6 / 15
共通章
◆5 籠絡
「まるで日本人形じゃないか……!言葉を失ってしまうな。千種が華夜さんのことを人に話したがらない理由が分かったよ」
「何?」
「迂闊に他人の目に触れさせるのが嫌なんだな」
「人を嫉妬心の塊りみたいに言わないでくれ」
実際、そうなんだろ?と揶揄われ、私は桐原の肩を小突いた。
「……お兄様と桐原様は、とても仲がよろしいのですね」
「そうなんです」
「そう見えるだけだよ」
「おい」
今度は桐原が私の肩を叩く。
戯れ合うようになってしまい、私は若干気恥ずかしくなった。
華夜はまだ十六歳。
私のことを未だにお兄様と呼ぶくらい、まだ幼い所がある。
そんな華夜の前では、私はいつも必要以上に大人らしく紳士的に振る舞っていた。
友人とふざけ合う今の私を見たら――いつになく子供っぽいと思われたかもしれない。
「ふざけていないで、そろそろ準備に入ろう」
「分かったよ」
軽く咳払いをして桐原の背中を押しやり、画材の置いてある場所に促す。
イーゼルや、油絵具やパレットなど、そういった物が全て珍しいらしく、華夜は準備をする私達の傍で、じっと様子を見守っている。
「今日は下描きを兼ねて、貴女の姿をスケッチしたいのですが」
「はい……私はどうしたら?」
「せっかく天気が良いから、庭に椅子を出して座って貰えたら――いいよな、千種?」
「ああ、勿論。椅子を運ぼうか」
皆で庭に移動し、椅子やイーゼルをセットして、降り注ぐ光に囲まれた緑の芝生の上で二人は向き合った。
少し大きめの敷物なども準備して貰えたので、私はそこに胡座をかいて二人を見守った。周りには画材と、お手伝いさんの好意で置かれたお茶や焼菓子まであって、まるでピクニックのようである。
「……で、君はお目付役みたいにずっとそこにいるのかい?」
「当然だ。君みたいに手の早い男と、華夜を二人きりに出来る訳がない」
「!?」
「物騒なことを言わないでくれ。華夜嬢が走って逃げ出しそうな顔になったぞ」
「わ、私は、そんな……!?」
桐原に揶揄われて、華夜の顔が赤くなる。
「ああ、そういう表情もいいですね」
そんな風に褒められ、見詰められて、華夜は益々照れている。
ふと。私は、笑顔のまま昏い感情に囚われた。
華夜の反応に、二人のやり取りに、胸が痛んだのは――どういう訳か。
二人の様子を見ていたら、自分も、今の華夜と同じだったのだろうか、と。
複雑な感情が湧いてきた。
彼のモデルになって、ちょっとした表情の変化を褒められたり、揶揄われたり。
話しているうちに、心の裡を全て把握されているように感じて。
けれど、それが不快ではなかった。
自分を、真に理解してくれるのは、目の前のこの男だけなのではと――
いつの間にかそんな風に思うようになっていた。
……彼にしたら、子供をあやすように簡単なことだったのか?
世間知らずの華族の一人息子。
その心を籠絡することなど、児戯にも等しい遊戯だと、彼からは見えていたとしたら――
……心に浮かぶ暗い考えを、私は振り払った。
何故、急にそんな卑屈な思いに囚われてしまったのだろう。
「何?」
「迂闊に他人の目に触れさせるのが嫌なんだな」
「人を嫉妬心の塊りみたいに言わないでくれ」
実際、そうなんだろ?と揶揄われ、私は桐原の肩を小突いた。
「……お兄様と桐原様は、とても仲がよろしいのですね」
「そうなんです」
「そう見えるだけだよ」
「おい」
今度は桐原が私の肩を叩く。
戯れ合うようになってしまい、私は若干気恥ずかしくなった。
華夜はまだ十六歳。
私のことを未だにお兄様と呼ぶくらい、まだ幼い所がある。
そんな華夜の前では、私はいつも必要以上に大人らしく紳士的に振る舞っていた。
友人とふざけ合う今の私を見たら――いつになく子供っぽいと思われたかもしれない。
「ふざけていないで、そろそろ準備に入ろう」
「分かったよ」
軽く咳払いをして桐原の背中を押しやり、画材の置いてある場所に促す。
イーゼルや、油絵具やパレットなど、そういった物が全て珍しいらしく、華夜は準備をする私達の傍で、じっと様子を見守っている。
「今日は下描きを兼ねて、貴女の姿をスケッチしたいのですが」
「はい……私はどうしたら?」
「せっかく天気が良いから、庭に椅子を出して座って貰えたら――いいよな、千種?」
「ああ、勿論。椅子を運ぼうか」
皆で庭に移動し、椅子やイーゼルをセットして、降り注ぐ光に囲まれた緑の芝生の上で二人は向き合った。
少し大きめの敷物なども準備して貰えたので、私はそこに胡座をかいて二人を見守った。周りには画材と、お手伝いさんの好意で置かれたお茶や焼菓子まであって、まるでピクニックのようである。
「……で、君はお目付役みたいにずっとそこにいるのかい?」
「当然だ。君みたいに手の早い男と、華夜を二人きりに出来る訳がない」
「!?」
「物騒なことを言わないでくれ。華夜嬢が走って逃げ出しそうな顔になったぞ」
「わ、私は、そんな……!?」
桐原に揶揄われて、華夜の顔が赤くなる。
「ああ、そういう表情もいいですね」
そんな風に褒められ、見詰められて、華夜は益々照れている。
ふと。私は、笑顔のまま昏い感情に囚われた。
華夜の反応に、二人のやり取りに、胸が痛んだのは――どういう訳か。
二人の様子を見ていたら、自分も、今の華夜と同じだったのだろうか、と。
複雑な感情が湧いてきた。
彼のモデルになって、ちょっとした表情の変化を褒められたり、揶揄われたり。
話しているうちに、心の裡を全て把握されているように感じて。
けれど、それが不快ではなかった。
自分を、真に理解してくれるのは、目の前のこの男だけなのではと――
いつの間にかそんな風に思うようになっていた。
……彼にしたら、子供をあやすように簡単なことだったのか?
世間知らずの華族の一人息子。
その心を籠絡することなど、児戯にも等しい遊戯だと、彼からは見えていたとしたら――
……心に浮かぶ暗い考えを、私は振り払った。
何故、急にそんな卑屈な思いに囚われてしまったのだろう。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
寄生虫の復讐 ~美咲の冷徹な一刺し~
スカッと文庫
ミステリー
「お前みたいな寄生虫はゴミだ」
10年尽くした夫・雅也から突きつけられたのは、離婚届と不倫相手。
彼は知らない。私が家を飛び出した「サカモト・ホールディングス」の令嬢であることを。
そして明日、彼が人生を賭けて挑む調印式の相手が、私の実父であることを。
どん底に叩き落とされたサレ妻による、容赦なき「経済的破滅」の復讐劇。
都合のいい女をやめた日、私は空へ戻る
凪ノ
恋愛
自他ともに認める禁欲主義の御曹司と付き合って四年目、彼は今もなお、彼女を拒んでいた。
そこで小林時絵(こばやし ときえ)は母親に電話をかけた。
「お母さん、前に言ってたパイロットの面接、もう手配してもらえる?」
電話の向こうで、時絵の母は驚きを隠せなかった。
「本当なの?でも、海浜市に残って結婚するって言ってたじゃない……あんなに好きだったパイロットの仕事も全部諦めたんじゃなかったの?」
薄暗い光の中、彼が夢中でその女に手を伸ばし、理性を失っていく彼の姿を眺めながら──
時絵は自嘲的に笑った。
──H市に戻れば、また自分のキャリアを取り戻せる。
これからはまた、大空を自由に飛ぶパイロット、小林時絵として生きていく。
不倫に溺れた……惨めな女なんかじゃなくて……
『毒見役の下級妃は、今日も笑顔で後宮の毒を食べきる』
なつめ
ミステリー
華やかな絹、甘い香、磨き上げられた玉の宮殿。
けれど後宮の食卓には、いつだって目に見えない牙が潜んでいる。
名ばかりの下級妃として後宮に入れられた少女、蘭 瑶月(らん ようげつ)。
慎ましく、従順で、いつもやわらかく笑っている彼女には、誰にも知られていない秘密があった。
それは、毒に耐える身体を持っていること。
そして、ひと匙の羹、一滴の茶、一片の菓子に潜む異変を、舌で見抜けること。
毒見役として使い潰されるはずだった瑶月は、今日も笑って箸を取る。
口に入れるたびに分かるのは、毒の種類だけではない。
それを盛った者の焦り、憎しみ、嫉妬、祈りに似た執着まで、味は残酷なほど雄弁だった。
これは、最も低い場所に押し込められた妃が、
美しい笑顔のまま後宮の悪意を食べ尽くし、
やがて誰にも見えなかった真実へ辿り着く物語。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。