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番外編

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***


 俺はドキドキしていた。

 修治さんもドキドキしていた。

 大人のキスまでして良いと、兄からようやく許しが出た。

「……修治さん」

 抱き付いた広い胸は、凄い鼓動を打っていた。俺も一緒になって緊張してしまう。

 もっと強くギュッと抱き付いた俺は、靴を脱いで上がる準備をした。スニーカーを脱ぎ捨て、早く修治さんにして欲しくて見上げたけれど。

 彼は真剣な目で俺を見下ろしていた。

「修治さん……?」

 不安になって呼び掛ければ、ギュッと握り拳を作っている。そうして俺の腕を掴むと、部屋の奥まで引っ張っていった。前に住んでいたアパートから引っ越して、今は俺達のアパートの近くに住んでいる修治さん。いつでもお泊まりができるようにと。

 そしてベッドも大きくした。ダブルベッドになったそこへ連れていってくれる。

 とうとう、俺は少し、大人になれるんだ。

 ベッドにポスッと座った俺は、隣に座った修治さんを熱く見上げた。パンダのぬいぐるみ達は、ベッドに備え付けの棚の上から見守っている。



 俺、大人になるよ!



 意志を伝えるように修治さんの袖を握った。彼は掛けていた黒縁眼鏡をそっと外した。

 優しい、温かい瞳が俺を見ている。顔を寄せ、俺の唇にそっと親指を当ててくる。確かめるように、撫でてくれる。

 ドキドキ、ドキドキ、緊張した。紅潮する頬に、大きな手が触れている。

「僕も……大人のキスは……したことないんだ」

「しゅ、修治さんも……?」

「うん。だから……下手かもしれないけど」

 傾いてくる顔。ギュッと目を瞑って待ち受けた。

 重なった唇。緊張でフルフル震えてしまう。感じ取った修治さんは、触れては離して、離しては触れてを繰り返す。

 いつもの、とても甘いキスを繰り返してくれた。

 頬に柔らかく当たる唇。

 鼻先も掠めていく。

 チュッと音をたてておでこにもしてくれた。

 頬を包む手が優しく撫でながら、また唇にしてくれる。

 ふわりと、芳ばしいコーヒーの匂いがして温かくなった。緊張していた体から力が抜ける。とろんと力が抜けた俺の唇に、修治さんの親指が重なった。

「……素喜君」

 なんて優しい声だろう。耳を澄ませた俺は、ゆっくりとベッドの上に寝かされていた。閉じていた瞼を開くと、修治さんが覆い被さってきている。

 優しい目元が赤くなり、相変わらず真剣な目をした修治さん。

 俺の黒髪を掻き上げるように両手を添えてくる。

「……も……我慢……できな……!」

 苦しそうに顔を歪めている。

 何が我慢できないのだろう。聞こうとした唇が塞がれた。いつも微笑んでいる唇が、俺の唇を覆うように触れている。

 そして。

 舌が、俺の唇を撫でていた。

「…………!」

 ヒクッと肩が揺れた。修治さんの舌が、俺の唇に当たっている。



 何で?



 何で!?



 分からなくて、歯を食いしばってしまう。

 一気に緊張を取り戻した俺の頭を大きな手が撫でてくれた。

「……口……開いて」

「……修治さん……?」

「大人のキス……しよう?」

 囁かれ、真っ赤になった。引き結びそうになった唇を震わせながら、恐る恐る開いた。

 スルリと、修治さんの舌が入ってくる。ビックリして噛みそうになって、慌てて力を抜いた。今噛めば修治さんの舌を傷付けてしまう。

 でも、何で舌を入れるのだろう?

 唇をなぞるように舌で触れられていると、俺の体に寄り添うように修治さんが体重を掛けてきた。

 俺の足と、修治さんの足が、交差する。いつも寝ている時に、すり寄ったりはしていたけれど。

 なんとなく、恥ずかしくなる。浅い所を舌で探られながら、体から火が噴きそうなほど緊張した。

「素喜君……」

 甘い声が、時折囁いた。その度に、腰がむずむずした。

「……ぁ……はぁ……素喜君……」

「…………!!」

 無意識だろうか、修治さんの大きな手が、俺の手を握り締めている。指を絡められ、ドキドキが最高潮に達した。



 熱い。



 たまらなく熱い。



 そして。



 幸せだ……!



 握られている手を俺も握り返した。恐る恐る、俺も舌を伸ばしてみる。ツンッと舌先が、修治さんの舌先に当たった。

 ビクッと、彼の体が揺れている。閉じていた瞼を開いた修治さんと、俺の目が、重なった。



 ああ、修治さんでも、こんなに赤くなるんだ。



 じわっと何かが押し寄せてきた気がする。一度唇を離した修治さんは、もう片方の手も握り締めている。顔横へ付けるように握り合わせた手が、俺達を一つにした。

 言葉もなく、唇を触れ合わせる。握り締めた両手が汗ばむほど、体が熱くなってきた。

「ぅん……ぁ……修治さん……」

 体がじんじんする。

 もっと触れてほしい。

 求めるように彼を呼んだ。

 大きな手を力いっぱい握り締める。

「素喜君……」

 舌先を触れ合わせては、頬や首筋にもキスしてくれた。耳たぶにもキスした修治さんが、俺の頬に自分の頬を擦り寄せてくる。

 そうしてまた、唇が重なった。俺の右手から手を外した修治さんが、腰を強く抱いてくる。

 密着した体。俺も空いた右手で修治さんの背中に腕を回した。



 唇が熱い。



 熱くてたまらない。



 もっと。



 もっと深く。



 一つになれるくらい、触れ合いたい……!



 願いが通じたのか、遠慮がちに触れ合っていた修治さんの舌が、深く入り込んできた。
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