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番外編
3-3
しおりを挟むシャツから覗く綺麗な首筋にキスしていく。ボタンを外す俺を手伝うように、上着から袖を抜こうとしている。
三つ目のボタンを外した俺は、もう、少し尖っていた胸の突起にキスをしようとした。
ガッタ――――ンッ!!
すぐ側で起きた大きな音に、俺も純も動きが一瞬で止まった。
「いった――!! 親父!! 押さないでって言ったじゃん!!」
「おめぇーばっか見てるからだろうが!」
狭い俺の部屋に、蓮司と親方が転がり込んできた。重みで倒れた襖の上で、二人は言い争っている。
出ていったはずなのに。
どうして居るのか。
「…………何してんすか、二人とも」
ゆらりと起き上がった俺に、二人が慌てている。
「い、いやー、忘れ物しちゃって!」
「ば、馬鹿だな、おめー。何年住んでんだ! 部屋間違えるなんてな!」
「あはは! 俺ってどじだよね!」
「…………言いたい事はそれだけっすか?」
二人を見下ろすと、顔を引きつらせている。
親方には世話になっている。
世話になっているけれど。
純のあれを見ようとしたのは許せない!!
「覚悟は良いっすか!?」
「きゃ――!! 兄ちゃん怖い~~!!」
「お、落ち着け!! 今度こそ、戻ってこねぇからよ!!」
「そうだよ、大介。落ち着きなって」
二人を締め上げようとした俺の背中を純が引っ張った。そのまま後ろから抱き付いている。
「てかお前、マジで気付いてなかったんだ」
「…………んだと?」
「二つ目銜えた時に、襖動いたから。あ、見られてるーって気付いてたんだけど……」
「知ってたら止めろよ!!」
「いやー、エッチのお誘いきたから、まさかとは思ってたんだけど……」
そんな所から見られていたのか。怒鳴った俺に後ろから笑っている。
そもそもキスならまだしも、今からあれをしようとしたのに。それも見せるつもりだったのだろうか?
俺の混乱など爽やかにかわした純は、二人を殴らないようにとしっかり腰を捕まえている。肩辺りに純の声が響いている。
「蓮司君、後でそれ、ちょーだい」
「……さっすが純兄ちゃん!! オッケー!!」
「何だよ、それって」
「キスまで見せたのはそのせい。お前が撮らせてくれるなら、見せなくても良かったんだけど」
「だから、何だよ!」
ニヤニヤと蓮司は笑っているし、純は教えてくれないし。
俺の苛立ちはどんどん募っていく。家族のように過ごしている親方達にキスシーンを見られただけでもショックだったのに。
ふてくされた俺に、親方が豪快に笑った。
「さっすが立川さんだ!」
「純で良いですよ、親方」
「いやー、大介がこんな色気を持つようになるとはな~、うんうん。親代わりとして見てきたが、いや嬉しいね~」
「俺も見習う! 純兄ちゃんみたいにテクニシャンになるよ!」
俺だけが取り残され、三人は和気藹々と話している。エロスに関しては、三人は妙に気が合うようだ。
俺はそっち方面には全くの素人で。エロ本だって、見たって意味が分からない。
急に、三人から距離を感じてしまった。
「……くそっ」
思わず呟いた俺を三人が見てくる。
「……寂しい?」
「うっせー!」
「怒鳴る時は、図星の時」
ギュッと抱き付かれ、振り払おうとしたけれど強い力でしがみ付かれる。
「大丈夫。後で教えてあげるから」
「こら、離せって!」
「さ、行こう」
俺の右手を強引に掴み、タクシー会社に電話を入れている。すぐに切ると、親方達に手土産を渡した。
「おい、純!」
「明日のデート用の服と下着、用意して」
「あ、俺がやったげる!」
何とか純の手を解こうとする俺の側をすり抜け、鼻歌混じりに人の箪笥を勝手に漁った蓮司は、これが良い、あれが良いと服を選んでいる。
「おいったら!」
「親方、明日まで大介、借りますね」
「おう! みっちり仕込んでやってくれ!」
「はい」
「できたー!」
純が持ってきた紙袋に、俺の服を詰め込んだ蓮司は、残っていたチョコレートも一緒に入れている。それを手にした純が俺を引っ張りながら廊下に出た。
「ホテル予約してるから。二人が戻ってきてくれて良かった」
「……ちょ、待てって! 意味がわかんねぇ……!」
一階まで引きずられ、靴まで履かされて。
訳が分からず怒鳴ってみても、純に効くはずもなく。握り締められた右手は決して外れない。
「じゃ、そう言う事で。いつもご協力、ありがとうございます」
「おう、男になって来いよ、大介!」
「すぐメールするね!」
二人に見送られた俺達は、大塚家を後にした。すでに来ていたタクシーに乗り込む純に引っ張られて乗り込んだ俺は、後部座席で口を尖らせた。
「……訳分かんねぇ」
「あはは! 大丈夫、取ってるのはビジネスホテルだから」
そう言って笑った純の手は、まだ俺の手を握ったままで。腕を組むこともできずに、溜息をついた。
ビジネスホテルということは、エッチは無しか。あれだけ煽っておきながら。まだ、口の中が甘ったるいのに。
そう思った俺は、狭いタクシーの座席に体を預けて目を閉じた。
ラブホテル=エッチする所
ビジネスホテル=寝るだけ
俺の中の常識が覆されるのは、それから数十分後の事だった。
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