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13話 オススメの宿屋
しおりを挟むカラン、コロン。
「す、すいませーん」
…………。
ビストロ・コロポックルの妖精さん問題を解決し、お礼にオススメの宿屋を教えてもらうことに。
昨日はもう時間も遅いということで、厚意でコロポックルに一晩泊めてもらい、翌日以降の宿屋の空きを確認して、タイムさんが予約を入れてくれた。
で、今日はその宿屋に案内してもらったんだけど……
「誰も出てきませんね」
「ここの店主は耳がちょっと遠いからねえ。おーいマスター! 客だよー!!」
「……む?」
「あ、誰か来た」
カウンターの奥から一人のおじいさんが出てくる。す、すごい、白いお髭が床まで届きそう……
「おお、タイムじゃないか。いらっしゃいいらっしゃい」
「昨日“魔通”で予約を入れたベルベルさんだ。ウチの大切なお客さんだから、丁重に頼んだよ」
「はいはい、お任せあれお任せあれ」
魔通っていうのは『魔石通信』っていう、石板のようなものに魔力を込めて文字を書くと、その文字が相手側の石板に表示される、ちょっとした携帯電話みたいなアイテムの事だ。
こういったアイテムは様々な種類の魔石……魔力の結晶のようなものを素材にして作られていて、この世界では『魔道具』と呼ぶんだとか。
「えっと、マスターさん初めまして。わたしはベルベルって言います。しばらくお世話になります」
「はいはい、よろしくね。『金の糸車』へようこそ」
タイムさんに案内してもらった宿屋『金の糸車』は、ごちゃごちゃした王都の城下町から少し外れた場所でひっそりと営業していた。
この辺りは建物が密集してなくて自然も多い。わたしはこういう所の方が落ち着くかも。さすがタイムさんのオススメ。
「タイムさん、昨晩は泊めてもらったうえに、宿屋の予約までしてくれてありがとうございました」
「何言ってんだい。妖精のオムライスの件でベルベルさんに救われたんだ。これくらいお礼にもならないよ」
「それじゃあお客さん、部屋に案内するよ」
「あ、はーい」
「ベルベルさん、ごはん時になったらまたウチの店に来ておくれよ! 娘も喜ぶし、色々サービスするからさ!」
「はい! ありがとうございます!」
こうしてわたしはタイムさんと別れ、マスターさんに宿屋を案内してもらうのだった。
__ __
「そういえば、マスターさんのお名前って……」
「ああ、ワシの名前はモリブデンじゃ。みんなマスターって呼んどるから、マスターで大丈夫じゃ」
「どうしてマスターなんですか?」
「ワシの店は2階が宿屋、1階は夜の間だけ酒場として営業しておるでの」
「ああ! それで酒場のマスターさん!」
「そういうことじゃ……ほれ、ここがベルベルさんの部屋だよ」
『2-2』と書かれたプレートが付いている。ふふ、なんだか学校の教室みたい。2階の2番目の部屋ってことかしら? それに、ちょっと良い匂いがする。どこかでお香でも焚いてるのかも。
「宿賃は素泊まりで1日1000エルじゃ。酒場の食事代は宿泊客なら半額じゃから、気が向いたら寄ってみい……ああそれと、他の部屋へ許可なく入ろうとすると防護結界が発動するので気を付けるように」
「わかりました」
タイムさんがこの宿屋を勧めてくれた理由は、この宿泊料の安さと、各部屋に付いてる防護結界の魔法だ。
店主のマスターさんは、元々は魔法使いとして長年魔物討伐の最前線にいた方らしく、今は引退して道楽で宿屋を経営しているらしい。
おかげでセキュリティ対策バッチリの部屋に泊まれてありがたい限りだわ。
「ちなみに今泊まってるのは、ベルベルさんと隣の部屋にいる女性の旅人だけじゃ。他の人を見かけたら下で酔っぱらった客が上がってきたか、盗賊の類かもしれんから気を付けるのじゃぞ」
「は、はい」
隣に女の人が泊まってるんだ……それに旅人って。どんな人だろう?
「いや、隣の客にも気を付けた方が良いの」
「どうしてですか? ただの旅人さんなんですよね」
「まあ、旅人は旅人なんじゃが……魔女じゃからの。毒リンゴでも食わされんように注意するんじゃぞ。わっはっは」
「た、食べませんよ! まったくもう……って、え? 魔女?」
ガチャッ
「おや、ボクがどうかしたかい?」
ちょうど隣の部屋から出てきたのは、髪を短く切り揃えた長身の女の人だった。うわ、ものすごく顔が整っていらっしゃる……もしかして、これがわたしの……
「……王子様?」
「いや魔女だけど」
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