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優勝の行方(93~94)
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93
担架に乗せられて、闘技場から運ばれてきたセーブルが、医療用テントの中に運び込まれた。
「マルコ、俺はおまえに謝らなければいけないことができた」
突然、神妙な口調で、ペペロはマルコに話しかけた。
「なに、急に?」
「うむ。よくぞ、俺に勝ってくれた。ひどいなんて言って、すまなかった」
ペペロは、心底、良かったという表情だ。
「あんな化け物たちと闘わさせられたら、俺は死んでいた」
あんな、とは、勝ち残ったナックルスことパンチナだけではなく、倒されたセーブルもだ。どちらも、達人級の化け物たちだ。
戦士団員であるペペロには、棄権という選択肢は、用意されていない。
マルコは、相手がセーブルから、パンチナに変わったところで、『村人Aなので、お姫様とは闘えません』と言って、棄権してしまうだけである。気楽なものだ。
「シレンは、ナックルスをどう思う?」
「迎えに来てくれるのを待ち続ける女の子の気持ちは、わかる気がするな」
待て、シレン。スダマサピくんは、おまえを迎えに来るなんて約束はしてないぞ。
「じゃなくって、勝てそう?」
戦士Bこと、ビリーの存在は忘れられている。昼食後に、シレンと準決勝なのに。
「どうだろう? マルコやバネッサのスピードとは全然違うから、正直、難しいかも」
「気を付けた方がいいよ。シレンのせいで婚期が遅れたと思ってるから、恨まれてるよ」
「とんだいいがかりだ。婚期なら、わたしだって遅れそうだ」
「にいちゃん、チャンスあるよ」
「俺は一回戦で負けちゃったからなぁ」
このへたれめ。
パンチナとダンが、待機場所に戻ってくる。
ダンは、花道の手前で待つ、マルコやシレンのほうに歩いてきた。
パンチナは、セーブルが運び込まれたテントに、まっすぐ向かう。
けれども、テントに入る手前で、何かを思い出したらしく、こちらへ駆けてきた。
「ダン!」と叫ぶ。
もともと、カチェリーナやオフィーリアと年の離れた友人関係にあるパンチナは、ダンとも面識がある。
「なんですかな?」
「あたい、次の試合は棄権するわ。この大会に出た目的は、もう果たしたし」
自由な姫だ。
この瞬間、マルコの決勝戦進出が決定した。
94
準決勝第一試合。
シレン対ビリーの開始時刻が迫っていた。
ビリーは、重装備だ。
作戦としては、シレンの一回戦の相手であるアンディーと同様だった。
装備を重くして、シレンに吹き飛ばされないような対策をとる。
ビリーは、アンディーよりも巨体だったから、もともと重たい。
上下に金属製の鎧を着ているだけでなく、籠手や脛あても金属製で、隙間なく部位を覆うタイプだ。
前面に外を見るための十字の隙間がある、バケツを逆さにした形の兜をかぶっていた。
木刀ではなく、丸太のような巨大棍棒を持っている。
武器でも重量を稼ごうという作戦だ。
シレン、当たったら、死んじゃうよ。
花道の手前に、シレンとビリーが並び立った。
華やかなシレンに対して、力押しでシレンを潰そうという、ビリーの見た目は完全に悪役だ。王国を守る、正義の戦士団員とはとても思えない。
ダンに連れられ、シレンとビリーが花道を歩いていく。
シレンが歩いた場所に足跡は残らなかったが、ビリーが歩いた場所には、ぬかるみでもないのに深さ五センチ近い足跡が、くっきりと残っていた。
ビリーの全身は、それほどの重量だ。
着て歩けるというだけでも、大したものである。
マルコには、とてもできない。
二本の開始線を挟んで、シレンとビリーが対峙した。
ビリーは、開始線の直近。
シレンは、例によって最後方だ。
両者とも構える。
はたして、シレンは、吹き飛ばせるか?
切断してしまっては、もちろん、駄目である。
「はじめぃっ!」
ダンの合図だ。
シレンは、木刀を居合抜いた。
衝撃波!
ビリーは、綺麗な弧を描いて、後方に吹き飛んだ。
きっちり、必要な距離を飛んで、背中から場外に落下する。
ビリーの体の後ろ側半分が、地面にめり込んだ。
「勝者、シレン!」
結局、瞬殺だった。
担架に乗せられて、闘技場から運ばれてきたセーブルが、医療用テントの中に運び込まれた。
「マルコ、俺はおまえに謝らなければいけないことができた」
突然、神妙な口調で、ペペロはマルコに話しかけた。
「なに、急に?」
「うむ。よくぞ、俺に勝ってくれた。ひどいなんて言って、すまなかった」
ペペロは、心底、良かったという表情だ。
「あんな化け物たちと闘わさせられたら、俺は死んでいた」
あんな、とは、勝ち残ったナックルスことパンチナだけではなく、倒されたセーブルもだ。どちらも、達人級の化け物たちだ。
戦士団員であるペペロには、棄権という選択肢は、用意されていない。
マルコは、相手がセーブルから、パンチナに変わったところで、『村人Aなので、お姫様とは闘えません』と言って、棄権してしまうだけである。気楽なものだ。
「シレンは、ナックルスをどう思う?」
「迎えに来てくれるのを待ち続ける女の子の気持ちは、わかる気がするな」
待て、シレン。スダマサピくんは、おまえを迎えに来るなんて約束はしてないぞ。
「じゃなくって、勝てそう?」
戦士Bこと、ビリーの存在は忘れられている。昼食後に、シレンと準決勝なのに。
「どうだろう? マルコやバネッサのスピードとは全然違うから、正直、難しいかも」
「気を付けた方がいいよ。シレンのせいで婚期が遅れたと思ってるから、恨まれてるよ」
「とんだいいがかりだ。婚期なら、わたしだって遅れそうだ」
「にいちゃん、チャンスあるよ」
「俺は一回戦で負けちゃったからなぁ」
このへたれめ。
パンチナとダンが、待機場所に戻ってくる。
ダンは、花道の手前で待つ、マルコやシレンのほうに歩いてきた。
パンチナは、セーブルが運び込まれたテントに、まっすぐ向かう。
けれども、テントに入る手前で、何かを思い出したらしく、こちらへ駆けてきた。
「ダン!」と叫ぶ。
もともと、カチェリーナやオフィーリアと年の離れた友人関係にあるパンチナは、ダンとも面識がある。
「なんですかな?」
「あたい、次の試合は棄権するわ。この大会に出た目的は、もう果たしたし」
自由な姫だ。
この瞬間、マルコの決勝戦進出が決定した。
94
準決勝第一試合。
シレン対ビリーの開始時刻が迫っていた。
ビリーは、重装備だ。
作戦としては、シレンの一回戦の相手であるアンディーと同様だった。
装備を重くして、シレンに吹き飛ばされないような対策をとる。
ビリーは、アンディーよりも巨体だったから、もともと重たい。
上下に金属製の鎧を着ているだけでなく、籠手や脛あても金属製で、隙間なく部位を覆うタイプだ。
前面に外を見るための十字の隙間がある、バケツを逆さにした形の兜をかぶっていた。
木刀ではなく、丸太のような巨大棍棒を持っている。
武器でも重量を稼ごうという作戦だ。
シレン、当たったら、死んじゃうよ。
花道の手前に、シレンとビリーが並び立った。
華やかなシレンに対して、力押しでシレンを潰そうという、ビリーの見た目は完全に悪役だ。王国を守る、正義の戦士団員とはとても思えない。
ダンに連れられ、シレンとビリーが花道を歩いていく。
シレンが歩いた場所に足跡は残らなかったが、ビリーが歩いた場所には、ぬかるみでもないのに深さ五センチ近い足跡が、くっきりと残っていた。
ビリーの全身は、それほどの重量だ。
着て歩けるというだけでも、大したものである。
マルコには、とてもできない。
二本の開始線を挟んで、シレンとビリーが対峙した。
ビリーは、開始線の直近。
シレンは、例によって最後方だ。
両者とも構える。
はたして、シレンは、吹き飛ばせるか?
切断してしまっては、もちろん、駄目である。
「はじめぃっ!」
ダンの合図だ。
シレンは、木刀を居合抜いた。
衝撃波!
ビリーは、綺麗な弧を描いて、後方に吹き飛んだ。
きっちり、必要な距離を飛んで、背中から場外に落下する。
ビリーの体の後ろ側半分が、地面にめり込んだ。
「勝者、シレン!」
結局、瞬殺だった。
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