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ライバルは最強兄ちゃん
4-2
しおりを挟む「出かけてくる」
「……どこへ?」
「二人を頼む」
行き先を告げなくても、分かっているのか震えながら両手を広げて玄関を遮った。下の弟と妹が、美雪の背中に隠れている。
「行っちゃ駄目だよ。素喜お兄ちゃんは真剣だよ。修治さんも良い人だよ」
「……子供は黙ってろ」
「子供だけど分かるよ。男同士ってそんなにいけないこと? 私初めて見たんだよ、素喜お兄ちゃんが甘えてる姿……」
「それ以上言うな!!」
抑えていた怒りが爆発しそうになる。怒鳴ってしまった俺に、下の二人が泣いてしまう。美雪の背中に必死に隠れている。
その美雪も怖いのか、震えてしまった。
どうして俺は、怖がらせてばかりいるのか。
家族の笑顔を見に帰ってきたのに。
一人で出稼ぎに出たのは、家族との距離を離すためではなかったのに。
俺だけが一人、浮いている。
それでも俺は。
素喜を男に渡すことはできなかった。
美雪の体を押し退け玄関に向かう。くたびれていた靴を履いた俺に、美雪が精一杯の勇気を振り絞って叫んだ。
「私の時みたいになっちゃうの!?」
何を差しているのかは、すぐに分かった。 応えなかった俺に、泣きながら背中を押してくる。外に出された俺は、泣いている美雪の顔をしっかり胸に焼き付けた。
「子供だけど……子供じゃないんだよ!」
目の前で閉められたドア。一度目を閉じると、家から離れた。
階段を下りながら、奥歯を噛み締める。何と言われようと、俺の家族は俺が守る。
外に出た俺は、純が来るまで空を見上げて待っていた。
春だというのに霞んだ空は、今の俺のようだと思うと胸が苦しかった。
***
「……ええ~~! 家で待っててって言ったじゃない~!」
「うっせー!! とっとと送れ!」
「やだ!」
アパートから少し離れた外で待っていた俺に、車の窓を開けたまま横付けした純は、いきなり不満をぶちまける。だから自分で行くと言ったのに、迎えに来ると言ったのは自分のくせに。
「見てよ、これ。好印象を焼き付けるためにケーキ持参したんだよ?」
「知るか!」
「持って行くから案内して」
「誰がするかよ!」
「じゃ、会わせない」
ハンドルに顎を乗せて、ふてくされてみせる。これで俺より一歳上なのかと疑いたくなるけれど。
頑なに大学の名前を言わない純。素喜に知られることなく、さしで話がしたいのに、彼が協力してくれなくては接触ができない。
仕方が無く、車を降りた彼と一緒にアパートに戻った。スキップしそうなほど楽しそうな純に俺の溜息は大きくなる一方だった。
「下で待ってっから。さっさと行ってこい」
「……あ、もしかして喧嘩しちゃった?」
「うるせーな。関係ねぇだろう。さっさと行ってこい」
「はいはい」
肩を竦めた純に部屋番号を教えれば、軽快な足で階段を上っていった。あんまり遅いようなら襟首掴んで引き離すつもりだ。
純は嫌いではない。美雪が好きになれば、彼なら反対はしない。
だが、変な事をすれば叩き伏せる。美雪はまだ、子供なのだから。
腕を組んで待っていた俺は、五分ほどして戻ってきた純に内心驚いた。十五分は待つつもりだったから。
「……何話した?」
「べっつに~。俺の事より、駄目じゃん。妹泣かせちゃ」
「……さあな」
「お前ってさ……まあ良いや。少し時間があるから、お茶するか」
「んな金ねぇよ」
「お兄さんが奢ってあげるから」
トンッと自分の胸を叩いて見せる。
「バイト代もらったばかりだから、懐温かいし」
「……あっそ」
「可愛くないね~」
パシンと俺の背中を叩いた純は、柔らかそうな黒髪を掻き上げている。
俺に対して兄貴ぶる彼を、鬱陶しく思う反面、彼なら味方になってくれるような錯覚がした。
あり得ないだろうけれど。彼の親友は、俺の天敵修治なのだから。
この嘘臭い笑顔に騙されないように、俺は空を睨むように見上げた。
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