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#0 秘密の診療室
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ワインレッドの遮光カーテンに手をかけ、そっと中に入る。
キャンドルに似せたほのかな灯り、アロマと消毒液の匂い。そして、彼が身に纏う甘く官能的な香水の香り。
「久しぶり。会いたかったよ」
白いシーツの敷かれた診察ベッド。
そこに優雅に腰かけていたのは、人気アイドル〈dulcis〉のリーダー、アラタだ。
「キスは?」
アラタはごく当然のように言った。
「まだ仕事中です」
思いどおりになるのも癪で、つい強がってしまう。
「俺とのキスを拒めると思ってるんだ」
多くのファンを熱狂させる彼が、今、私一人のためだけにその端整な顔を歪めている。
「おいで」
「ちょ、ちょっと!」
手を引かれて、彼の膝の上にのせられる。
「もう、私はまだ勤務中なの!」
必死に平静を装ったつもりでも、声は情熱を孕んで震えていた。
何度も肌を合わせているのに、彼に触れると、まるで初めて抱かれる夜のような初心な反応を体が返してしまう。
「ふふ。でも身体は正直みたいだよ、愛香」
からかうように囁かれ、熱い吐息が耳元を掠める。
それだけで、制服の下で胸の先がツンと硬くなるのが分かった。
「アジアツアーでずっと会えなかったから。ごめん、寂しくさせて」
「それは、仕方ないよ……」
多忙を極める彼が、帰国早々にこのクリニックへやってきた理由。
表向きは定期的な美肌のメンテナンス。でも、それだけではないはず。
「浮気してない?」
「するわけないでしょ」
「本当かな。証拠は?」
制服のボタンに指がかかる。ひとつ、ふたつと外されて、チラリと淡いブルーのレースがのぞく。
レースと素肌の間に滑り込む指先。
「っん……」
「誰にも触られてない? 克哉にも」
「う、うん……」
バスローブ姿のアラタ。
その胸元からは、鍛え上げられたしなやかな腹筋と、陶器のように滑らかな白い肌が見える。
ステージでは決して見せない、選ばれた者だけが許される特等席。
「ほら、キスして」
彼の手が私の腰を引き寄せると、アラタの熱い昂ぶりも確かに伝わってくる。
「あ……っ」
その感触だけで、下腹部の奥がキュンと疼き、蜜が溢れ出すのが自分でも分かった。
仕事中だという背徳感が、かえって感度を跳ね上げる。
「愛香のここ、もうこんなに熱くなってる」
アラタの指先が制服のスカートをめくり上げ、ストッキング越しに内腿の柔らかい部分をなぞり上げる。
指先が秘めやかな蕾に触れる寸前、私は耐えきれず彼の肩にすがり付いた。
「愛香は俺だけのセラピストだからね」
低い声が鼓膜を震わせ、理性の鎖が音を立てて千切れた。
「アラタ……」
耐えきれず自分から重ねた唇に、アラタは待っていましたと言わんばかりに応えてくる。銀の糸がこぼれ、シーツを汚していく。
「うん、いい子だね」
スカートの中、容赦なく最深部へと潜り込んできた。直接触れられた熱に、私は声を殺してのけぞる。
そのときだ――。
「お取り込み中悪いけど、先にこっちの治療を始めさせてくれないか?」
厚手のカーテンが勢いよく開き、冷ややかな声が響いた。
院長の克哉が、白衣のポケットに手を入れ、眼鏡の奥の瞳で私たちを「観察」するように立っていた。
「か、克哉!」
「こらこら、愛香。ここでは院長だろ」
慌ててアラタの上から降りようとする。しかし、アラタの両腕が私をしっかり抱いて離さない。
「いいところだったのに、もう少し待てないのか、院長先生。オプション料金ならちゃんと支払うよ」
「急な予約は遠慮してもらいたいね。僕にも都合があるんだ。オプションなら、あとでたっぷりご自由に」
「ちょっと、二人ともやめてよ!」
「愛香。はだけた胸元を見せて言っても説得力ないぞ」
克哉の揶揄するような言葉に、顔から火が出るほど熱くなる。タオルで身を隠しても、もう遅い。
「愛香、またあとでね。しっかり俺を癒してくれよ」
アラタは、私がずっと好きだったアイドルで、推しで、そして――私の心も体も支配する、唯一無二の恋人。
「愛香、今夜は残業になってしまうけど、明日は遅刻しないようにね」
克哉は、私のイトコで雇用主でもあり、そして――幼い頃から私を過保護に監視する、兄のような存在。
あの頃は、こんな倒錯した関係に溺れるなんて、夢にも思っていなかった。
国民的アイドルと、クリニックの若き院長。
すべてが狂い始めたのは、数ヶ月前。
――そう。
私が、この重いカーテンの隙間から、絶対に見てはいけない「推しの秘密」を覗いてしまった、あの夜からだった。
キャンドルに似せたほのかな灯り、アロマと消毒液の匂い。そして、彼が身に纏う甘く官能的な香水の香り。
「久しぶり。会いたかったよ」
白いシーツの敷かれた診察ベッド。
そこに優雅に腰かけていたのは、人気アイドル〈dulcis〉のリーダー、アラタだ。
「キスは?」
アラタはごく当然のように言った。
「まだ仕事中です」
思いどおりになるのも癪で、つい強がってしまう。
「俺とのキスを拒めると思ってるんだ」
多くのファンを熱狂させる彼が、今、私一人のためだけにその端整な顔を歪めている。
「おいで」
「ちょ、ちょっと!」
手を引かれて、彼の膝の上にのせられる。
「もう、私はまだ勤務中なの!」
必死に平静を装ったつもりでも、声は情熱を孕んで震えていた。
何度も肌を合わせているのに、彼に触れると、まるで初めて抱かれる夜のような初心な反応を体が返してしまう。
「ふふ。でも身体は正直みたいだよ、愛香」
からかうように囁かれ、熱い吐息が耳元を掠める。
それだけで、制服の下で胸の先がツンと硬くなるのが分かった。
「アジアツアーでずっと会えなかったから。ごめん、寂しくさせて」
「それは、仕方ないよ……」
多忙を極める彼が、帰国早々にこのクリニックへやってきた理由。
表向きは定期的な美肌のメンテナンス。でも、それだけではないはず。
「浮気してない?」
「するわけないでしょ」
「本当かな。証拠は?」
制服のボタンに指がかかる。ひとつ、ふたつと外されて、チラリと淡いブルーのレースがのぞく。
レースと素肌の間に滑り込む指先。
「っん……」
「誰にも触られてない? 克哉にも」
「う、うん……」
バスローブ姿のアラタ。
その胸元からは、鍛え上げられたしなやかな腹筋と、陶器のように滑らかな白い肌が見える。
ステージでは決して見せない、選ばれた者だけが許される特等席。
「ほら、キスして」
彼の手が私の腰を引き寄せると、アラタの熱い昂ぶりも確かに伝わってくる。
「あ……っ」
その感触だけで、下腹部の奥がキュンと疼き、蜜が溢れ出すのが自分でも分かった。
仕事中だという背徳感が、かえって感度を跳ね上げる。
「愛香のここ、もうこんなに熱くなってる」
アラタの指先が制服のスカートをめくり上げ、ストッキング越しに内腿の柔らかい部分をなぞり上げる。
指先が秘めやかな蕾に触れる寸前、私は耐えきれず彼の肩にすがり付いた。
「愛香は俺だけのセラピストだからね」
低い声が鼓膜を震わせ、理性の鎖が音を立てて千切れた。
「アラタ……」
耐えきれず自分から重ねた唇に、アラタは待っていましたと言わんばかりに応えてくる。銀の糸がこぼれ、シーツを汚していく。
「うん、いい子だね」
スカートの中、容赦なく最深部へと潜り込んできた。直接触れられた熱に、私は声を殺してのけぞる。
そのときだ――。
「お取り込み中悪いけど、先にこっちの治療を始めさせてくれないか?」
厚手のカーテンが勢いよく開き、冷ややかな声が響いた。
院長の克哉が、白衣のポケットに手を入れ、眼鏡の奥の瞳で私たちを「観察」するように立っていた。
「か、克哉!」
「こらこら、愛香。ここでは院長だろ」
慌ててアラタの上から降りようとする。しかし、アラタの両腕が私をしっかり抱いて離さない。
「いいところだったのに、もう少し待てないのか、院長先生。オプション料金ならちゃんと支払うよ」
「急な予約は遠慮してもらいたいね。僕にも都合があるんだ。オプションなら、あとでたっぷりご自由に」
「ちょっと、二人ともやめてよ!」
「愛香。はだけた胸元を見せて言っても説得力ないぞ」
克哉の揶揄するような言葉に、顔から火が出るほど熱くなる。タオルで身を隠しても、もう遅い。
「愛香、またあとでね。しっかり俺を癒してくれよ」
アラタは、私がずっと好きだったアイドルで、推しで、そして――私の心も体も支配する、唯一無二の恋人。
「愛香、今夜は残業になってしまうけど、明日は遅刻しないようにね」
克哉は、私のイトコで雇用主でもあり、そして――幼い頃から私を過保護に監視する、兄のような存在。
あの頃は、こんな倒錯した関係に溺れるなんて、夢にも思っていなかった。
国民的アイドルと、クリニックの若き院長。
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――そう。
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