SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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ライバルは最強兄ちゃん

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 立ち上がった瞬間、横から衝撃を受けてよろめいた。テーブルが勢い良く俺の体を押したからだった。

「修治に何する気よ!」

「……女はすっこんでろ!」

「そこの女って私のこと!?」

「うっせーよ! 部外者は引っ込んでろ!」

「修治に何度も告白したわよ! でも、半端な気持ちじゃ付き合えないって何度も断られたわよ! その修治が半端な気持ちで男と付き合う訳ないじゃない! あんた何様!?」

 喚く鈴子に頭が痛くなる。ガンガン、ガンガン、堪えられない怒りに頭が鳴った。

 所詮、俺に話し合いなんて似合わない。あの時だってそうだった。美雪に誠意をもって謝れば見逃すと言ったのに、金を出すからそれで許せと言ったあの男。



 俺の兄弟に手を出すな。



 俺の兄弟を泣かせるな。



 あいつらはまだ、子供なんだ。



 兄ちゃんの俺が守ってやる!



 握った拳に力が入る。立ち上がった修治の胸ぐらを掴んでいた。

 それでも彼は俺の目から視線を逸らさない。眼鏡の奥の瞳が強く光っている。

「素喜君も僕を好きだと言ってくれました。お兄さんのあなたに、ちゃんと認めて欲しい」

「…………認める訳にはいかねぇんだよ!!」

 グッと右手を引いた。渾身の力を込めて殴ってやる。鈴子が喚いたけれど聞く気はない。

 何と言われようと。

 この先、素喜に嫌われようと。

 別れると言うまで修治を殴って止める。

 踏み込もうとした瞬間、引いた右腕を掴まれていた。力を入れていた俺の腕を絡め取ってくる。構わず殴ろうとしても、抑え込む力は強かった。

「俺の目の前で、親友殴るつもり?」

「……うるせぇよ! 黙ってろ!」

「できないね。修治は真剣だ。でも大介の気持ちも分からなくはない。俺も正直、迷ってる」

 何度腕を振ってもしがみ付いてくる。隙をつかれた俺は、後ろから羽交い締めにされていた。修治の胸元を掴んでいた手が外れてしまう。そのまま後ろに引っ張られ、ピタリと背中に貼り付く純に声を荒げてしまう。

「離せよ!!」

「なあ、大介。お前も大人になれよ」

「んだと!?」

「子供なのはお前だ。家族が大事なのは分かる。でも、何でもお前の思い通りって訳にはいかないだろう?」

「…………んなこた分かってんだよ!!」

 純の腕を振り解き、肩を押して遠ざけた。よろめいた彼を鈴子が支えている。ラウンジに居た学生が、息を潜めて俺を見ている。

 一人が走っていくのを目の端に捕らえた。警備員に連絡しているのかもしれない。捕まれば厄介ごとになる。

 修治に歩み寄った俺は、有無を言わさず左頬を殴っていた。吹き飛んだ修治が起き上がる前に馬乗りなる。二発目を構えた俺に、鈴子が体当たりでぶつかってきた。

「修治に何するのよ!! あんたおかしいんじゃない!?」

「煩せぇよ!! 別れるって言や離してやるよ!!」

 鈴子を突き飛ばし、今度は右頬を殴った。吹き飛んだ眼鏡が割れている。切った口から血が滲んでも、彼は奥歯を噛み締めて別れるとは言わない。

 なおも拳を構えた俺は、急に陰った視界に顔を上げた。

「……ぅん!?」

 上からのし掛かるようにキスされている。全体重を掛けて押し倒された俺は、のし掛かる相手にずっと口を塞がれている。仰向けに倒れた俺に乗っているのは、眉を吊り上げている純だった。

 彼は俺の体を捕まえるようにしがみ付き、合わせた唇から変な物を入れてくる。訳が分からずもがくけれど、さすがに男だ。簡単には外れない。

「……ちょ、ちょっと純……? そのキス……」

 もがけばもがくほど、純の拘束は強くなり、逆に俺の力が弱まっていく。体が気持ち悪いくらい震えてしまう。知らない疼きが、体を支配していく。

 何をされているのか分からない。

 キスがこんなにも力を奪うものだとは知らなかった。

「……少しは懲りた? 大介にはこっちの方が効くと思ってね」

 顔を抑え込むように彼の胸に捕まっている。暗い視界の中で、睨み上げるけれど。彼から感じる気迫に、少し押されている気がする。

「……てめ……なに……しやがった……!」

「ブッチュ~だよ。ちなみに修治と素喜君はまだ、可愛いキスしかしてないってさ」

「……どけよ!」

「もう一回する?」

 グッと顔を近づけられ、体が強張ってしまう。触れそうな唇に、何となく恐れてしまった。

 純に拳は効かない気がする。硬直した俺に、そっと溜息をついている。

「修治は素喜君が大人になるまで待ってる。二人ともちゃんと未来を考えてる。兄としてお前が心配する気持ちはよ~く分かる。俺も瑠璃がおっさん連れてきたらどうしようって考えたりするさ」

「だったら……!」

「でも、好きになる気持ちは止められない。自分の弟が決めた未来だ、信じてやれよ」

 そっと頭を撫でられる。唇を噛み締めた俺は、その手を払いのけた。彼の背中に手を回し、ジャケットを引っ張って引き剥がす。転がっていく体から逃れると、口を腕で拭った。

「壁になってやるのも兄ちゃんの役目だ」

「でかすぎるって」

「うっせーよ」

 修治のジャージを脱ぎ捨て、彼に投げつけた。鈴子に抱き起こされていた彼を一瞥すると、テーブルからTシャツをひったくって着てしまう。プンッと香るきつい匂いに顔をしかめながら、バタバタを駆け寄ってくる足音から逃げるように走っていく。

「大介! 待てよ!」

「俺はぜってー認めない!!」

 校舎から飛び出した時、警備員の声が聞こえたけれど、走る足を止めなかった。振り返る学生の間をすり抜け走っていく。



 認めない。



 認められない。



 認めたくない……!



 がむしゃらに走り続けた。


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