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第2話〈告白編 はじまりのルール〉
職場への電話
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年が明けて、成人式も終わり、なんとなく日常が戻りつつある1月中旬。
今日は、植物園での最終勤務日。
人事異動が発表されてから、後任への引き継ぎと新しい職場への挨拶で、あっという間だった。
年末年始もあったので、体感的には数日といった感じだった。
つまり、あの突然の告白(?)から1ヶ月が経った。
あの日、車に乗るか乗らないか迷っていると、彼の電話が何度か鳴った。
仕方ないと言いながら出ると、相手の女性の声が漏れ聞こえた。要件はこうだった。
『ケイタが急病でラジオの生放送に穴が空く。他のメンバーは別の仕事で代われない。大至急、放送局に来て欲しい』
現金払いに眉をひそめた女性は、やはりマネージャーだったらしい。
『連絡して、必ずだよ』
そう言って、小さな紙片を私に渡すと、申し訳なさそうに車に乗り込み去って行った。
見覚えのある紙片は、植物園の入場チケットだった。
日付スタンプは、9月24日。その裏に、丁寧な字で11桁の番号が書かれていた。
それは今も、スマホケースの中に収まっている。1度も出番はないまま、だ。
翌週の火曜日に来たときに話をしよう。そう思っていたけど来なかった。12月は忙しいと言っていた通りだ。
「サクラちゃん、休憩どうぞ」
「はぁい、いってきます」
お昼の休憩室で、いつも通りお弁当を食べる。
『1月16日(金)サクラちゃんの壮行会、焼き鳥の吟ちゃん、19時開始!』
壁に貼られた張り紙、この達筆は佐藤さんか。私の好きな、炭火焼きの美味しい赤提灯のお店を手配してくれた。
まずい、しんみりすると泣きそうだ。テレビでも見よう!
『続いては、大人気アイドルグループ、ドゥルキスのコウキさんの話題です』
ゴトッ!
手にしたリモコンを床に落としてしまった。
羽田空港の到着口の画像、スーツケースを引きながら歩いている男性が映る。スラッと背が高く、まるでランウェイを歩いているみたい。
『初の単独主演映画の撮影で、年末からフランスに滞在されていましたが、先ほど帰国したところをカメラがおさえました。アンバサダーを務めるイタリアの有名ブランド、BELTA〈ベルト〉で全身コーデをされて……』
画面はスタジオに変わり、コメンテーターが服装に関して、なんだかんだと話はじめた。
「本当にこの子最近よく見るわね」
いつの間にか、事務員の佐々木さんが後ろの席にいたらしく、漬物をパリパリ食べていた。
「サクラちゃんも食べる?」
「いただきます」
差し出されたタッパー。ここは遠慮無くいただく。
佐々木さんの自家製のお漬け物は塩加減が丁度よく、とくに冬の三浦大根の浅漬けは絶品。食べられなくなるのは残念。
「カッコいいわね~。うちの息子と同い年なのに、大違いだわ、比べちゃ失礼だけどさ」
この人、この植物園の常連なんですよ?本当は教えてあげたい。
今週火曜日に来なかった理由は、テレビから流れていたコレか。そういえば、先月からフォローしているコウキのInstagram。大晦日にはフランスからの生配信でインスタライブを行っていた。
ストーリーはほぼ毎日投稿されていた。
自分の姿より、現地の風景な投稿が多い。中の花壇や街路樹、花屋の写真、とにかく植物が多かった。
ファンがそれで喜ぶのかは、ちょっと疑問だけど。
『来月にはアルバムが発売され、春にはドームツアーもはじまります。グループ活動もこれから楽しみですね』
夢でも見ていたのかな?そう思う方がいいような気がする。
電話をかけようとして、何度やめただろうか。時差のこともあるし、そもそも、本当にコウキが出るのだろうか。
このまま自分から電話をしなければ、そして職場が変われば、接点は何もなくなる。
それでいいような気がする。
そのときだ。休憩室の奥、事務所の電話が鳴った。お昼休みで誰もいないらしい。
仕方なく席を立ち、電話を取った。
「お電話ありがとうございます。都会のオアシス、四季園です」
『連絡してって言ったのに』
受話器を持つ手に汗がにじむ。コウキだ。
まさか、職場に電話がかかってくるなんて思ってもみなかった。
「あ、えっと、ごめんなさい……」
『異動するんじゃなかったの?』
電話口から小さなため息が漏れ聞こえる。少しだけ怒ったようなトーン。
「実は今日がここでの最終日です。来週からが、新宿にある本社勤務です」
『え?それなら、羽田から直接そっちに行けば良かったな』
今さっき、テレビで聞いたままの声が、受話器から聞こえてくる。
『今夜、会える?』
「え?」
『ダメ?』
今度はすねたような声。
「でも、今夜はみんなが送別会をしてくれるんです」
『あーー、まぁそうだよね。じゃあ、終わったら迎えに行くから。場所は?植物園の近く?』
どうしよう、嬉しいけど困るな。
『炭火焼き吟ちゃん?名前からして旨そうな店だね。いいね。俺も行こうかな。うそ、冗談だよ。とにかく、終わったら必ず電話して。何時でもいいから』
「はい、わかりました」
『できれば二次会は断ってくれると嬉しい。無理にとは言わないけど』
ほとんどの人が明日も朝から出勤だから、2次会は無いはず。
『会えるの、楽しみしてるから』
そういうと、電話は一方的に切れてしまった。
今日は、植物園での最終勤務日。
人事異動が発表されてから、後任への引き継ぎと新しい職場への挨拶で、あっという間だった。
年末年始もあったので、体感的には数日といった感じだった。
つまり、あの突然の告白(?)から1ヶ月が経った。
あの日、車に乗るか乗らないか迷っていると、彼の電話が何度か鳴った。
仕方ないと言いながら出ると、相手の女性の声が漏れ聞こえた。要件はこうだった。
『ケイタが急病でラジオの生放送に穴が空く。他のメンバーは別の仕事で代われない。大至急、放送局に来て欲しい』
現金払いに眉をひそめた女性は、やはりマネージャーだったらしい。
『連絡して、必ずだよ』
そう言って、小さな紙片を私に渡すと、申し訳なさそうに車に乗り込み去って行った。
見覚えのある紙片は、植物園の入場チケットだった。
日付スタンプは、9月24日。その裏に、丁寧な字で11桁の番号が書かれていた。
それは今も、スマホケースの中に収まっている。1度も出番はないまま、だ。
翌週の火曜日に来たときに話をしよう。そう思っていたけど来なかった。12月は忙しいと言っていた通りだ。
「サクラちゃん、休憩どうぞ」
「はぁい、いってきます」
お昼の休憩室で、いつも通りお弁当を食べる。
『1月16日(金)サクラちゃんの壮行会、焼き鳥の吟ちゃん、19時開始!』
壁に貼られた張り紙、この達筆は佐藤さんか。私の好きな、炭火焼きの美味しい赤提灯のお店を手配してくれた。
まずい、しんみりすると泣きそうだ。テレビでも見よう!
『続いては、大人気アイドルグループ、ドゥルキスのコウキさんの話題です』
ゴトッ!
手にしたリモコンを床に落としてしまった。
羽田空港の到着口の画像、スーツケースを引きながら歩いている男性が映る。スラッと背が高く、まるでランウェイを歩いているみたい。
『初の単独主演映画の撮影で、年末からフランスに滞在されていましたが、先ほど帰国したところをカメラがおさえました。アンバサダーを務めるイタリアの有名ブランド、BELTA〈ベルト〉で全身コーデをされて……』
画面はスタジオに変わり、コメンテーターが服装に関して、なんだかんだと話はじめた。
「本当にこの子最近よく見るわね」
いつの間にか、事務員の佐々木さんが後ろの席にいたらしく、漬物をパリパリ食べていた。
「サクラちゃんも食べる?」
「いただきます」
差し出されたタッパー。ここは遠慮無くいただく。
佐々木さんの自家製のお漬け物は塩加減が丁度よく、とくに冬の三浦大根の浅漬けは絶品。食べられなくなるのは残念。
「カッコいいわね~。うちの息子と同い年なのに、大違いだわ、比べちゃ失礼だけどさ」
この人、この植物園の常連なんですよ?本当は教えてあげたい。
今週火曜日に来なかった理由は、テレビから流れていたコレか。そういえば、先月からフォローしているコウキのInstagram。大晦日にはフランスからの生配信でインスタライブを行っていた。
ストーリーはほぼ毎日投稿されていた。
自分の姿より、現地の風景な投稿が多い。中の花壇や街路樹、花屋の写真、とにかく植物が多かった。
ファンがそれで喜ぶのかは、ちょっと疑問だけど。
『来月にはアルバムが発売され、春にはドームツアーもはじまります。グループ活動もこれから楽しみですね』
夢でも見ていたのかな?そう思う方がいいような気がする。
電話をかけようとして、何度やめただろうか。時差のこともあるし、そもそも、本当にコウキが出るのだろうか。
このまま自分から電話をしなければ、そして職場が変われば、接点は何もなくなる。
それでいいような気がする。
そのときだ。休憩室の奥、事務所の電話が鳴った。お昼休みで誰もいないらしい。
仕方なく席を立ち、電話を取った。
「お電話ありがとうございます。都会のオアシス、四季園です」
『連絡してって言ったのに』
受話器を持つ手に汗がにじむ。コウキだ。
まさか、職場に電話がかかってくるなんて思ってもみなかった。
「あ、えっと、ごめんなさい……」
『異動するんじゃなかったの?』
電話口から小さなため息が漏れ聞こえる。少しだけ怒ったようなトーン。
「実は今日がここでの最終日です。来週からが、新宿にある本社勤務です」
『え?それなら、羽田から直接そっちに行けば良かったな』
今さっき、テレビで聞いたままの声が、受話器から聞こえてくる。
『今夜、会える?』
「え?」
『ダメ?』
今度はすねたような声。
「でも、今夜はみんなが送別会をしてくれるんです」
『あーー、まぁそうだよね。じゃあ、終わったら迎えに行くから。場所は?植物園の近く?』
どうしよう、嬉しいけど困るな。
『炭火焼き吟ちゃん?名前からして旨そうな店だね。いいね。俺も行こうかな。うそ、冗談だよ。とにかく、終わったら必ず電話して。何時でもいいから』
「はい、わかりました」
『できれば二次会は断ってくれると嬉しい。無理にとは言わないけど』
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『会えるの、楽しみしてるから』
そういうと、電話は一方的に切れてしまった。
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