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第五王道『SUN SUN! 七拍子☆』
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しおりを挟む「横暴ですよ! 俺だって好きでこんな童顔に生まれた訳じゃないのに!」
「可愛いことは良い事だ!」
「全然良くないです!」
「皆が憧れる応援団長と一緒なんだぞ! むしろ感謝してもらいたいくらいだ!」
「……勝手すぎます!!」
応援団のため、皆が憧れる存在を守るため、仕方がないから一年間は我慢しようと思ったけれど。
勝手な言い分にだんだん腹が立ってきた。俺の意見は聞いてもらえないのだろうか?
俺は男になりたいのに。童顔から抜け出したいのに。
敢えて童顔を利用することなんてできない。
「俺、知りませんからね!」
「おい、故郷! 聡ちゃんがどうなっても……」
「俺、関係ないですから!」
引き止められる前に部屋を飛び出した。自分の部屋まで走っていく。すれ違う同級生をすり抜け、もらっていた鍵で部屋に飛び込んだ。
絶対に協力なんかしない。望月先輩の趣味がばれても、俺のせいじゃない。
キッと入り口の一点を睨んでいたら、ベッドの影から人が出てきた。
「どうした? そんなに慌てて」
誰も居ないと油断していたら、望月先輩が帰って来ていた。トラブルの張本人が居たなんて。
声に驚き、顔を上げたら。
乱れていた息さえ、止まった。
顔が赤くなってしまう。
黒い学らんを着た、男の中の男の、俺が憧れる望月団長が立っていて。
白い鉢巻きと手袋までした、正装姿になっている。
キリッと見える目元が、優しく見つめてくれる。
「誰かに追い掛けられでもしたのか?」
「い、いいえ……」
「そうか?」
フッ、と笑う格好良い姿に、心臓がバクバクだ。何て硬派な男の姿なのだろう。
去年の夏に見た、勇ましい応援団の姿が思い出される。俺がなりたかった姿が目の前にある。
これが緊張せずにいられるだろうか。ギュッと握り拳を作って、震える足を支える。一秒でも長く脳内に留めておきたい。
凝視していた俺に、一歩、望月先輩が近づいた。
「これからまた、戻らないといけないんだが。お前の携帯番号、教えてくれないか? 連絡することが多くなると思うから」
「わ、分かりました!」
部屋の奥に駆け込み、鞄を漁った。昨日から入れっぱなしになっていた携帯に、母と姉からメールが来ていた事を知るけれど、今はそんなこと構っていられない。
赤外線を準備し、望月先輩と携帯番号とメールアドレスを交換する。
自分の携帯に、応援団長の携帯番号とメールアドレスが登録されるなんて、何だか夢みたいだった。
「ありがとう。集会が終わったら、案内するから」
「お、俺のことはお構いなく! 一人でも見て回れますから!」
「俺が案内したいんだ。あ、そうだ。お前にどうかと思っていた物があってさ」
携帯を学らんのポケットに入れた望月先輩は、クローゼットから一着の服を取り出した。
赤いチェック柄のパーカーだった。少し丸みがあるデザインになっている。テレビの中で見かける、男のアイドルグループが着るようなデザインだった。
「良ければ着てみないか?」
にこりと笑って言われ、格好良い応援団姿に興奮していた俺は、素直にそれを着た。望月先輩の頼みだ、断れない。ちょっと派手だな、と思いはしても。
少しだぶつく大きなパーカーを着た俺は、案外、似合っていると自分でも思った。カジュアル系の服は好きな方だし、結構着れる。こんな事くらいなら、全然大丈夫だ。
それで格好良い応援団姿を見せてくれるのなら。
硬派な望月先輩を守れるのなら。
例え木原先輩の企みで同部屋にされたとしても、許すことにしよう。この姿を守るためだ。男の中の男を守るためだ。
俺の意思で望月先輩の硬派を守りぬこう。
決意を固め、壁に掛かっている鏡で自分の姿を確認していた時、そっと抱き寄せられた。クルリと方向を変えられ、真正面から見つめられる。
天然パーマを撫でられようとも、唇に親指が当てられようとも、俺は我慢した。
俺を愛でる事で、外にピンクの世界を持ち出さないのなら、我慢してもらえるのなら、俺も我慢しよう。
俺は今、ぬいぐるみになっていると思えば良い。望月先輩が満足するまで撫でられよう。
上目遣いに見上げ、どうにか鳥肌を我慢していた。ふわり、ふわりと天然パーマを撫でられながら。
我慢していた。
大きな手に両頬を包まれようとも。
何だか顔が近い気がしようとも。
我慢していたおでこに、柔らかい唇が押し当てられた。
「…………可愛すぎて困るよ」
囁いた望月先輩は、もう一度俺のおでこにキスをした。目が見開いてしまう。
誘惑を断ち切ろうとするかのように、くっ、と喉を鳴らしながら身を離した望月先輩は、一歩、また一歩、距離を取っていく。
充分に距離を取ると、ほうっと息を吐き出し、微笑んだ。
「じゃ、行ってくる」
男前の背中を見せた望月先輩は、一人部屋を出て行った。
ストンッ、と、腰が砕けてしまう。
握り締めた拳がフルフル震えた。
そっと、自分のおでこに手を当てた。
「……ちゅーするなんて聞いてないっすよ!?」
いったい木原先輩は何処まで我慢したのだろう?
キスはオッケーなのか?
そうなのか!?
まさかの事態に混乱した。押し付けられた望月先輩の唇は、意外に柔らかかった。
その事に気付いた自分に、心底落ち込んだ。
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