王道ですが、何か?

樹々

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第二王道『ラブ☆アタック』

5.金髪の野獣を愛でる竜騎士

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 美しく、気高く、そして可愛い。

 剣技の才能はずば抜けており、頭の回転も早い。

 彼ならいつか、自分を超えていくだろう。

 誰も居なかった、目の前の道に、彼がきっと、立つ日が来る。

 それを心から望んでいる。





 城の屋上で風に吹かれていたミルフィーは、呼び掛ける部下の声に振り返る。

「ここに居たんですか。ティラミス様が騒いでいましたよ。ミルフィー様が居ないって」

「……すぐに行く」

「しかし、不思議なお方ですね」

 私の一歩後ろについた若い兵士は、クスクス笑っている。歳はティラミスとそう、変わらない彼は、指をピッと立てた。

「ご自分が最強の剣士に近付いているって、全然、わかっていらっしゃらない」

「そう、思うか」

「ええ。鴉団をこの程度とおっしゃるなんて。こっちは四苦八苦しながら追いつめていたというのに。ああもあっさり捕まえられてしまうとこちらの立場がありません」

 肩を竦めた若い兵士は、またクスクス笑っている。

「だいたい、ミルフィー様を抜こうとなさるなんて。それだけでもチャレンジャーですね」

「皆も見習ってほしいものだ」

「無茶を言わないで下さい。あなたは竜騎士の血を引くお方。体の構造から我々とは違います」

 私も肩を竦めて見せた。その名を出されると、少し困る。

 私の血は、人間のそれとは少し違った。竜騎士と呼ばれる一族の血が混じっている。血の影響を色濃く残すのは、今はもう、私一人だと聞いている。

 かつて竜が存在した時代に、その血を手に入れ飲んだのが始まりだった。竜の血を体内に取り入れたご先祖様は、人間とは一線を画した存在になったと聞く。

 その後、その血は脈々と受け継がれ、ある者は岩をも砕く力を手に入れ、ある者は千里先の物を見ることができる目を持ったと言う。特殊な能力を持つ者が多く産まれたらしい。

 だが、時と共に血は薄れ、普通の人間とさほど変わらなくなってきた。私のように、多少身体能力に優れた者が産まれるくらいで、岩を持ち上げるような力は持っていない。

「ぼっちゃまはいずれ私を抜くぞ」

「……ミルフィー様も変わっておいでですね」

「私が?」

「負ければお嫁さんになるんですよ? 竜騎士であり、我が国最強の剣士が、男でお嫁さん。他国は驚くでしょうね」

 面白そうに笑っている彼を振り返る。両手を広げて見せた彼は、深々と頭を下げた。

「お許しを。確かに、お嫁さんになれないことはないでしょうが……ティラミス様はまだ、ご存じないのでしょう?」

「ああ……」

「しかしミルフィー様がドレスを着るとなると……ぶっ……し、失礼しました」

「何も嫁に行ったからといって、ドレスを着る必要はないだろう? 妙な想像はしないでくれ」

 困ってしまった。民の全てがもう、知っている事実。

 ティラミスに負けた時点で、私は彼のお嫁さんになる事が決まっている。国王ガトーも、渋々それは了解していた。了解しなければ、国を出るとティラミスが騒いだせいだった。

 一生、勝ち続けてくれ、と国王に言われたけれど。それは難しい。

「……あのお方はもっと強くなる」

「嬉しそうですね」

「ああ、嬉しい。私を超える存在を見る事ができるのだからな」

 血が沸き立つ。

 強い者と闘える。

 いつか、私の膝が大地に突く日が来るだろう。

 その時から私が追い掛ける側になる。

 若い兵士の肩を叩いて通り過ぎた私は、屋上を後にした。階段を下りながら口元を緩めてしまう。

 足早に歩いた私は、ドアの外からでもわかる、ティラミスの声を聞きながら彼の部屋をノックした。
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