王道ですが、何か?

樹々

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第二王道『ラブ☆アタック』

2.チャンスを狙え!

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 新月まで三日。



 誰かの悪戯かもしれないし、本物かもしれない鴉団からの脅迫状。

 そんな事、俺には全く関係ない。本当に来たら叩き潰せば良いだけのことだから。

 昼間は会えなくなったミルフィーが、夕刻から交代して、俺の部屋に来る。

 それが何よりも重要だ!


 コンコン。


「……き、来た!!」

「ぼっちゃま? 宜しいでしょうか?」

「もちろん!! 早く、早く!!」

「失礼します」

 落ち着かなく部屋の中を徘徊していた俺は、彼がドアを開ける頃には駆け寄っていた。その勢いのまま抱き付く。難無く受け止めたミルフィーは、俺ごと室内に入ってきた。

「これより、護衛に就きます」

「うん! 就いちゃって!」

「さ、ぼっちゃまは業務の続きを。私は後ろで見て……」

「もう終わった!」

「……終わったのですか?」

「うん!!」

 そんなもの、とっくに終わらせた。

 いつもは少しでもミルフィーと居たいがために、わざとのろのろと仕事をしていただけだ。今日から彼は夜に来る。仕事を残してなんていられない。

 苦笑したミルフィーは、ならば、とお茶を入れに行っている。一国の王子である俺の部屋には、簡単なキッチンから風呂まで、ほとんどがこなせるようになっている。

 ちなみに、ミルフィーの入れるお茶はすこぶる美味しい。彼はお茶に関しては煩い男だった。異国の飲み物だけれど、俺達の国にも浸透したお茶。渋くて、甘い、不思議な飲み物だ。急須と湯飲みも、当たり前のように文化として受け入れられている。

 ホカホカと湯気をたてるお茶をすすりながら、目の前に座っているミルフィーを熱く見つめる。俺の視線に気付いているのか、口元が少し緩んだ。

「そう、見つめられますと、困ります」

「だって……静かだ」

「昼間は他に人が多いですからね。そう言えば、メイドはどうされたのですか?」

「決まってるじゃないか。遠慮してもらった! 俺とミルフィーの初めての夜なんだからな!」

「……確かに、夜にご一緒するのは初めてですね」

 ほんのりと、顔に赤味が差した気がする。たぶん、ほんの僅かだけれど。

 彼も意識している。

 俺を意識しているのなら、脈は全く無い訳じゃない。

「ミルフィー! 何度でも言うぞ! 俺はお前が好きだ! いや、愛してる! 心の底から深く……!!」

「ありがとうございます」

「そうじゃなくて! ……お前は……どうなんだよ」

 湯飲みを握り締める俺に、困ったように笑うミルフィー。

 いつもだ。

 俺が真剣な顔になると、彼は困った顔をする。

「……男……ですから」

「じゃあ、性別抜きで考えてくれ! 男とか、女とか、関係なかったら?」

「……それは……」

 珍しく口ごもる。

 身を乗り出そうとした俺より先に、彼が立ち上がった。

「さ、お風呂に入って下さい。私は外で見張っていますから」

「まだ話は終わってないぞ!」

「私は強い者が好きだと申したはずです。ぼっちゃまが私より強くなりましたら……この身、お好きなように……」

 胸に手を当て、伏し目がちになった彼。

 その姿に、どれほど俺の心臓がドキドキと高鳴ってしまったことか。

「……わかったよ。絶対、ぜ~ったい、強くなって、お前を手に入れるからな!」

「はい」

 どこかホッとしたような笑みを浮かべた彼について立ち上がる。風呂場へ向かいながら、彼を呼んだ。

「背中洗いっこしよう!」

「私はもう、入って来ましたので。どうぞご安心を。ここは必ずお守り……」

「……えええええぇぇぇぇ――――!!! 楽しみにしてたのに!!!」

 怒鳴った俺の声に、驚いた廊下の見張りが飛び込んでくる。耳を押さえたミルフィーが、何でもない、と彼らを帰している間、俺はわなわなと拳を震わせた。

「お風呂の中であんな事やこんな事……できるかもって思ってたのに!!」

「ぼっちゃま。狙われているということをお忘れではありますまい? 共に入っては守れません」

「でも!!! ちょっとくらい……!!!」

「いけません」

 ピシャリとはね除けられてしまった。俺の背中を強引に押し、浴室に押し込められてしまう。

 呆然と浴室の天井を見上げた。初めて一緒に入るお風呂だと思って、メイドにピカピカにしてもらったのに。皆も頑張れ、と応援してくれていたのに。

「……そんな~~」

 情けない声を出した俺は、べそをかきながら服を脱いだ。浴室のドア越しに感じるミルフィーの気配は、辺りを探るように少しだけ殺気立っていた。
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