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第1章 地下1階層
3話 運とポジティブ
しおりを挟む「よし、今日こそフロアキーを手に入れるぞ……!」
夜勤のバイトから帰り、午前中は爆睡。
午後イチで再びユグドラタワーの攻略へ向かう。
これがバイト暮らしの初級ライザーである俺のスタンダードな1日、いわゆる社会人ルーティーンというやつだ。
……今の状況を社会人と呼んで良いのかどうかはちょっと自信がない。
『ライザーカード認証。和取ソラさん、ようこそユグドラタワーへ』
タワーのサポート施設であるユグドラセンターに入り、ユグドラタワーの入り口にある管理機器で入場の受付を行なう。
ここでは『ライザーカード』というアイテムを使用し、生体情報を登録することで、ライザーとしてユグドラタワーで行動することが出来る。
まあ、車の免許証みたいなものだ。
このライザーカードは初めてユグドラタワーへ入る際に自動で生成される、魔石などと同じくタワー産の不思議アイテムだ。
タワー内で手に入るアイテムをデータとして格納できたり、自分のステータスなども確認できる。
一体どんな素材で出来ているのか、折り曲げようとしても傷ひとつ付かない。
『和取ソラさんは現在フロアランク1、初級ライザーです。ユグドラタワー内での活動可能時間は3時間です』
「はは、相変わらず飲み放題の居酒屋みたいな時間制限だ」
タワーの攻略を進めてフロアランクが上がっていけば、活動可能時間も延びていく。
駆け出しの雑魚は安全第一というわけだ。
ちなみにタワー内で活動可能時間に達するとどうなるかというと、カードの特殊効果によりタワーの外へ強制転移させられる。
そして次回入場時の活動可能時間が少し短くなるというペナルティが発生するのだ。
「というわけで活動可能時間は超えないように、でもギリギリまで頑張ろう」
軽く気合いを入れて、ユグドラタワーへと続く入場ゲートをくぐる。
ライザーカードを確認すると、さっきまでは無かった『03:00:00』という時間表示が出現していた。
ここから先は時間勝負……とはいえ、3時間ずっと動きっぱなし、戦いっぱなしは体力が持たないので休憩しつつやっていこう。
「あっソラさんだ! おーい!」
「……ん? あっコハルさん!」
ユグドラタワーに入ってしばらくトンネルのような1本道を歩き、攻略する階層へ向かうための転移装置『リフト』の前までやってくると、その場にいた先客の女の子が話しかけてくる。
「こんにちは、ソラさん! 今日もがんばりましょう!」
「ああ、お互いがんばろうね。今はどの辺を攻略してるの?」
「第20階層です! ここを突破できれば中級ライザーになれるんですが、フロアボスが強くて手こずってるんですよ~!」
この子はライザー2年目の桜ヶ丘コハルさん。
彼女が初めてユグドラタワーの攻略を始めた日に、モンスターに襲われてパニックになっていたのを助けてから仲良くさせてもらっている。
とは言っても、あれから2年近く経ってコハルさんはもう初級から中級に上がるか上がらないかという所まで行っている。
対して俺は……あはは。
「というわけでソラさん、私に追いついてボス討伐手伝ってください!」
「行けるもんなら俺も早くそこまで行きたいよ」
俺が今いる第1階層のボスエリアには1人しか入ることが出来ないが、第11階層以降は複数人で挑むことが出来る。
そして階層が10ずつ上がるごとに同時に挑める人数も増えていくので、意外とボス討伐は簡単……というわけでもなく、色々と制限もあったりするらしい。
まあ、未だに第1階層にいる俺には関係ないのだが。
「ソラさんなら大丈夫です! きっと今までは厄年が続いてただけですから!」
「厄年ってそういうシステムじゃないと思うけど」
「と、とにかく! 運の良し悪しっていうのはどこかでバランスを取ろうとするものです! きっと今日あたり、ババーンとラッキーなことが起こるかもしれませんよっ!」
「そ、そうだね。その精神はとても大事だね」
コハルさん、相変わらず元気でポジティブで良い子だなあ。
こういう子には運も味方するのかもしれない。
ちょっと拝んでおこうかな。パン、パンと。
「(今日こそフロアキーが手に入りますように)」
「ソラさん、なんで私に合掌してるんですか? ご愁傷様ってことですか?」
「違うよ」
「はっ! も、もしかして、私は逆に今までラッキーなことが起きすぎてこれから不運が襲ってくるとか……!? でも大丈夫! 自分の運命は自分で切り開くものですからっ!」
「じゃあさっきの運のバランスがどうとかって何だったのさ」
まあいいや。俺もコハルさんを見習って、ポジティブに行動していこう。
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