話しかけた。
「なに、急に?」
「うむ。よくぞ、俺に勝ってくれた。ひどいなんて言って、すまなかった」
 ペペロは、心底、良かったという表情だ。
「あんな化け物たちと闘わさせられたら、俺は死んでいた」
 あんな、とは、勝ち残ったナックルスことパンチナだけではなく、倒されたセーブルもだ。どちらも、達人級の化け物たちだ。
 戦士団員であるペペロには、棄権という選択肢は、用意されていない。
 マルコは、相手がセーブルから、パンチナに変わったところで、『村人Aなので、お姫様とは闘えません』と言って、棄権してしまうだけである。気楽なものだ。
「シレンは、ナックルスをどう思う?」
「迎えに来てくれるのを待ち続ける女の子の気持ちは、わかる気がするな」
 待て、シレン。スダマサピくんは、おまえを迎えに来るなんて約束はしてないぞ。
「じゃなくって、勝てそう?」
 戦士Bこと、ビリーの存在は忘れられている。昼食後に、シレンと準決勝なのに。
「どうだろう? マルコやバネッサのスピードとは全然違うから、正直、難しいかも」
「気を付けた方がいいよ。シレンのせいで婚期が遅れたと思ってるから、恨まれてるよ」
「とんだいいがかりだ。婚期なら、わたしだって遅れそうだ」
「にいちゃん、チャンスあるよ」
「俺は一回戦で負けちゃったからなぁ」
 このへたれめ。
 パンチナとダンが、待機場所に戻ってくる。
 ダンは、花道の手前で待つ、マルコやシレンのほうに歩いてきた。
 パンチナは、セーブルが運び込まれたテントに、まっすぐ向かう。
 けれども、テントに入る手前で、何かを思い出したらしく、こちらへ駆けてきた。
「ダン!」と叫ぶ。
 もともと、カチェリーナやオフィーリアと年の離れた友人関係にあるパンチナは、ダンとも面識がある。
「なんですかな?」
「あたい、次の試合は棄権するわ。この大会に出た目的は、もう果たしたし」
 自由な姫だ。
 この瞬間、マルコの決勝戦進出が決定した。

               94
 準決勝第一試合。
 シレン対ビリーの開始時刻が迫っていた。
 ビリーは、重装備だ。
 作戦としては、シレンの一回戦の相手であるアンディーと同様だった。
 装備を重くして、シレンに吹き飛ばされないような対策をとる。
 ビリーは、アンディーよりも巨体だったから、もともと重たい。
 上下に金属製の鎧を着ているだけでなく、籠手や脛あても金属製で、隙間なく部位を覆うタイプだ。
 前面に外を見るための十字の隙間がある、バケツを逆さにした形の兜をかぶっていた。
 木刀ではなく、丸太のような巨大棍棒を持っている。
 武器でも重量を稼ごうという作戦だ。
 シレン、当たったら、死んじゃうよ。
 花道の手前に、シレンとビリーが並び立った。
 華やかなシレンに対して、力押しでシレンを潰そうという、ビリーの見た目は完全に悪役だ。王国を守る、正義の戦士団員とはとても思えない。
 ダンに連れられ、シレンとビリーが花道を歩いていく。
 シレンが歩いた場所に足跡は残らなかったが、ビリーが歩いた場所には、ぬかるみでもないのに深さ五センチ近い足跡が、くっきりと残っていた。
 ビリーの全身は、それほどの重量だ。
 着て歩けるというだけでも、大したものである。
 マルコには、とてもできない。
 二本の開始線を挟んで、シレンとビリーが対峙した。
 ビリーは、開始線の直近。
 シレンは、例によって最後方だ。
 両者とも構える。
 はたして、シレンは、吹き飛ばせるか?
 切断してしまっては、もちろん、駄目である。
「はじめぃっ!」
 ダンの合図だ。
 シレンは、木刀を居合抜いた。
 衝撃波!
 ビリーは、綺麗な弧を描いて、後方に吹き飛んだ。
 きっちり、必要な距離を飛んで、背中から場外に落下する。
 ビリーの体の後ろ側半分が、地面にめり込んだ。
「勝者、シレン!」
 結局、瞬殺だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...