SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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ライバルは最強兄ちゃん

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「……え!?」

 その後頭部を、俺の長い足が捕らえ、蹴り上げていた。

 スクーターは走り出すこともできずに横転し、男も投げ出されている。スクーターに足を挟んだ男がもがいているのを見下ろしながら、指の骨をバキボキ鳴らした。

「女泣かせてんじゃねーぞ、あん?」

「…………ひっ!!」

「俺はよ」

 ズルズルと無理矢理、スクーターの下から男を引きずり出した。被っていたヘルメットを引っ張り、出てきた三十代ほどの男を睨み付ける。

 それだけで男は黙る。

 ギリギリと襟首を締め上げた俺は、そのままアスファルトに叩き落とした。背中をしたたかに打った男はもう、戦意を失って震えている。

 そんな男に顔を寄せ、目を見据えた。

「お前みたいな下衆が大嫌いなんだよ。女泣かせて喜んでんじゃねぇよ。あいつらの制服、きっちり弁償しろや?」

「…………!!」

「するのかしねぇのかはっきりしやがれ!!!」

 怒鳴れば何度も頷いている。締め上げていた手を外し、交通の邪魔になるのでスクーターを引きずって歩道に上げた。

 駅の係員が警察に連絡していたのか、今頃になってサイレンが響く。街の人があそこだ、あそこだ、と指さし、パトカーが側に止まった。

「動かないで!」

 そう言って、俺の腕を締め上げた一人の警官。

「あ? 何してんだてめー!」

「大人しくしなさい!」

「君たち、大丈夫かい?」

 勘違いした警官に取り押さえられ、何故か俺が手錠を掛けられそうになる。

「ふざっけんな! てめっ……ちょっ……こら!!」

「お、大人しくしないか!」

「誰がするか!! 勘違いしてんじゃねぇ!!」

 腕を振り、違うと訴えても俺を捕まえようとしてくる。恐怖で動けない大柄な男を保護さえしている。

 イライラした。

 ムカついた。



 どたまかち割ってやる!



 キッと目をつり上げた俺と、警官の間に割って入ったのは、少し長髪の男だった。殴られた顎を押さえながら警官を宥めている。

「この人じゃないですよ。極悪そうな顔してますけど、犯人はそっち。証言者は俺の妹を含めた女子高生。この人が捕まえなきゃ、追いつけなかったんです」

「……え? こっちが犯人?」

「どう見ても君の方が凶暴だが……」

「あ?」

「お兄さんも、いちいち睨まない。そんなんだから誤解されるんですよ」

「ほっとけ」

 用は終わったと、駅に向かおうとした俺は警官に呼び止められた。

「事情聴取するから。これから署に来て下さい」

「……ふざけんな。面倒くせぇ」

「お兄さん、お願いしますよ。犯人を犯人として裁かなければ、この人の罪が無くなるから。ね、道教えてあげますから」

「お前、この辺詳しいのか?」

「ついでに送っていきますよ。車で来てるから」

「……しゃーねぇな」

 男の言い分にも一理ある。証言者が居なければ、正当防衛として振るった俺まで罪に問われかねない。そうなれば、せっかく家族に会うために戻ってきた貴重な五日間が潰れてしまう。

 仕方が無く、警察に行くことになってしまった。駅に戻れば先ほどの女子高生が泣いていて。俺の鞄を取り囲んだまま蹲っている少女も居た。

 もう一集団、違う制服の女子高生が居て。その内の一人が飛び出してくる。

「お兄ちゃん!」

「瑠璃! もう、大丈夫だからな」

 長髪の男は、妹だろう素直そうな女の子を抱き締めている。肩で切り揃えられた黒髪と、少し大きめの瞳が印象的な女の子だった。

 それに比べてこちらは。

「もうショック~~!! 見てよ~~!」

「制服ボロボロ~~」

「慰めて~~お兄さ~~ん!!」

「く、くっ付くんじゃねぇ!!」

 俺の怒鳴り声にもう、慣れたのか、まとわりつかれてしまった。

 集団にまとわりつかれ、さすがに女を殴ることもできず、こめかみをピクピクさせることしかできない。振り払いたいのを必死で堪えながら、警察が一人一人、名前と住所を尋ね始めたので彼女達を押した。

 俺にも聞いてきたので、頭を掻きながら答えた。

「山本大介。二十歳だよ」

「……え? お兄さん、俺より下? うっそだ~」

「うっせーよ。あんたが勝手に変な呼び方してたんだろ」

「ってか山本って……まさか……ねぇ?」

「あ?」

「いやいや、こっちの話。俺は立川純。妹の敵をとってくれて、ありがとう」

 俺が年下と知るや、いやにフレンドリーになってくる。にこりと笑った純に、まあ、良いかと頭を掻いた。

 喧嘩慣れしている訳でもないのに、妹を襲った犯人に突進していった勇気は認めてやる。

 一通り事情を聞いた警察は、俺と純、その妹と女子高生を何人か連れて警察所へ向かった。

 犯人はもう、借りてきた猫よりも大人しく言うことを聞いていた。
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