SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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初恋トルネード

エピローグ1

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 炎天下、俺はまた、汗だくになっている。

 仕事に復帰し、働く俺に、ガテン系の先輩達が何か進展があったのかとしつこく聞いてきた。もちろん、仕事中は詰め寄ってきたりはしないけれど。

 休憩時間になるとすかさず取り囲まれる。

 いつも着ているタンクトップではなく、ティシャツなのが怪しい、と濃い男達が顔を寄せてきた。

「なあ、やったのか!? やれたのか!?」

「い、言えねぇっすから!」

「捲ってみろ! 愛の跡が残ってんじゃねぇのか!?」

 鼻息荒い先輩達から逃げていく。追い掛けてくる男達にうんざりした。



 言えない。



 言える訳がない。



 あんな事……!



 そんな事……!!



 思い出しただけでも顔から火が出てきそうで。俺の短い人生の中で、あれほど緊張した日はない。

 逃げ続けた俺は、工事現場に入ってきた高校生二人に足を止めた。学校帰りなのだろう、制服姿の蓮司と麻紀が歩いてくる。

 がっしり先輩に捕まった俺は、引きずり戻された。

「兄ちゃん、なかなか手強いっしょ?」

「おう、教えねぇんだよ、こいつ」

「んふっふ~。兄ちゃん、さすが俺の兄ちゃんだ!」

 鞄から、一冊の薄いアルバムが出てくる。写真を現像に出した時にもらえる、薄いアルバムだ。

「……ちょっと待て!! お前、どっからそれ取ってきた!?」

「兄ちゃんが素直に教えてくれたらさ~、こんな事しなくても良かったんだけど~」

「私もこれで、スッキリしました。負けたって、感じ」

 蓮司がゆっくりと、アルバムを開いてガテン系な先輩達に見せている。必死に振り解こうとしても、両脇からきっちりガードされ、動けない。

「……うぉっ! この兄ちゃん、なかなかやるな!」

「へ~、お前ってこんな顔すんだな」

「色気あるな、この兄ちゃん」

「み、見るな! 誰も見るな!!」

 喚こうと足を振り上げようと、男達は食い入るように見ている。

 純が撮った、秘密の写真。

 あれな事が終わった後、妙に疲れて寝てしまった俺。そんな俺に寄り添いながら撮ってみたり、寝ている俺の顔を撮ってみたり、自分の上半身を撮ってみたりしている。

 俺が知っているのは、起こされた後の一枚だけだ。夜の九時を回り、時間を気にしてしまった俺に、彼が送って行くといった時だけ。

 あの日は、純に会うために帰って来た日だから。家族のことは一度、離して考えていたのに。


『家族一番な大介が好きなの。俺は二番で良い。送ってく。遊んでやりな』


 くしゃっと俺の頭を撫でてそう言った。帰って良いからキスだけしてくれ、と言われてキスして。携帯で撮ったその写真で十分だ、と笑ったのは覚えている。

 だが東京に戻り、荷物整理をしてアルバムを見つけた時は驚いた。いつの間に現像し、いつの間に忍び込ませたのか。あげくにメモまで残していた。


『オカズにしてね。俺の分も撮らせてもらってるから』


 と。

 何を撮られたのか、怖くて聞けなかった。

「ま、マジで勘弁して下さいって!」

「この最後のキスシーンなんて凄くね?」

「大介がな~いっちょ前に男になったじゃねぇか!」

 結局最後まで見られてしまった。俺からキスしている写真まで堪能した彼らは、ようやく腕を解放してくれる。蓮司からひったくるように取り返し、背中に庇った。

 けれど。

 ひょいっと持って行かれる。

「お、親方!!」

「おう、何だこれ」

「そおれ捕まえろ~!」

 わっとガテン系の男達に押し潰された。親方の手からアルバムを取り返すこともできずに。

 ぺらりと捲っては、ふむふむ頷いている親方を虚しく見上げた。

「赤飯だな」

「……え?」

「めでてぇじゃねぇか! おめーがもう一人、家族作ったってこったろ?」

 アルバムは閉じられ、俺の頭に乗せられる。逞しい男達は離れ、起き上がった俺を囲んだ。

「めでてぇな。守ってやんな」

「……はい」

「ほれ、仕事だ仕事!」

 親方が二度、手を打った。男達は腕を回しながら持ち場に戻っていく。

 俺もアルバムを一度握り締めると、蓮司のもとまで歩いた。

 パンッと頭を叩いてやる。

「いってー!!」

「勝手に持ち出すんじゃねぇ!」

「……親父~!」

「おめーが悪い」

 親方にも怒られた蓮司は、しぶしぶ謝った。その手にアルバムを乗せる。

「戻しとけよ」

「分かったよ~」

「あんま見んなよ」

「分かってるって」

「好きですか?」

 俺と蓮司の間に、麻紀が入ってくる。青白い顔ながら、微笑むように笑った彼女を振り返り、頭を掻いて背を向けた。

「ああ、好きだ」

「大事にして下さいね?」

「ったりめーだ!」

 右手を振り回し、気合いを入れた俺は現場に戻る。



 新しい家族。



 そんな風に考えたことはなかったけれど。親方に言われてスッキリした。

 家族か、純かなんて、選ぶ必要はなかった。

 彼もまた、家族になるだけのことだった。

 パンッと頬を打った俺は、眩しい太陽を見上げて気合いを入れる。

「おしっ!」

「気合い入ってんなー、大介!」

「今度連れてこいよ、彼氏!」

「彼女だろう?」

「どっちでも良いさ。めでてぇ、めでてぇ!」

 ガテン系の先輩達に混ざりながら、重たいセメント袋を持ち上げる。

 すぐに噴き出した汗が、首筋を伝って落ちていくのを、ティシャツを引っ張って拭いた。

 純に貰ったティシャツは、良く汗を吸い込んでくれた。

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