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世界は二人のためにある
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しおりを挟む「うん、甘くて美味しいね!」
にこりと笑った彼に、俺は全身の力を抜いてコタツに項垂れた。
「どうしたの?」
「……なんかすっげー悔しいんだけど」
「どうしてかな?」
クスクス笑った修治さん。
分かっているくせに。
ふてくされながらマシュマロをもう一つ開けた。口に放り込んで、甘いコーヒーで流し込む。
眼鏡を掛け直した彼は、俺の頭をくしゃりと撫でた。
「僕のも食べる?」
「……遠慮しとく」
「あら、残念」
肩を竦めた彼をじろりと見上げながら、勢い良く上体を起こした。
「…………やっぱやる!」
「え……?」
袋から出したマシュマロを、驚く修治さんの口に詰め込んだ。コタツに両手を置いた俺は、グッと顔を近づける。
負けっ放しは嫌だ。
俺だって、少しは修治さんをドキドキさせたい。
俺ばっかり、ドキドキしてばかりじゃないか。
気合いを入れてマシュマロに近付いた。
正直、心臓が破裂しそうなほど鳴ってるし、手に変な汗かいてるし、呼吸止めたし。
それでも俺は、マシュマロを目指す。プルプル震える唇を一度噛み締め、一気にマシュマロに噛み付こうとした。
「……つっ!」
修治さんの黒縁眼鏡が俺の鼻に当たった。びっくりして顔を引いたら、修治さんの顔がまともに見えて。
真っ赤だった。
見たことがないほど、赤くて。
俺もますます顔が熱くなる。
顔を引いたまま固まった俺に、彼はゆっくりと眼鏡を外した。頬を火照らせ、マシュマロをくわえたまま、待っている。
もはや俺自身が心臓になってしまったかのような、激しい鼓動を伴いながら、恐る恐るマシュマロに唇を付けた。端っこを噛み、ちょっとだけ噛み切った。
これでは駄目だ。
ギュッと手を握り締めた俺は、思い切って大きくマシュマロに噛み付いた。柔らかな白いマシュマロが噛み切られ、修治さんの唇に少し触れてしまう。
体中が痺れたみたいに動けない。ほんの少し触れた唇が熱くてたまらない。
密かに気合いを入れ、思い切って唇を押し付けた。弾力のあるマシュマロを押せば、スポッと修治さんの口の中に入っていった。
その瞬間、両手に力を込めて上半身を起こすと、元の位置に戻って俯いた。
どんな顔をすれば良いのか、さっぱり分からなくて。
するんじゃなかったと、今更後悔しても遅くて。
コタツの掛け布団をギュッと握り締めた。
バックンバックン、煩い心臓の音しか聞こえない。
だから気付かなかった。
「…………え!?」
後ろから抱きすくめられ、頬に軽いキスを受けるまで、修治さんが後ろに移動したことに。
「……きゃわいい!!」
「きゃ、きゃわいい!!? なに言って……!?」
「んもう、スリスリしちゃう!!」
どこのオカマだ!
と、怒鳴りたいのを必死に堪えながら、宣言通り頬をすり寄せる修治さんのスリスリ攻撃を受けるはめになった。朝、髭を剃ってから時間が経っているせいか、ちょっと痛い。そんなに濃い方ではない修治さんでも、それなりに男の髭が顎にある訳で。
ぞりぞりされると、なんか困る。
いい加減、くすぐったいし、ちょっと痛いしで、彼の顔を押した。
「い、いてーから!」
「ああ、ごめん! ちょっと待ってて、剃ってくるから!」
「つか、そ、剃っても駄目!」
「やだ! スリスリする!!」
「ちょ……な、なんかおかしいし!?」
修治さんが変になってしまった。俺のせいか? 俺のせいなのか!?
混乱した俺は、思わず修治さんを抱き返す。動きを封じようと思って胸に顔を捕まえた。そのまま力任せに押し倒す。仰向けに転がった修治さんのお腹に座った俺は、わしっと顔を掴まれた。
「……え!?」
強い力に引っ張られ、倒れた俺は修治さんの胸にスッポリ収まってしまった。
「……もう、たまんないほど可愛いんだけど!」
「……訳わかんねぇし……」
「スリスリはまた今度にするから、このままキスして良い?」
「…………い、いちいち言わなくて良いって言って……」
「だよね」
にこりと笑った修治さんは、軽いキスをしてくれる。俺の方が上に居るという、慣れない場面だが、ここは大人しく受けた。これ以上、彼が暴走すると手がつけられない気がして。
甘いキスをくれた修治さんは、ギュッと抱き締めてくれた。
「あ~~マシュマロにして正解だったな~。今度、素喜君がくれたコーヒー、一緒に飲もうね!」
「……うん」
「もう一回、一緒に食べようか!」
「……遠慮しとく」
俺の言葉に不満そうな顔をしている。何と言われようと、もうしない。
「しようよ~」
「やだ」
「どうして?」
「…………心臓止まりそうだから」
色んな意味で。
緊張するのもそうだけど、修治さんがおかしくなるのも大変だし。
普通に食べたい。
俺は素直に言っただけなのに。
「……やっぱり可愛い!」
と、愛しげに抱きしめられてしまって、嬉しいやら困るやらだった。なかなか離してくれない修治さんは、ゴロンと転がって俺を見下ろしている。
穏和そうな瞳も。
男らしい眉毛も。
優しく語りかける唇も。
大好きな姿が目の前にあって。
ひゅっと息を飲んだ俺に、微笑むように笑っている。
もう一度、優しいキスをくれた修治さんは、俺を引き上げながら体を起こした。
すっかり冷えてしまったコーヒーを入れ替えるため、立ち上がった彼に俺もついていく。
一緒になって台所に立った。何もすることはないけれど、なんとなく一緒に居たくて。
ニコニコ笑った修治さんは、俺のコーヒーを特別甘くしてくれた。
でも。
甘いコーヒーよりも。
甘いマシュマロよりも。
修治さんのキスの方がだんぜん甘い、ってことは。
内緒だ。
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