【完結】ドジな新人マネージャー♂に振り回される、クールなアイドルの胸キュン現場 <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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1.今日からアイドルのマネージャー

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「湊、明日からTOMARIGIの現場マネージャーをやってくれないか?」


芸能事務所に就職して2年目の春。生活が一変する瞬間だった。


広報部の中でも、地道な事務仕事をしていた僕。現場仕事なんて、考えたことも、希望したこともない。

それなのに、デビューしたばかり、人気急上昇中のアイドルグループ『TOMARIGI』のマネージャーだって?


「え、でも僕、マネージャー経験なんて……」

「人手不足なんだよ。あんなに売れるとは予想してなくてな」

「明日からって、言いました? 無理ですよ、そんな急に」

「無理でもやるのがサラリーマン!おっと、これは今のご時世は禁句だな。まぁ、大丈夫だ。お前は真面目だし、頭もいい」


上司はそれだけ言うと、僕の背中をバンッと叩く。


「夕方には辞令が出るから。あとは、チーフマネージャーの泊に聞いてくれ。湊と泊、いいコンビじゃないか!」


大笑いをしながら、オフィスを出て行ってしまった。


こうして、僕は新しい現場に放り出されることになった。
そして迎えたTOMARIGIの現場初日。僕は朝から心臓が飛び出しそうだった。


「そんなに緊張しないで、みんなイイコだから」


チーフマネージャーの泊さんに連れられて、テレビ局の楽屋へとやって来た僕。


「は、初めまして、今日からTOMARIGIの現場マネージャーを務めさせていただきます、湊直矢、23歳です!」


緊張で声がひっくり返りそうになりながら、控え室のドアを開ける。中にいたのは、噂に違わぬイケメンが三人。


「あは、すごい元気だ。今日からよろしくおねがいします」


明るく人懐っこい笑顔をくれたのは、バラエティ番組でも注目されている、片倉理久。20歳。


「湊さん、俺より年上なんですね。見えませんでした」


感心したように言うのは、浅見蒼真。グループ最年少の18歳。つい最近まで高校生だったのに、大人びた落ち着いた雰囲気だ。


「こら、蒼真。それは失礼な物言いだよ」


最後の一人、伊勢優。グループ最年長22歳。クールで毒舌と聞いていたがーーー。


「すみませんね、悪意は無いけど、すぐに思ったことを口に出すから」


伊勢くんを初めて間近で見た瞬間、僕は息を呑んだ。
色素の薄いブラウンの瞳が、とてもキレイだった。そう、どこかで見たことがある。


「湊さん?」


無言になった僕に、怪訝そうな顔をする伊勢くん。


「それで、この後のスケジュールは?」


蒼真くんがメイクを始めながら訪ねてくる。


「あ、えっと!」


僕は慌てて手帳を出そうとした。ポケットをまさぐる。緊張で手が震える。間違えて名刺入れを取り出した。手が滑り、落とした途端に、床に散らばる僕の名刺。


「あ、すみません!僕、本当にドジで…」

「あーあー、大丈夫ですか?」


片倉君が慌てて拾ってくれる。なんて優しいんだ。蒼真くんは珍しい生き物を見るような目をしている。

そして、伊勢くんは冷たい視線で僕を一瞥した。そして、一言。


「大丈夫ですか?スケジュール管理なら、AIにでも任せた方が早いかな」


いきなり毒舌!

心臓がドクドクと打ち、手のひらにじっとり汗がにじむ。


「伊勢も人のこと言えない悪意がある分、蒼真よりタチが悪い。でも、まぁ、伊勢は口が悪いけど、ほんとは優しいからね。湊さん、心配しないで。ゆっくり慣れてくれたらいいよ」

片倉くんが、僕の肩を叩いてフォローしてくれた。蒼真くんは、我関せずと、自分のダンス動画を見ていた。


その後のスケジュールは、案の定ドタバタだった。

休憩中、僕は皆の飲み物を運ぶため、廊下を小走りで進んでいた。すると、足元のコードにつまずいて、バランスを崩してしまった。


「あ……!」


もうダメだ、と目を閉じたその瞬間、横から伸びてきた手が僕の腕を掴んだ。ゴトッとペットボトルが3本、床に転がっていく。


「危ない」

目を開けると、すぐ横に伊勢くんの顔があった。僕の腕を掴んだまま、彼は心底呆れたような表情をしている。でも、その声は僕の耳にはやけに優しく響いた。


「定番のドジネタですね」


そう言うと、伊勢くんは僕から手を離し、何事もなかったかのように立ち去っていった。

伊勢くんの腕の温かさが、手のひらにじんわりと残っていた。そして、その一言に、僕の胸はドキドキと高鳴り続ける。

控え室に戻ると、片倉くんと蒼真くんが心配そうに駆け寄ってきた。


「湊さん、遅かったですね」

「オレのコーラ、買ってきてくれました?」

「はい、遅くなってすみません」


片倉くんがキャップに手をかける。


「あ!待て、片倉!」


伊勢くんの慌てた声と同時に、プシュッという音。そして、茶色い泡が勢いよく吹き出した。


「うわっ!あわわわわ!」

「ああ!やめろばか!」


まるで野球選手のビールかけのように、コーラの泡が蒼真くんに振りかかる。


「これ、衣装だぞ!」

「あぁっ!ご、ごめんなさい!僕が走ったから…!」


僕は慌ててハンカチを出そうとするが、それより早く、伊勢くんがタオルを渡した。



そんな失敗だらけの初日が終わり、ようやく一人になった帰り道。僕は今日一日のことを思い出していた。

初日の失敗。伊勢くんの冷たい言葉。クールな顔の裏にある、あの優しい声。僕を支えてくれた彼の腕の温かさ。


そういえば、伊勢くんの目。色素の薄いブラウンの瞳が、どこかで見たことがあるように思っていた。あれは、昔飼っていた愛犬の目だ。
僕が疲れて帰った時も、失敗して落ち込んだ時も、まっすぐ僕を見つめてくれた、あの犬の目。


それは、毒舌なんかじゃ全然上書きできないくらい、僕の心に強く残っていた。
僕は気づいた。このドキドキは、ただの緊張だけじゃない。
明日も、また彼に会える。そのことが、僕を少しだけワクワクさせていた。

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