葉城探偵事務所

彩城あやと

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葉城探偵事務所 第三話 ④

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 亨さんは俺の返事を待つこともなく、俺の唇に唇で触れた。柔らかく触れた唇が愛しい。そっと唇に触れるだけのキス。
唇が離れると、亨さんと見つめあった。言葉はない。
 もう一度触れて欲しい。そう言わなくても、亨さんの唇はもう一度俺の唇に触れる。
 そして何度も何度も触れる亨さんの唇が、啄むようなキスに変わり、甘い痺れが全身を襲う。
「ん……」
 俺が亨さんの首に腕を巻きつけると、亨さんの舌が唇の隙間を抜けて、俺の舌先を舐め絡まる。漏れ溢れる吐息が熱い。
 重なった唇が離れると、ひどくさみしくて、亨さんから目が離せない。
「……そんな目をしないで下さい」
 亨さんのとけてしまうように俺を見つめる瞳。
「もう俺呪い殺されるかもしれない。だからその前にもっと」
 俺がそうせがむと亨さんは俺の頬を両手で包んだ。
「そんなことを言わないで下さい! 私は貴方に嫌われても、それでも貴方を失いたくない。私には貴方を救う方法を見つけることが、出来ませんでした。でも楓なら貴方を救えるのかもしれない……でも、やすやすと楓に貴方をくれてやりたい訳ではないんです。貴方を私が抱いて楓を出すと言ったら……怒りますか?」
「怒るって言ったら?」
「犯します」
「何それ?」
俺は面白くて思わず吹き出してしまった。
「楓はバックバージンの貴方に興味があると言ってるんですね? では私が貴方のバックバージンを奪えば、楓のセクシャルハラスメントを危惧するような事は最低でもなくなります。」
「俺が楓さんにセクハラされるのは嫌なんだ?」
「はい。貴方に触れるのが楓だと、それは他人があなたに触る事以上に許せません」
自分であって自分じゃないから?
「でも俺はゲイでもなんでもないし、誰でもかれでも抱かれていいってものじゃない。俺が触れて欲しいと思うのは亨さんだけだ。でも、楓さんに視てもらっても、俺の呪いが解ける保証もない。じゃあ俺がこのまま呪い殺されるなら……」
「晴樹さん、そんな事を軽々しく言ってはいけません」
「ごめん。言い方が悪かった。思い残すような事がある。そんなのが嫌だったんだ。だから亨さんとなら、してもいいや。でも言っとくけど俺、ゲイじゃないからね。」
「晴樹さん……私はゲイです。でもだからそれだけで、貴方に惹かれた訳じゃない」
「まだ、知り合ったばかりなのに?」
「ええ。時間なんて関係ありません。貴方にどうしようもなく惹かれるのは理屈ではないんです。ですから、早く呪いを解いてその苦しみから解放させてあげたい。」
亨さんの指先が俺の胸をなぞって、ベルトに触れ亨さんの唇が顔中に降ってくる。
「あ……くすぐったい」
「嫌じゃありませんか?」
「嫌……じゃない」
「ではこれは?」
首筋に亨さんの唇が這う。
「あ……大丈夫……」
「綺麗な白い肌が紅く色付いて酷く艶かしい」
亨さんの舌が遠慮も知らず、俺の耳元を、耳朶をネロリと這い回ていく。
「ふ……っ!」
ゾクゾクするその感じに、俺は亨さんの腕をギュッと握った。
「ああ。貴方が蕩けそうになるほど、触れて、口づけたい」
耳元で響く亨さんの声がひどく官能的で、俺は顔を背けた。なんだこのむずむずとした感覚は?
「しかし、時間はあまり残されていません。もうすぐ嵯峨野さんもいらっしゃいます。こんな形で貴方に触れるなんて……口惜しいですね」
亨さんがジーンズのジッパーを引き下げた。
「あっ! と、亨さん!?」
「すみません。本当は貴方の体と心を蕩かせてから一つに交わりたかった」
亨さんは俺にキスしながら、衣服を剥ぎ取っていく。
こ、こわい。俺はこれから亨さんに、男に抱かれる。こわばる体をそうっと亨さんが撫ぜていく。
「怖がらなくても大丈夫です。力を抜いて」
やわやわと亨さんの手と唇が全身を這いながら、全ての衣服が脱がされてしまい、俺はどうしようもない羞恥心に身をすくめた。
「と、亨さんも脱いで!」
そう言うと亨さんはゆっくりと起き上がって、シャツのボタンを外して、引き締まった綺麗な肌をさらけ出した。
きめ細やかな肌に、しなやかな筋肉。衣服がなければ逆三角形のスタイルのいい肢体が視界に飛び込んできた。俺は男の体がこんなにセクシーで綺麗だなんて、思ってもみなかった。
「晴樹さん」
重なる肌がしっとりと馴染み吐息が溢れる。
なんだか体がふわりと軽くなる感じ……いや、実際に体が軽くなってる。
さっきまでずんっと乗っていた重みが感じられない。
「……あれ?」
「いかがされました?」
「いや……体が急に軽くなったような」
「呪いが解けましたか?」
「ん……っ!」
亨さんの舌が胸の突起をやわやわと弾き、全身が甘いしびれに包まれてく。
「このまま幽霊も、貴方に取り憑く事を諦めてくれればいいのですが……」
亨さんの吐息が、唇が、舌が、指先が俺の体をどうしようもない快楽に導いてく。
「ん……っ!」
首筋にチリっと痛みが走った。
「と、亨さん、跡は残さないで」
「……楓へのメッセージです。晴樹さんは私のものであると言う、メッセージ」
吐息やピクリと跳ねる反応を頼りに亨さんは俺の性感帯を探り当てて、舌を這わし、吸い付き、弄る。
そして時折、チリっとした痛みが走る。
「あっ……だからっ跡は……っ!」
「服を着てしまえば、分かりません」
そう言って、亨さんは俺の体に所有者としての赤い印を残してく。
そしてたっぷりと全身をまさぐられて、完全に勃ってしまった俺の分身を、亨さんは躊躇なく口に含む。
舌がそこに絡みついて言いようのない淫靡な感覚に仰け反ると、胸の突起を捏ねられた。
「は……っ」
亨さんの口婬は巧みで、俺の分身にたくさんのキスの雨を降らし、優しく先端を含みゆっくりと動いてく。
含めるところまで含み再び先端部分まで戻りそれを何度も繰り返し、鈴口を押し広げ固く尖らせた舌を差し込んできたり、舐めたりする。
時折かかる亨さんの吐息が熱い。
亨さんの舌がまるで意志を持った生き物のように、淫靡に淫猥に蠢き、絶頂へと導かれてく。
同じ男としても快感のツボを心得てるのは理解できるけど、なんだってこんなに上手いんだ!
「は……あっ……亨さん……」
俺の息は乱れ、時折鼻についたような声さえ漏らしてしまう。
もう快楽を追い求めることしか考えられなくなると、亨さんの口元からじゅうっという水音をさせながら、俺の後孔をなぞった。
「あっ!ちょっ……っと!」
俺が身じろぐと亨さんは熱い目で俺を見た。
その目にゾクリと身を竦ませると、ぐにぐにと押されるだけだったそこが指先を咥え始め、ぬるぬるとしたたっぷりとした唾液が滑って指を飲み込んでゆく。
「くっ……ふっ……っ!」
「力を抜いて下さい。貴方を傷つけたくない」
つぷんと指が抜かれて安堵の息をつくと、亨さんはローションをたっぷりと取り出して、またつぷんと指を差し込んだ。
指は内部で蠢きうねり俺がひくりと跳ねる部分を探し出して、擦りたてる。
口婬されたまま、そんなことをされるともうどこが気持ちがいいのかさえ分からなくて。俺は無意識のうちに亨さんの名前を呼んでいた。
「はっ……あ……待って……」
「待てません」
「ふっ……あ……」
耳に届く自分の吐息が遠くに聞こえる。
分身がズルリと熱い口内から開放されても、後ろに差し込まれた蠢く指先が、淫靡な感覚から抜け出す事を許してくれない。
「はっ……ああ……いやだっ!」
「ここが、とろとろになるまで、愛してあげます。だから私を受け入れてください」
耳元で聞こえる囁きを、鼻先で、唇で愛撫されて俺はもう、女なんか愛せなくなるんじゃないかと思った。俺はもうコクコクと頷いて、もう亨さんのされるがまま、身を任せるしかない。
「ああっ!」
ぐりっと指が動いた時にたまらないほどの甘い痺れが全身を包み、俺は亨さんの腕を掴んだ。
「ここが好きですか?」
「ああっ……ちがっ……そこはやめっ……あ…っ!」
そこが感じ過ぎて怖かった。俺が首を横に振っても亨さんはそこの愛撫する手を止めない。時折、押し広げるようには動くけど、たまらなく切なくなるポイントは外さない。
もう分身を触ってはくれず、後孔を責め立てながら、胸の突起や首筋に執拗なまでに舌が蠢いて、絡み取られる。
分身がビクビクと脈打って、直接的な愛撫を求めてる。
「はっ……あっ……んんっ……と、亨さん、も俺ダメ……っ!」
「もう、私も我慢の限界です」
亨さんはそう言うと指をゆっくりと引き抜いて、俺の足を抱え上げて、後孔に熱い昂ぶりを押し当てた。そして俺にキスをしながら、ゆっくりと揺ぶって少しずつ侵入してくる。
「ふっ……ああっ……」
痛みはないけど、ひどい圧迫感に息が詰まって、亨さんの肩を押した。
「まって……やめ……っ」
「ここで止まれば後が辛くなります」
亨さんはそう言って緊張を解きほぐすように、俺の分身を同じリズムで擦り上げ始めた。そうすると後孔は亨さんの昂ぶりが少しずつ、侵入を許して飲み込んでいく。
俺が切なくなくて堪らない場所までくると後は揺さぶられ、擦り上げられる。
「晴樹さん……」
亨さんが何度も俺を呼ぶけど、何も答えられない。漏れるのは吐息だけ。
「はっ……あ……!……あ……っ、あぁ!」
視界はぼやけて、脚を抱えて、亨さんに揺さぶらされ。
そんなところに、雄を差し込まれて感じてる自分自身に対する疑問も吹っ飛んでいく。ぐちゅぐちゅと鳴ってるのは、どこの部分だかもう分からない。
俺は白い闇の中に堕とされて、その白さの中で弾け、見たこともない光へと溶け込んでいった。


**********


うららさんがオデコにぺたり。と冷えピタを貼った。
「晴樹さん大丈夫ですか?」
隆盛くんが心配そうに、俺の足元にコトリと盛り塩の乗ったお皿を置いた。
「んん。盛り塩ってけっこういいねぇ」
「今の対処法はこれぐらいしかないんですが、歩けないくらい弱ってしまうなんて、かわいそ過ぎますよぅ」
「……………」
確かに情事の時は重みも倦怠感も開放されたがその後、のしかかる重みは不思議と軽くなって戻ってきた。
歩けなかったのは、霊のせいじゃない。亨さんが思ったより長くて、激しかったせいだ。
仮眠室の情事のあと、少し甘い時間を過ごして応接室に戻ろうとしたら、俺は歩く事ができなかった。俺の初めての男が、情熱的に俺を愛した結果が、これだ。
足腰が立たない。
亨さんは責任を感じて、俺をおんぶして応接室まで運んでくれたが、それを見たうららさんと隆盛くんはびっくりして介抱してくれた。
まさか亨さんと足腰立たなくなるまで、ヤってた。
とは二人とも思わなかったみたいで、隆盛くんが「落ち武者こわいー」なんて言ってる。
でもふと、うららさんと目が合うと、亨さんと俺を見比べて、にこりと笑った……うららさんは全てお見通しなのかもしれない。
「晴樹さん、嵯峨野さんがもうすぐいらっしゃいます。準備のほうは大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫」
この場合、心の準備のことだろう。
「うららさん、隆盛さん。楓が出たときに晴樹さんに無理させないように、しっかり見張ってて下さい」
「はい!」
うららさんは喋れないのでコクコクと頷いて、俺に青いボールの入った紙袋を差し出した。
それを横から見ていた亨さんが、いぶかしんでいる。
「何ですか? それは?」
「あれ? 亨さん知らないの?」
うららさんが首を縦にふった。
「えっと。楓さんはこの青いボールを見るとポチになるんだ」
「ポチ?」
「楓さんがこのボールを見ると別の人格……犬格がでてくるんだ。だから、ピンチの時にこのボールを使かってる。で、ポチと少し遊んでからメガネをかけて亨さんに戻してたんだ」
「そ、そうだったんですか」
亨さんは少し目を見開いて驚いてる。ポチの事を知らなかった事が俺には驚きだったけど。
一回目の時はうららさんがボールを投げて助けてくれたんだった。
じゃあなんで、うららさんはポチの事、知ってたんだろう。まあ、そばにいれば色んな事が分かるってことかな。
「このボールによく似たボールを、私は知っています」
亨さんはがさりと音を立てて紙袋から青いボールを取り出して見つめた。
「子供の頃、家で飼ってた犬のおもちゃによく似ています」
「ふーん」

コンコン。

あ。嵯峨野さんだ。
「どうぞ」
今日の嵯峨野さんのサロンスタイルでスッキリとまとめあげて、人懐っこい笑顔で応接室に入って来た。亨さんは嵯峨野さんをソファに勧めて、これまでの纏った報告を始めた。
「お客様を睨み上げる幽霊についての調査報告書はこちらになります」
その調査報告書には、俺と亨さんで行った調査意外、特に進展のないものだ。
嵯峨野さんは亨さんの報告書を読んで青ざめ頭を抱えた。
「お祓いに行っても効果はないんですね! じゃあ一体どうすれば……!」
「一度嵯峨野さんにとり憑いてるモノを視てみます」
「え? 視てもらえるんですか!?」
「はい」
「お願いします! この怪奇の原因は一体なんなのか、俺は知りたい!」
「承知致しました」
亨さんはその怜悧な瞳を閉ざし、メガネをゆっくりと外した。
やがて。
開かれたその瞳は、妖艶な輝きを持って妖しくひかり、口角がゆっくりととあがる。
優雅に上げられた手は優美な線を描いて、シュっと音を立ててネクタイを外した。部屋には甘い香りが漂う。
楓さんはくすりと妖艶に笑い、俺に微笑んだ。
「久しぶりだね」
「おひさしぶりデス。あの……!楓さんに頼みたいことがあって……!」
「ああ。亨の中から全部見させてもらってたよ。ふふっ。いいもの見させてもらったからね。見物料として今回は視てあげる」
俺はかぁっと顔が赤くなるのを感じた。
楓さん、ぜ、全部見てたのか!?
「ふふっ。赤くなって美味しそうだね。ああ。亨にメッセージはいらないからって伝えておいて」
俺の首筋につぅっと指を滑らせて、楓さんは目を細めた。ぞわわっと肌が泡立つ。俺が睨むと、楓さんは上唇を艶かしく舐めた。
「ますます美味しそうになったね」
俺がたじろくと、隆盛くんが慌ててあいだに入った。
「か、楓さん! ちょ、調査をお願いします!」
「んん? ああ。盛塩くん、今日もいっぱい憑いてるね」
「はぁ」
「さて、そこのホスト」
楓さんが嵯峨野さんにくるりと身を翻すと、嵯峨野さんは圧倒されたように、がばりとクッションに抱きついた。
まぁ。ホストの世界でもこんなに禍々しいフェロモン垂れ流すホストはそうそういないだろうからなぁ。気持ちが分からなくもない。
「は、はい!」
楓さんは目を細めて、嵯峨野さんの頭上を指差した。
「君の憑いてるソレ、生霊じゃない?」
「え? 生霊って?」
「生きてる人間の執念だよ。だから祓えないんだね。たとえ祓っても人の想いは尽きないからね」
「じゃ、じゃあどうすれば!」
「さぁ。知らない。俺は視えるだけ。そんな事分からない」
楓さんはおかしそうにくすくすと笑ったが、嵯峨野さんにとっては笑い事では済まされない。青い顔をして抱きしめたクッションをぎゅうっと握りしめた。
「くそっ!一体どうすれば……!」
「ふふっ。今日の俺は機嫌がいいからね。特別にアドバイスしてあげる。その生霊はたぶん、店の客じゃない? 君の接客した客に思念を飛ばして熱をださせて、まるで君を独り占めしたいみたいだね。死霊には到底できないすごい力だよ。ゾクゾクしない?」
楓さんはうっとりと目を細めて、宙を見つめた。
「ほら。正解。頷いてる。素直な子だね」
「ええっ!? た、助けて下さい! 俺、そんなのどうしたらいいかなんて、分かりません!」
「君。綺麗な顔して他力本願なんて美しくないね」
楓さんはぷいっと顔をそらした。
俺は焦って楓さんの袖を引っ張って頼んでみる。
「ここで見捨てられても、困る!」
楓さんは俺の顔をじいっと見て、憂えた顔でため息をついた。
「君達、本当に分からない? その生霊ふつうの顔してるけどたぶん、霊感の強い子か意志の強い子だね。君の客で、生霊の影響を受けなかった客がいないかい? その客が生霊の主だろうね。生霊も本体には何もしない。それが答えじゃない?」
楓さんはくすくすとおかしそうに笑う。嵯峨野さんは弾けたような声を上げた。
「あ……!志穂だ!」
「えっと、確かグレイスガーデンで嵯峨野さんと飲んでた子? 霊感が強くて熱もださないって言ってた?」
 楓さんはグレイスガーデンでの事も亨さんの中から、視てたんだろう。くすくすと笑ってる。
「正解。後は君がなんとかすればいい。君達二人の関係まで、俺は面倒みられない」
「はい! 志穂はホントいい子なんです。志穂は何も求めず俺をただホストとして立ててくれてました。俺も志穂のこと客としてしか見れませんが、それでも長い付き合いです。生霊のことには触れられませんが、ちゃんと話し合ってみます!」
嵯峨野さんは晴れ晴れとした顔を上げてぺこりと頭を下げた。
「報告書と請求書はあとで亨が、まとめて送る」
「ありがとうございます」
嵯峨野さんは立ち上がって、もう一度丁寧に礼をした。
「ああ。君、ホストなのに男の匂いがする」
「それは俺が男だからでしょう」
「ふーん。まぁ。いいよ。雅人によろしく」
嵯峨野さんは一瞬顔を強ばらせて、それからにこりと笑う。
「また店にも遊びに来てください」
そう言って事務所を後にする嵯峨野さんを見送り、俺は楓さんにふとした疑問をぶつけてみた。
「楓さんも、雅人さん知ってるの?」
楓さんはソファーに身を沈めたまま、くすくすとおかしそうに笑って俺を指先で招いた。
どうやら内緒話のようだ。
俺は楓さんの隣に座ると、楓さんは吐息が触れるほど耳元にその顔を近づけて、小声で話しだした。
「亨がまだ若くて遊び呆けていた時の事だ。雅人と関係を結ぼうとして……」
「ええっ! 亨さん遊び人だったの!?」
「まあ、盛り場に行けば不自由しなかったからね。亨は元々割り切った関係が好きなタイプだ。そこで出会った雅人と意気投合して、彼のマンションに行った」
……なんか過去とはいえ、こんな話を聞くのは複雑な気分だ。
「そこで、雅人とどっちが受ポジションにつくか揉めて、喧嘩別れしてた。面白い話だろう?」
楓さんはその時のことがよっぽど面白かったのか、肩を揺らして笑ってる。
なんだよそれ。痴情のもつれかよ。ってかどっちが『入れる』かで揉めるのかよ。
「むくれなくてもいいよ。亨は晴樹に出会ってから遊ばなくなってる。律儀なヤツだ」
う。でもそれって、心配だな。
「それより晴樹、変なモノに憑かれたね」
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