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番外編
5-2
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事の起こりは、偶然からだった。
俺は会いたい気持ちを抑えるために、数々の写真を眺めて気持ちを落ち着けていた。薄いアルバムに入れられた大介の写真。眠っている物や、俺とキスしている写真もあった。
彼が帰郷した時は、あそこへ連れて行ってやりたい、あの場所にも行きたいと想像し、少しだけ満足してアルバムを閉じて部屋を出た。喉が乾いたからジュースでも飲もうと思って。
二階にある自室から、一階まで降りて。そこで妹の瑠璃が好きな俳優のニュースがテレビから流れていたので、一緒になって見ていた。母さんとも少し話した。
冷蔵庫からリンゴジュースを拝借し、軽快に階段を上がった。二階の自室に鼻歌を歌いながら戻った俺は、背中を向けて立っている父さんを見た。
父さんの背中は広い。現役自衛隊員だから、体もムキムキだ。頭髪が薄くなっている以外は若々しい。
「父さん?」
呼び掛けても、父さんは振り返らなかった。何をしているのかと思って部屋に入り、父さんの横から回り込んだ俺は、あ、と思わず声が出た。
父さんの手には、薄いアルバムが握られている。俺と大介がキスしている写真を見て、カチンコチンに固まっていた。
人間って本当に固まるんだ、とどこか遠くで思いながら、そっとアルバムを取り返そうとした。でも、握り締められたアルバムは取れなかった。
「父さん……あんまり見ないで。恥ずかしい」
ポンポンと背中を叩いてみた。ハッとしたように目が瞬いている。
その瞬間、父さんが崩れ落ちた。尻餅をついている。
「父さん? 大丈夫?」
尻を付いた場所には俺の国語辞典が落ちていた。どうやらそれを借りに入って来ていたらしい。俺の交友関係がどんな感じなのかと、気軽にアルバムを開いたのだろう。無造作に置いていたアルバムだ、見られても仕方がない置き方をしていたから。
開いて超ショック。
そんなところか。冷静に分析しながら、尻餅をついて顔を赤らめる父さんの手からアルバムを取り上げた。
「……こ、この……方……とは?」
「俺の恋人。ラブラブだよ」
「…………背の高い……女性……か?」
父さんは現実逃避を図った。ペッタンコの胸、しかも鍛えられた体つきで、腹筋も割れている、どう見ても男をどうにか女にしたいらしい。
しゃがみ込みながらフルフル首を横へ振った。
「残念ながら、俺より背の高い男。喧嘩は負け知らず、今時珍しい、男気溢れる男だよ」
「………………そうか」
短く答えた父さんは、尻餅をついたまま奥歯を噛み締めている。口数が多い方ではない父さんは、俺の手の中にあるアルバムをじっと見つめながら言った。
「……その方と、お会いしたい」
「大介は東京に出稼ぎに出てるから。兄弟が多いいんだ。長男でさ、亡くなった父さんの代わりに一生懸命働いてる。帰って来いとは絶対言えない」
アルバムを背中に庇いながら言えば、父さんは一つ頷いた。
「では、会いに行こう」
「……東京だよ?」
「会わせてくれ」
父さんはハッキリと言った。頭を掻きながら頷いた。
「分かった。でも、出稼ぎ先は住み込み先でもあるから……」
「会いに行くだけだ」
「……オッケー。聞いてみる」
携帯電話を取り出して、大介の住み込み先である大塚家に連絡を入れた。幸い、大塚三男の息子、蓮司が電話を取ってくれたので、話がしやすかった。
大介にはギリギリまで知らせない方向で頼んだ。事情を知れば彼の事だ、向こうからこっちへ来ると言い出すだろう。
それはして欲しくない。俺達が会いに行く方で良い。
明日、仕事が終わる夕方頃に行くことを伝えた。父さんがなるべく早く、と小声で囁いたためだった。大介には明日の昼頃、伝えてもらうことにした。
携帯を切って父さんを見ると、もう立ち上がっている。
「私も明日は、早く仕事を切り上げてくる」
「そうまでしなくても……」
「いいや、行く」
父さんは決めたようだ。決めると引かない人だ。
そんな所は大介と似ているな、と思いながら笑った。
「喧嘩しないでね」
「……会いに行くだけだ」
父さんはそう言うと、部屋を出ていった。借りに来たはずの国語辞典は忘れている。
衝撃はあっただろう。
キスしている写真まで見つかったのだから。
「……大丈夫かな」
国語辞典を戻しながら呟いた。
父さんと大介、どっちが強いだろう。喧嘩であれば、大介が勝つと思う。でも、父さんも自衛隊で鍛えた体がある。
それに。きっと大介は手を出さないだろう。黙って父さんに殴られてしまいそうだ。
そんなことはさせないと、静かに気合いを入れた。
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